ビジネス法務

【契約書のトリセツ】物価変動で価格は変えられる?契約に入れておきたい「調整条項」の書き方

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1. はじめに

「すみません、材料費が上がってしまって…当初の契約金額より1割アップでお願いできませんか?」

そんな相談をしたくなること、ありませんか?
近年、原材料や資材の高騰を背景に、“あとから金額を変えられるのか”という問題が現場で頻発しています。

しかし――

契約書って、いったん締結したらそのままで変更はできないのでは?
見積とのズレがあっても、価格は固定なのでは?

今回はこのような疑問にお答えしながら、
「物価変動調整条項」の考え方と、実務で使える条文の設計ポイントを解説します。

※本記事は契約実務に関する一般的な情報提供を目的としています。特定の契約への法的助言ではありません。個別の判断については、必ず専門家にご相談ください。


2. 原則として価格は変えられない

契約書を締結した以上、その金額が拘束力を持つのが法律上の原則です。

いくら原材料が高くなろうと、「もう契約は済んでますよね?」と言われれば、
相手の同意なく勝手に価格を変更することはできません。


3. では、物価が変動したらどうする?

実際のビジネスの現場では、1年単位のプロジェクトもあれば、
長期取引や継続契約なども多く、当初の価格設定では赤字になるリスクも出てきます。

「契約後に情勢が変わったのに、価格が見直せない」のは、
受注側にとっては大きなダメージとなります。

一方、発注側としても「その都度もめるくらいなら、最初にルールを決めておきたい」と考えるケースもあります。


4. 「調整条項」を入れるという考え方

こうした不確実性に備える方法が、「価格調整条項」「物価変動条項」と呼ばれるものです。

あらかじめ契約書の中に、

  • 価格に影響を及ぼす事象(例:物価、原材料費、税負担など)
  • 一定の変動があったときに価格を協議・変更できるルール

を定めておくことで、後から話し合うための“法的な入り口”を作ることができます。


5. 実務で使える物価変動調整条項の例

以下に、目的や取引規模に応じた調整条項のサンプルをいくつかご紹介します。


📝【例1】もっとも基本的なタイプ

第○条(価格の変更)  
本契約締結後、著しい物価の変動、公租公課の改定、または原材料価格の高騰等があった場合、当事者は協議のうえ、契約金額の変更について合意することができる。

▶ シンプルかつ広く使える汎用型。多くの業種で応用可能。


📝【例2】客観的な基準を設けたタイプ

第○条(価格の見直し)  
主要原材料の市場価格が契約締結時より10%以上上昇した場合、乙は甲に対して契約金額の見直しを申し入れることができる。甲はこれに誠実に協議し、必要に応じて価格を改定する。

▶ 客観性を持たせることで、「どこからが調整対象か」が明確になります。


📝【例3】相場連動型の高度なタイプ

第○条(価格調整)  
契約対象物に関する主要原材料について、日本経済新聞社が公表する○○指数により、契約締結時から15%以上価格が変動した場合、当事者は協議のうえ契約金額の改定を検討するものとする。

▶ 市場指標と連動させたプロフェッショナル仕様。大口取引などで有効です。


6. 書くときの注意点と工夫

調整条項を入れる際には、以下のようなポイントを意識すると実務で活かしやすくなります。

✅ 「協議」と「改定可能」の線引き

単に「協議する」とだけ書くと、合意に至らなければ意味がないことも。
「協議のうえ改定できる」と明記することで、現実的な交渉の道が開かれます。

✅ 数値や条件を具体的に

「著しい」など抽象表現では解釈にばらつきが出やすく、揉めごとの種になります。
可能であれば変動幅の数値や、判断のための根拠資料(指標)を明記しましょう。

✅ 双方の立場を尊重する

調整条項は、一方的に有利な内容にすると契約交渉で敬遠されます。
「受注側にも発注側にも誠実な運用が求められる」という設計が大切です。


7. まとめと今後の備え方

契約は「今の約束」を固定するだけでなく、
「未来にどう対応するか」のルールを含めることもできます。

物価や原価が大きく動く時代において、
調整条項はトラブルを未然に防ぐ“安全弁”のような存在

価格が動くリスクを恐れるのではなく、「動いたときに話し合える契約」を準備しておくことが、
実務での安心につながります。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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