ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. はじめに
- 2. 契約書は“価格交渉”のあとが本番
- 3. “損しない”契約書に必要な4つの視点
- ① 品質と仕様の明確化
- ② 納期と遅延対応のルール
- ③ 契約不適合・返品対応
- ④ 支払条件と手数料負担
- 4. 契約書チェックは購買のコスト削減施策
- 5. 社内連携で“契約リテラシー”を高めよう
- 6. まとめ:価格だけ見ていては損をする
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. はじめに
「価格を下げられたから、いい取引だった」
果たしてそれは、本当に“得をした”と言えるでしょうか?
購買の現場では、取引価格の交渉が重視されがちですが、値引き交渉がうまくいったとしても、契約書の中身に不備があれば、結果的に損をすることもあります。むしろ、価格よりも重要なリスクヘッジのポイントが、契約書には数多く存在するのです。
本記事では、購買担当者が最低限押さえておきたい“契約書の読み方”と、“価格だけにとらわれない実務の視点”について、具体的なチェックポイントを交えながら解説していきます。
2. 契約書は“価格交渉”のあとが本番
購買業務のなかでも、価格交渉は花形とされる場面です。「〇%の値引きに成功した」「リピート割引を獲得できた」など、数値としての成果が見えやすいため、社内評価にもつながりやすいでしょう。
しかし、価格交渉が成功したあとに続くのが「契約書の取り交わし」。ここで確認が甘いと、「安かろう悪かろう」の慣用句のごとく、次のような“後出しのトラブル”が発生します。
- 安く仕入れたけど納期遅れで生産に支障
- 不良品の返品対応ができず、二重コストが発生
- 契約解除条件が不利で継続的に損をする
こうした事態を防ぐには、「価格が最優先、契約書は二の次」ではなく、「価格と契約条件は車の両輪のようなもの」という考え方が重要です。
3. “損しない”契約書に必要な4つの視点
価格交渉で有利な条件を得たあと、契約書で確認すべきは次の4つの視点です。
- 品質と仕様が明確か
- 納期と遅延対応のルールがあるか
- 不具合発生時の責任が整理されているか
- 支払条件や手数料負担が明記されているか
価格に目が行きがちな購買ですが、実は「納品されるまで」「使い始めてから」こそが勝負です。上記について1つずつ詳しく見ていきましょう。
① 品質と仕様の明確化
購買契約の基本は「何を、どんな基準で、どれだけ納品するのか」です。ここが曖昧なまま契約してしまうと、いざというときの返品・再製作・責任追及が困難になります。
✅チェックポイント:
- 商品名、型番、仕様書、図面が契約書や添付資料に明記されているか
- 試作品やサンプルがある場合は、それが基準として明示されているか
- 「相手の判断に任せる」ような曖昧な表現になっていないか
例:「品質は買主が作成した仕様書によるものとする」などの一文があるだけで、不良品時の交渉はグッと有利になります。
② 納期と遅延対応のルール
安く仕入れても、納期に遅れて製造や納品に支障が出れば、結果的に会社全体に大きな損失を生みます。
✅チェックポイント:
- 納期がカレンダー日付で明記されているか(「月末まで」など曖昧な記述はNG)
- 遅延があった場合の通知義務や、ペナルティ(違約金)の有無
- 「不可抗力条項」(自然災害・物流遅延などやむを得ない事態での責任免除)の記載
特に注意したいのが、「遅延は仕方ないから見逃そう」という社内文化です。契約書にルールがなければ、損しても泣き寝入りになるのです。
③ 契約不適合・返品対応
納品後に不良品や誤納品が判明した場合、それにどう対応するかは、契約書次第です。ここが曖昧だと、相手に「対応義務はない」と主張されてしまいます。
✅チェックポイント:
- 受入検査(納品後何日以内に検品/通知すべきか)の規定
- 不適合が発覚した際の対応方法(修理/返品/代品納入など)
- 発生した費用(返送料、再納品費用など)の負担者はどちらか
- 「買主に責任がない限り」など責任逃れにつながる文言がないか
契約書では具体的に「契約不適合責任」や「製造物責任(PL法)」といったタイトルが重要ポイントです。自社が損をしないためには、初期対応の期限と手順を明確にすることがカギです。
④ 支払条件と手数料負担
「安く買えた!」と思っても、支払いサイトが短かったりすると、実質的に割高になります。
✅チェックポイント:
- 請求書の締め日/支払日の明記
- 振込手数料の負担区分(「買主(お金を支払う側)負担」が原則だが明記しておくのが望ましい)
- 「納品完了・検収後に請求可」などの検収条件の有無
4. 契約書チェックは購買のコスト削減施策
契約書をきちんと確認した上で締結する体制を整備することは、単なる“形式的な作業”ではありません。むしろ、目に見えない損失(返品、再発注、納期対応の人件費など)を防ぐコスト削減策なのです。
例:
- 検収条件を定めておけば、契約不適合対応の判断が迅速になる
- 納期周りを正確に規定しておけば、生産計画の安定につながる
- 一般的な契約条件(一般条項)を明確にすれば、不良取引先を早期に切ることができる
“価格交渉”も重要ですが、その成果を活かすためには、契約書という「実行の仕組み」が必要不可欠です。
5. 社内連携で“契約リテラシー”を高めよう
契約書は購買部門だけで完結するものではありません。法務や総務、現場部門との連携が、契約精度を一段高めるカギになります。
✅連携のすすめ方:
- 契約書ドラフト段階で法務・総務と共有
- 納期・品質条件は、現場や技術部門とも調整
- トラブル対応履歴を部内でデータベース化
社内で情報が分断されていると、契約内容と実態がズレてしまうこともあります。自部門で防げる範囲のリスクは、日常的に共有・連携することで予防できます。
6. まとめ:価格だけ見ていては損をする
購買業務において「価格」は確かに重要な指標です。
しかし、それは「契約という仕組みの中の一部」にすぎません。
本当に“損をしない”購買をするには、契約書の知識が欠かせません。
品質・納期・不具合対応・支払条件など、あらゆる面で不利益を回避するためのルールを明文化し、相手と合意形成を図ること。これこそが、購買担当者が果たすべき本質的な役割です。
「契約書?詳しくないから…」ではなく、「これは自分の会社や仲間たちを守る道具だ」と捉えて、最低限の知識を備えておきましょう。
契約書を読める購買担当者は、社内外から信頼される存在になります。
それは、数字に現れない“大きな武器”です。

【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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