ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに
「この契約書、どこをチェックすればいいんだろう?」
日々の業務で契約書に関わる機会があっても、内容の確認をどう進めるべきか迷ってしまう──そんな経験はありませんか?
本記事では、総務・経理・営業事務の皆さんが、実務で最低限押さえておきたい契約書チェックの“基本のキ”をわかりやすく解説します。法律の専門知識がなくても、確認すべきポイントを体系的に理解すれば、トラブルの芽を摘み、業務をスムーズに進めるための大きな武器になります。
契約書をチェックするのは誰の仕事?
契約書のチェックといえば「社長の仕事」「専門家の仕事」「法務部の仕事」というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、実際には中小企業やスタートアップでは法務部門が存在しないことも少なくありません。
そのため、現場で契約実務を担うのは、
- 総務:契約書の作成補助、押印管理、契約書ファイルの保管
- 経理:金額、支払条件、消費税の記載確認、請求書との整合
- 営業事務:納期や範囲、業務フローとの整合性チェック
といった、バックオフィスの実務担当者の皆さんです。つまり、「契約書に詳しくないから……」では済まされないのが実態なのです。
「とりあえず印鑑だけ」では危険な理由
営業部門が契約交渉を終え、「とりあえず印鑑だけお願いします」と契約書が総務に回ってくる。これは、よくあるシチュエーションです。
しかし、内容をよく確認せずに印鑑を押してしまうと、以下のような問題が起こり得ます:
- 支払条件が買手にとって一方的に有利
- クレーム対応を無償で延々と求められる可能性がある
- 契約解除条項が片務的で、取引停止リスクを背負う
つまり、契約書は「押す前に読む」ことが鉄則です。押印したあとは、契約条件に同意した証明となってしまうため、確認不足が会社全体のリスクに直結します。
現場で役立つ!契約書チェックの7つのポイント
ここからは、総務・経理・営業事務の皆さんが最低限確認しておきたいポイントを7つに分けてご紹介します。
1. 契約当事者の確認
契約は、誰と誰の間で結ばれているかが非常に重要です。特に注意すべきは「相手が法人か個人か」「登記簿上の名称かどうか」です。
✅ チェックリスト:
- 相手の名称や代表者名は正式名称か(略称ではないか)
- 住所が記載されているか(契約トラブル時の通知に必要)
- 法人である場合、登記簿と一致しているか
相手方が「株式会社〇〇」と名乗っていても、実際には登記されていないケースもあります。信用調査の観点からも、契約書に記載された情報は正確性が求められます。
【ご参考】
2. 契約の目的・業務範囲
「何のための契約なのか」が曖昧だと、あとで「これは契約に含まれていない」と言われることがあります。
✅ チェックリスト:
- 「本件業務」や「目的物」が具体的に記載されているか
- 作業内容や成果物の仕様書が添付されているか
- 口頭で話していた内容がきちんと文面に反映されているか
営業事務の方が業務の現場を把握している場合は、特にこの部分の不一致に気づける貴重な存在となります。
3. 契約期間・更新・解除のルール
契約期間の設定や自動更新の条件を確認しないまま契約すると、更新忘れや継続コストの発生など、想定外のリスクを抱えることになります。
✅ チェックリスト:
- 契約の開始日と終了日が明確に記載されているか
- 自動更新の有無と更新条件
- 中途解約や解除の条件(違約金が発生するか)
「期間満了の〇か月前までに文書で通知しないと自動更新される」という記載も多いため、注意が必要です。
4. 報酬・支払条件の確認
経理担当の方が最も注視すべきポイントです。数字の整合性はもちろん、現実の支払フローに合っているかどうかも確認しましょう。
✅ チェックリスト:
- 報酬額が「税込」「税抜」のどちらか明記されているか
- 支払サイト(締日/支払日)が明示されているか
- 振込手数料の負担はどちらか
また、「請求書を提出した日から●日後」といった条件が実際の業務フローと食い違っていないかも大切な確認ポイントです。
5. 損害賠償・契約不適合責任
納品後に発覚した不具合や、成果物の不備について、どこまで責任を取るのかが明文化されているかを確認しましょう。
✅ チェックリスト:
- 契約不適合責任の期間(通常は6か月〜1年程度)
- 責任を負う場合の修正方法や代替措置
- 損害賠償の上限額(総額●円まで/支払済金額の範囲内など)
「原因が自社の責任かどうか不明でも全面的に補償」という契約条件とならないように十分注意しましょう。
6. 契約解除に関する条項
途中で契約を終了させたい場合に、どういう条件が必要かが明確になっているかを確認します。
✅ チェックリスト:
- 相手の契約違反、信用不安や倒産など、解除できる条件が定められているか
- 通知の方法(書面/メール/口頭など)
- 解除に伴う損害賠償の取り扱い
解除条項が曖昧だと、トラブルが起きても契約を終了させられないリスクがあります。
7. 書きぶりや表現の統一
内容は合っていても、用語の使い方や文体にばらつきがあると、契約書全体の信頼性が下がります。
✅ チェックリスト:
- 表記揺れ(「本商品」/「本件商品」など)の有無
- 文末表現が「です・ます調」or「である調」で統一されているか
- 「甲乙表記」と「当社/お客様」などが混在していないか
「読む気がしない契約書」ほど、署名をためらわれるものはありません。
表現の工夫でトラブルを防ぐ
近年では、企業規模にかかわらず「読みやすい契約書」を目指す動きが増えています。たとえば、
- 「甲」「乙」をやめて「当社」「お客様」と記載する
- 無機質な表現ではなく、柔らかく配慮ある言い回しにする
- 条文を番号付きの箇条書きにして視認性を高める
といった工夫により、相手に好印象を与えるだけでなく、内容の理解度も高まり、結果的に交渉がスムーズになる傾向があります。
部門ごとの視点と注意点
契約書は一つの文書ですが、部署ごとに見るべきポイントは微妙に異なります。
部署 | チェックポイントの例 |
---|---|
総務 | 押印の管理、契約期間、相手の正式名称、記名押印の有無 |
経理 | 金額、支払条件、消費税、振込手数料、支払スケジュール |
営業事務 | 納期、範囲、検収条件、成果物の仕様書との整合性 |
それぞれの立場から補完的にチェックを行うことで、「社長、専門家、法務部に頼らなくてもリスクを抑える契約体制」が整います。
社内でできるチェック体制の整備
「専門家に頼るにはコストが……」という会社でも、社内の一次チェック体制を整えることは可能です。
✅ 実務でできる体制整備:
- 雛形(テンプレート)契約書を整備する
- 契約類型別にチェックリストを用意する
- 契約書ごとに“誰がチェックしたか”を記録する
- 書きぶりのガイドラインを設ける
これにより、属人化を防ぎ、社内ナレッジが蓄積されていきます。
まとめ:契約書チェックは“経営の地ならし”
契約書は、単なる紙ではありません。
そこには会社の信用、利益、そして業務の円滑な遂行がかかっています。
総務・経理・営業事務という実務の最前線にいる皆さんこそが、契約書の第一関門を守る存在です。社長、専門家、法務部に頼らずとも、基本を押さえたチェック体制を社内で確立すれば、トラブルの芽を早期に摘むことができます。
「この契約書、ちょっと気になります」と社長や上司に言えることが、会社を守る力になります。
あなたのその一声が、現場と経営をつなぐ“契約リテラシー”の第一歩です。
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