ビジネス法務

【契約書のトリセツ】契約条件が七変化する理由―なぜ答えは一つにならないのか

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1. なぜ契約書の話は、いつも「ケースバイケース」になるのか?

契約書の話となると、
私たち専門家は、こんな言葉で締めくくりがちです。

「一般的にはこうですが、ケースバイケースですね」

正直、
歯切れが悪い。
はっきりしない。

そう感じる方も多いのではないでしょうか。

実際、
「結局どっちなの?」
「専門家なのに断言してくれないの?」
そう思われても無理はありません。

ただ、この「ケースバイケース」という言葉。
決して逃げでも、説明放棄でもありません。

むしろ、
そう言わざるを得ない事情がある
というのが、契約実務の正直なところです。

契約書は、
単に法律のルールを当てはめれば答えが出るものではありません。

当事者の立場、
相手との力関係、
その取引が置かれているビジネス上の文脈。

こうした複数の要素が絡み合い、
一つとして同じ前提条件の契約は存在しない。

だからこそ、
「一般論」として語れる部分はあっても、
最終的には「ケースバイケース」と言わざるを得ない。

このもどかしさこそが、契約実務そのものなのです。


2. 契約条件は「立場 × 力関係 × ビジネス文脈」で決まる

契約書の条件は、

  • 自社が
    • 売主(お金を支払ってもらう側)なのか
    • 買主(お金を支払う側)なのか
  • 相手との関係が
    • 対等なのか
    • 相手の方が強いのか
    • 自社の方が強いのか
  • その取引が置かれているビジネス上の文脈

この組み合わせによって、
同じ契約書であっても、中身は大きく変わります。

つまり、
「これが正解」という万能な雛形は存在しません。


3. 売買契約書でよく出る「保証条件」の話

ここで、一例として
売買契約書の「保証条件」を考えてみましょう。

売主の立場で考えると

自社が売主の場合、
できるだけ保証は薄く、
責任は限定的にしたいと考えるのが自然です。

買主の立場で考えると

一方で、自社が買主であれば、
保証はできるだけ手厚くしてほしい。
これは、多くの方が直感的に理解できるでしょう。

ここまでは、比較的シンプルです。


4. 同じ立場でも「力関係」で話は変わる

問題は、ここからです。

売主 × 力関係が対等、または自社が強い場合

この場合、

  • 保証を限定する
  • 免責条項を広めに取る

といった主張が、
交渉の中で通る余地があります。

売主 × 相手の方が力が強い場合

例えば、

  • 相手が元請である
  • 相手が大企業である
  • 指定業者で、他に選択肢がない

こうしたケースでは、

「保証はできるだけ薄くしたい」
「責任は限定したい」

といった主張は、
そもそもテーブルに乗らないことも珍しくありません。


5. 買主の場合も、まったく同じ構造

これは、買主側でも同じです。

  • 自社が強い立場であれば
    → 保証を手厚く要求しやすい
  • 相手が強い立場であれば
    → 要求しても通らない

つまり、

「売主だからこう」
「買主だからこう」

と、単純に割り切れる話ではないのです。


6. 契約書は「連立方程式」を解く作業

こうした話を別の言い方で表すと、
契約書づくりとは―

ビジネス文脈に応じた連立方程式を組み立てる作業

だと言えます。

  • 自社の立場
  • 相手との力関係
  • 価格決定権はどちらにあるのか
  • 契約を「断れる」のはどちらなのか
  • 継続取引を前提としているのか

これらを同時に考えながら、
「どこを守り、どこを譲るのか」を決めていく。

「契約条件のチューニング」と言い換えてもオーバーでは
ないくらいの繊細さが求められます。


7. 「自社に有利な契約書」が、最善とは限らない

相手の方が力関係で上の場合、
法務的に理想的な
「自社にとって有利な契約書」を提示すると、

  • 商談そのものが止まる
  • 契約が成立しない

という結果になることもあります。

そのため実務では、

  • すべてを守ろうとしない
  • 本当に譲れないポイントに絞る
  • 商談が成立する現実的なラインを探る

こうした判断が欠かせません。


8. まとめ

契約書は、
トラブルを防ぐための書類であると同時に、
ビジネスを成立させるための設計図でもあります。

その設計は、

  • 立場
  • 力関係
  • ビジネス文脈

によって、常に変わります。

だからこそ、専門家は簡単に断言できない。
「ケースバイケース」と言わざるを得ない。

それは曖昧さではなく、
現実と繊細に向き合った結果でもあるのです。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


【ご質問受付中】

「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。

また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

【寄稿】共創は「終わり方」を決めておかないと、だいたいこじれます前のページ

【契約書のトリセツ】ダメな契約書は「見た目」で9割わかる―表記の揺れ・アンバランス・見栄えが示す危険信号次のページ

関連記事

  1. 契約書

    パートナーシップ(連携・コラボ)と契約書

    ビジネス法務コーディネーター®大森靖之です。日頃は、ビジネス契約書専…

  2. ラジオ

    「契約書に強くなる!ラジオ」2025年1月

    ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。ビジネス契約書専門の行…

  3. ラジオ

    「契約書に強くなる!ラジオ」2023年2月

    ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。ビジネス契約書専門の行…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


ご連絡先

行政書士大森法務事務所
home@omoripartners.com
048-814-1241
〒330-0062
埼玉県さいたま市浦和区仲町2-5-1-B1
▼契約書類作成
▼セミナー講師依頼
(契約書、ビジネス法務、コンプライアンス)
▼台本作成
(研修動画、ナレーション、ラジオ番組)

stand.fm『契約書に強くなる!ラジオ』【週2回(水・日)更新】
FM川口『ちょいワルMonday200』【毎月第2第4月曜日19:00~生放送】
2026年1月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
PAGE TOP