情報発信術

【ブログ術】第5回:「自分ごと化」一人に刺さらない文章は誰にも刺さらない

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次


0.前回までの整理

この「ブログ術」シリーズでは、
文章テクニックではなく、

仕事につながる文章は、どんな思考プロセスで書かれているのか

を分解して整理しています。

第1回〜第3回では、

  • 課題(問い)
  • 結論(スタンスの明確化)
  • 共感(あるある、わかる)

という、
読者が「読む気になる」入口の設計を扱ってきました。

第4回ではそこから一歩踏み込み、

  • 本質(大前提に該当:ルールや専門概念の加味ください)
  • 適用(小前提に該当)
  • 提案(結論に該当)

という、
行動につながる後半構造を整理しました。

特に強調したのが、

専門用語を噛み砕くことは、
レベルを下げることではない
専門家としての「翻訳の仕事」そのものである

という視点です。

今回の第5回では、
その後半構造の中でも、
最も成果を左右する 「適用(小前提に該当)」 を扱います。


1.「自分ごと化」

まず、はっきりさせます。

(ここでいう)適用=自分ごと化

これ以外の定義はありません。

適用とは、

  • 理屈を説明することでも
  • 正解を教えることでも
  • 事例を並べることでもない

読者が「これは自分の話だ」と感じる瞬間をつくること

です。

ここを外した瞬間、どれだけ正しく、どれだけ丁寧な文章でも、
それは「他人事」で終わります。

適用というと、「具体例を書くこと」だと思われがちです。

それ自体は、間違いではありません。

適用=具体例
まずはここから始まります。

ただし、
具体例を書いただけで、
文章が読者に刺さるわけではありません。

多くのブログはここで止まります。

  • 具体例はある
  • 実体験も書いている
  • それなりに分かりやすい

それでも読者はこう感じます。

「なるほど。
でも、それは“その人の話”ですよね」

つまり、
具体例が“他人事”のままなのです。

適用で本当に必要なのは、
具体例をもう一段、読者側に引き寄せること。

それが 自分ごと化 です。

  • 誰の話なのか
  • どこで迷っているのか
  • なぜ判断が揺れているのか

この「判断の揺れ」まで書けて、
初めて具体例は
読者自身の問題として立ち上がります。


2.なぜ多くのブログは自分ごと化に失敗するのか

理由は単純です。

最初から「みんな」に伝えようとするから。

  • 幅広く当てはまるように
  • 誰にも反論されないように
  • 万人向けに無難に

そうやって削っていった結果、
文章はこうなります。

どこにでもある一般論

読者の反応は、

  • それはそう
  • 知っている
  • で、うちは?

この時点で、
ページは静かに閉じられます。


3.「半径2メートル」を書く

適用で書くべきなのは、
遠くの話ではありません。

  • ニュースの話でもない
  • 業界全体の話でもない
  • 抽象化された成功事例でもない

書くべきなのは、

自分の半径2メートルで、実際に起きている出来事

です。

  • 直近で受けた相談
  • 実務で「ここ危ない」と感じた瞬間
  • 相手が勘違いしていた前提
  • 説明してもなかなか伝わらなかったポイント

派手さはありません。
でも、圧倒的にリアルです。

そしてリアルなものは、
必ず誰かの現実と重なります。


4.ペルソナは「設定」ではなく「特定」する

よくあるペルソナ設定は、

  • 年齢
  • 性別
  • 職業
  • 年収

といった属性整理で終わりがちです。

でも、適用で必要なのはそこではありません。

必要なのは、

今、何に困っている「誰か一人」か

です。

  • 契約書を前に手が止まっている社長
  • 専門家に聞くほどでもないと思って悩んでいる担当者
  • 「これくらい大丈夫だろう」と流そうとしている現場

顔が浮かぶレベルまで落とす。
一人でいい。

むしろ、一人でなければ自分ごと化は起きません。


5.万人に伝えようとした瞬間、誰にも伝わらなくなる

ここは重要なので、はっきり言います。

万人に伝わる文章は、
誰の心にも刺さらない。

これは表現の問題ではなく、
構造の問題です。

適用とは、

  • 立場
  • 状況
  • 制約条件

を前提にする作業です。

前提を増やせば、
対象は自然に絞られます。

でも、それでいい。

誰か一人に確実に伝わる文章は、
結果として多くの人に届く

これが現実です。


6.それが結果的にSEO対策になる理由

一般論は、検索エンジンから見ても価値が低い。

  • 同じ内容の記事が無数にある
  • 差分がない
  • 専門家としての判断が見えない

一方、半径2メートルの具体例には、

  • 文脈
  • 判断
  • 体験
  • 制約条件

が自然に含まれます。

結果として、

  • 滞在時間が伸びる
  • 直帰率が下がる
  • ロングテールで拾われる

SEOを狙っていないのに、SEOに強くなる。

これが、自分ごと化された文章の強さです。


7. 【実例】仕事を生み続けているいる「超マニアックな記事」の裏側

ここで、最近私のブログで「バズって」いる、
ある記事の話をしましょう。

それは、『新しい型取引のルール』
という、極めてマニアックなテーマの記事です。

正直に言えば、
検索ボリュームも決して多くありませんし、
一般の方が読んで面白い内容でもありません。

では、なぜその記事が刺さったのか?

製造業の現場では、
委託事業者(元請企業)が中小受託事業者(下請企業)に
「金型」などを預けっぱなしにし、
中小受託事業者側が無償で、その大きな型を長期間保管し続ける
という 悪しき慣習 が問題になっています。

実際、公正取引委員会も是正勧告を出しており、
現場では「このままで大丈夫なのか?」という
ピリピリした空気が流れています。

ただし、この問題は、ニュースとしては取り上げられても、

  • では現場ではどう対応すればいいのか
  • どういう覚書を交わせば角が立たないのか

という 実務レベルの話 になると、
途端に情報がなくなります。

私はこの記事を書くとき、
「多くの人に読んでもらおう」とは、まったく考えませんでした。

頭にあったのは、たったこれだけです。

  • 型を預かりすぎて、
    保管スペースに本気で困っている下請けの社長さん
  • 本当は保管料を請求したいけれど、
    取引関係を壊さずに、どう覚書を交わせばいいか
    悩んでいる担当者さん

つまり、「たった一人の、切実な悩み」です。

結果は、想定外なものでした。

この超マニアックな記事が、
Google検索で、検索ワードの組み合わせによっては、
公正取引委員会、中小企業庁、そして首相官邸の公式サイトよりも上位
に表示されるようになったのです。

日によっては、
1日1000PVを超えるアクセスが集まることもありました。
(当サイトにとっては大きな数字です。)

さらに驚いたのは、その後です。

この記事一本をきっかけに、

  • セミナー講師の依頼
  • 契約書・覚書作成の相談

が、わずか半年で 16件 も舞い込んできました。

なぜ、こんなことが起きたのか。
理由はシンプルです。

「適用=具体例」を、
さらに「自分ごと化」まで落としきったから

  • 万人向けに書かなかった
  • 問題を薄めなかった
  • 誰か一人の現実を、
    そのまま引き受けて書いた

ただ、それだけです。

これが、「半径2メートルのリアル」が持つ力です。


8.「尖る」とは、特殊なことを言うことではない

尖る=過激
尖る=逆張り
尖る=炎上狙い

ではありません。

本当の意味で尖っている文章は、

誰か一人の問題を、
逃げずに、具体的に、丁寧に扱っている文章

です。

  • テーマはありふれていていい
  • 新しい理論もいらない
  • 特殊な主張も不要

必要なのは、
現場を引き受ける覚悟だけです。


9.「適用=自分ごと化」が書けると、文章は「相談の入口」になる

適用が成立している文章を読むと、
読者の頭の中では、こういう変化が起きます。

  • これ、うちの話だ
  • ちょっと危ないかもしれない
  • 一度整理した方がいい

この時点で、
ブログは情報提供ではありません。

「一緒に考えてくれる人」を探す入口になります。


10. まとめ

誰か一人の課題を、世界で一番丁寧に書く。

適用とは、

  • 自分ごと化であり
  • 半径2メートルの現実であり
  • ペルソナを一人に絞る覚悟であり
  • 一般論を捨てる決断です

特殊なことを言う必要はありません。

ただ、

誰か一人の問題を、
逃げずに、超具体的に、丁寧に扱う

それだけでいいのです。

次回は、最終回「提案」についてご説明します。


11. 今日からできるアウトプット課題

ここからは「書き方の練習」ではありません。
思考の確認です。

課題①

最近あなたの半径2メートルで起きた、

  • 実務
  • 相談
  • 違和感を覚えた場面

を一つ選んでください。

※「よくある話」である必要はありません。
むしろ「個人的すぎるかな?」くらいでちょうどいい。


課題②

その出来事を、

  • 特定の「誰か一人」に向けて
  • 一般論を使わず
  • 状況と判断が分かれるポイントだけを

文章にしてください。

※ここでは答えを書かないでください。
「どう考えるかの材料」だけを置きます。


課題③

最後に、こう問いかけてください。

「これ、あなたの話ではありませんか?」

この問いは、
答えを求めるためのものではありません。

  • 判断を読者に返すため
  • 売り込まずに余韻を残すため
  • 適用が成立しているかのセルフチェックのため

この一文が自然に置けるなら、
ここでいう「適用」は成立しています。


🔎 参考記事

制度解説ではなく「判断」を書くと、なぜ仕事につながるのか
— 金型取引という極めてマニアックなテーマから見えた、判断ログの整理


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


【ご質問受付中】

「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。

また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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