ビジネス法務

【契約書のトリセツ】商売が「生き物」なら、契約書も「脱皮」が必要ーー10年前の雛形を使い続けるリスク

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.契約書が「作った日」のまま止まっていませんか?

「商売は生き物だよね」

ある経営者の方との雑談の中で出てきた言葉です。
コロナ禍を経て、お客様のマインドも変わり、販売方法や働き方も変わりました。

では――

契約書は変えていますか?

商売が変わっているのに、契約書だけが10年前のまま。
実は、現場では珍しくない話です。


2.商売を言語化したものが「契約書」

契約書とは、

「商売のやり方を、法的な言葉で翻訳したもの」

だと私は考えています。

  • ビジネスモデルが変われば
  • リスクの取り方が変われば
  • 提供方法が変われば

契約書も見直す必要が出てきます。

商売が生き物なら、契約書もまた生き物。
放っておけば、実情と合わない“殻”になってしまいます。


3.現場でよくある「ズレ」

商売は変わっているのに、契約書は変わっていない。
具体的にどんなズレが起きているでしょうか。

① 納品形態の変化

昔:
「CD-ROMを郵送して納品」

今:
「クラウド上の共有リンクで納品」

それでも契約書は、

「成果物は書面または記録媒体により納品する」

のままになっていませんか。

クラウド前提の設計になっていないと、
保存義務やデータ削除義務、アクセス制限などの扱いが曖昧になります。

② 通知方法のズレ

契約書では、

「通知は書面により行う」

実務では、

  • Slack
  • LINE
  • メール

で完結しているケースも多いでしょう。

万が一、紛争になった場合、
その連絡が有効な「通知」と認められるかは、条文次第です。

通知が無効と判断されれば、
解除や請求が成立しない可能性もあります。

③ リモートワークへの未対応

委託先が自宅で作業する時代。

それでも秘密保持条項は、

「社内での管理を前提」とした設計

のままになっていないでしょうか。

私物PCの利用、家族のいる環境、
クラウド利用などを前提とした条文設計になっているか。
ここも見落とされがちなポイントです。

④ 用語の時代遅れ

2020年4月の民法改正により、

「瑕疵担保責任」は、
「契約不適合責任」へと変わりました。

それでも契約書に「瑕疵担保責任」が残っているケースは、
いまも少なくありません。

法改正に未対応だから直ちに無効になる、というわけではありません。
しかし、実務上のリスクや誤解を生む可能性は否定できません。


4.契約書は“商売の設計図”

契約書は、

  • お金の流れ
  • 責任の範囲
  • リスクの置き場所
  • トラブル時の出口

を定める設計図です。

私は常々、

契約書とは、取引の解像度を上げるツールである

とお伝えしています。

商売の設計が変わったのに、
設計図を更新しない。

それは、増改築したのに古い図面を使い続けるようなものです。


5.契約書健診(アップデート)のタイミング

では、いつ見直せばよいのでしょうか。

「1年に1回」というのは一つの目安ですが、
より具体的には次のタイミングがおすすめです。

✔ 決算期

決算のタイミングで、自社フォーマットや主要取引先との契約書を
一つずつ見直す。
財務と同じように、法務も定期点検する習慣を持つ。

✔ 新サービス開始時

新しいメニューを始めたときこそ要注意です。

既存契約書の使い回しではなく、

  • 免責の範囲
  • 責任上限
  • 成果物の定義
  • 支払条件

が実態に合っているか確認するべきタイミングです。

✔ 法改正の節目

2020年の民法改正のような大きな法改正があった場合は、
いわば「強制アップデート期間」と考えてよいでしょう。

知らないうちに制度とズレている、という事態は避けたいところです。


6.古い契約書は、今の商売に追いついているでしょうか?

ダーウィンの進化論のような大げさな話ではありませんが、

長く続いている商売というのは、
やはり「変化に対応してきた商売」だと感じます。

その変化を法的にそっと支えるのが、契約書の役割です。

皆さんの契約書は、

・今のビジネスモデル
・今のリスク感覚
・今の情熱

に、きちんと追いついているでしょうか。

10年前の雛形を使い続けること自体が、即、悪いわけではありません。
契約書は、会社の考え方や姿勢を映す“鏡”のようなものです。

契約書を丁寧に整えている会社は、現場のオペレーションも整っていることが多いと感じます。
逆に言えば、契約書を磨くことは、自社のサービス品質を磨くことと近い作業なのかもしれません。

契約書もまた、定期的に手入れをしていくものです。
いわば小さな“脱皮”の積み重ねです。

もし、

「取引の実務と契約書が、どこかしっくりこない」

と感じることがあれば、
それは契約書が悪いというより、商売が進化している証拠なのかもしれません。

いまの自分たちの商売を、きちんと言語化できているか。
その確認の時間を、年に一度でも持っていただければと思います。

私も、そのお手伝いができれば幸いです。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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