ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. 薄利多売なのに、なぜ一度のトラブルで崩れるのか
- 2. 一件あたりの利益が小さいビジネスほど、契約書の重要度は上がる
- 3. 値下げしたのに、契約条件はそのまま──よくある危険な状態
- 4. 「付加価値=値上げ」ではないという、ベテラン経営者の一言
- 5. 適正価格を下回るなら、契約条件でリスクを調整する
- 6. 薄利多売で本当に見るべきは「入金後のキャッシュアウト」
- 7. 利益を守るために検討すべき契約条件の具体例
- 8. 「安いから契約書は簡単でいい」は、取引実務では逆
- 9. 売り方に合わせて契約を設計するという発想
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. 薄利多売なのに、なぜ一度のトラブルで崩れるのか
薄利多売のビジネスでは、
売上は立っている。仕事量もある。現場も忙しい。
それにもかかわらず、
一度のクレーム対応や想定外の補償対応で、
それまで積み上げてきた利益が一気に消えてしまうことがあります。
この問題は、特定の業界に限った話ではありません。
多くの場合、原因は
「安く売っていること」そのものではなく、
安く売っているにもかかわらず、取引条件が整理されていないことにあります。
2. 一件あたりの利益が小さいビジネスほど、契約書の重要度は上がる
薄利多売のビジネスでは、
一件あたりの利益が小さい分、
一度のキャッシュアウトが経営に与える影響が非常に大きくなります。
だからこそ、
契約書は単なる形式的な書類ではなく、
経営を下支えする実務インフラとして機能させる必要があります。
3. 値下げしたのに、契約条件はそのまま──よくある危険な状態
実務の現場では、次のような状態が少なくありません。
- 値下げ要求には応じたが、契約条件は標準のまま
- 相手方が用意した雛形を、そのまま使用している
- 無償保証や無期限対応が当然のように含まれている
- 損害賠償の範囲や上限について、意識したことがない
結果として、
「利幅は小さいのに、リスクだけは標準仕様」
という、非常にバランスの悪い取引構造になってしまいます。
4. 「付加価値=値上げ」ではないという、ベテラン経営者の一言
先日、数十年にわたり実績を上げてこられた
ベテラン経営者の方と、「付加価値」について話をする機会がありました。
そのとき、ふと投げかけられた一言が、強く印象に残っています。
「付加価値っていうと、すぐ“値上げ”の話だと思っていないか?」
少し間を置いて、続けてこう言われました。
「付加価値というのは、ただ値上げすることじゃないんだよ。」
さらに、こう続きます。
「まず、適正価格っていう土台がある。その土台がぐらついたまま、
上に何かを乗せようとしても意味がない。」
「適正価格の上に、プラスアルファの価値をきちんと乗せる。
その分を、対価としていただく。それが、付加価値だ。」
言葉にすると当たり前のようですが、
実務に置き換えると、
この視点が抜け落ちているケースは少なくありません。
5. 適正価格を下回るなら、契約条件でリスクを調整する
理想は、
適正価格という土台の上に付加価値を乗せて販売することです。
しかし、現実には
どうしても値下げに応じざるを得ない局面もあります。
ここで注意すべきなのは、
価格を下げたにもかかわらず、契約条件をそのままにしてしまうことです。
価格を下げたのであれば、
その分、契約条件によって
リスクを抑える方向に調整する必要があります。
価格と契約条件は、
切り離して考えるものではありません。
6. 薄利多売で本当に見るべきは「入金後のキャッシュアウト」
薄利多売型の取引で特に意識すべきなのは、
「いくら売れたか」ではなく、
「入金後に、いくら出ていく可能性があるのか」という視点です。
一度の想定外対応が、
それまでの利益をすべて吹き飛ばすことも、決して珍しくありません。
7. 利益を守るために検討すべき契約条件の具体例
薄利多売の取引では、
次のような点を中心に契約条件を設計していく必要があります。
- 無償保証の期間を必要最小限に限定する
- 免責条項を明確にし、責任範囲を限定する
- 損害賠償を直接損害に限定し、金額の上限を設ける
- 途中解約時の清算方法や違約金を定めておく
- 契約不適合への対応を、無制限な無償対応にしない
利幅が小さいビジネスほど、
こうした「出口の設計」が経営を左右します。
8. 「安いから契約書は簡単でいい」は、取引実務では逆
「安く売らざるを得ないから、契約書は簡単でいい」
という考え方は、実務では成り立ちません。
正しくは、
安く売るからこそ、契約条件を厳しくし、
その前提で取引を成立させる。
という発想です。
9. 売り方に合わせて契約を設計するという発想
契約書は、
トラブルが起きたときのための保険ではありません。
どのような売り方をするのか。
どこまでのリスクを引き受けるのか。
それを事前に言語化し、
経営判断として固定するための設計図です。
薄利多売のビジネスほど、
契約書が「命」になる理由は、ここにあります。

【音声解説】
本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
【ご質問受付中】
「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。
また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。










この記事へのコメントはありません。