ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに
「契約書」と聞くと、どこか堅苦しくて、法律の専門家が扱うもの…という印象をお持ちではないでしょうか?
しかし、私が10年以上、中小ベンチャー企業の契約書を支援する中で強く感じているのは、
契約書は“法律の書類”であると同時に、“人の問題を整理するためのツール”であるということです。
特に中小ベンチャー企業では、法務部や専門の担当者がいないことも多く、契約書の内容の判断や調整は社長自身が担うことが多くなります。
そんなとき大切なのが、「この書類は、社内や取引先との『人間関係』にどんな影響を与えるか?」という視点なのです。
契約書に関するよくある悩み
中小ベンチャー企業の現場では、次のような声がよく聞かれます。
ケース①:「今回だけは、書面にしておきたいんです」
「取引先の社長、いつも話す内容が変わるんです。
今までは少額のやりとりだったからスルーしてましたけど、今回は金額も大きいので、一筆交わしておきたくて…。
ただ、“契約書を作りましょう”とストレートに言うと、関係がギクシャクしそうで悩んでいます」
これは「取引先との関係を壊したくない」という思いと、「でも今回はリスクも高い」という両方の思いの中で揺れているケースです。
ケース②:「社員が相手の担当者に萎縮してしまっていて…」
「相手先の担当者が、どこか慇懃無礼で…。
社内の若い社員が打ち合わせのたびに緊張して、帰ってくるとぐったりしてるんです。
社員が疲弊しないように、実務のルールを契約書でちゃんと整えたいのですが、可能ですか?」
こういった場合、契約書に「やり取りの方法」や「業務範囲の明確化」などを記載することで、社員を守ることができます。
ケース③:「技術者のやる気が下がってしまった…」
「経営判断として成果物の権利を全部相手に譲る内容で契約しようとしたら、うちの技術者が“頑張る意味あるのかな…”って落ち込んでしまって。
契約自体は成立させたいけど、現場のモチベーションも守りたいんです。なにか良い方法はありますか?」
これは「人の感情」の問題ですが、契約書の工夫で解決できることが意外と多い分野です。
「技術者に社内での評価を伝える方法」や「相手企業との中間点を見つける工夫」などで、モチベーション維持と契約成立の両立が可能になります。
雛形では“人の問題”は解決できない
ネットや書籍で手に入る契約書の雛形。手軽で便利ですが、実はそこに落とし穴があります。
多くの雛形は「大企業同士」の取引を前提にして作られているからです。
たとえば…
- 専任の法務部が存在する前提で、複雑な条項が並んでいる
- 紛争状態になったときに即、法的な手段をとることが前提になっている
- 双方が契約の細部まで読み込む余力があることを前提としている
こうした前提は、中小ベンチャー企業の実態とはズレがあります。
むしろ、現場で働く人たちの「気持ち」や「空気感」への配慮が足りないことが多いのです。
たとえば、条文にある種の「ゆるさ」がないと、相手が不信感を抱いてしまったり、社内で「こんなにガチガチな内容にサインするの?」と不安が広がったりします。
契約書は「感情のトラブル予防ツール」でもある
中小ベンチャー企業で起きる契約トラブルの多くは、
金額や納期よりも、“感情の行き違い”が原因になっています。
- 「そんなこと言ってなかった」
- 「いや、言ったはずだ」
- 「その条件は後出しだよね」
- 「社長同士の話と現場の話が違ってる」
こんな言い合いが起きたとき、双方が冷静に確認できる“よりどころ”として契約書があると、事態が悪化する前に対応できます。
つまり、契約書は「法的な盾」であるだけでなく、“感情のクッション材”としても使えるツールなのです。
法的に正しいことが「現場に合う」とは限らない
たとえば、法律的に完璧な契約書を作成したとします。
でも、それが現場でうまく運用されないなら、意味がありません。
- 相手にとって不利すぎる条件が書かれていると、取引自体が壊れる
- 社内の誰も内容を理解できず、実務では使われない
- 細かく書きすぎて、かえって柔軟な対応ができなくなる
中小ベンチャー企業にとっては、「ほどよく」「運用できる」契約書こそが理想です。
法的に強いことも大切ですが、それ以上に、現場が安心して使えることが重要なのです。
契約書=「人を守るツール」
中小ベンチャー企業にとって、契約書は“経営を支える重要なパートナー”です。
でも、それは法律的な正しさだけでなく、「人を守る」「現場を整える」ツールであるという前提で使う必要があります。
実際、こんな効果が期待できます。
- 社長自身の言動や判断を守る
- 社員が安心して働ける環境をつくる
- 相手企業との“言い間違い・聞き間違い”を防ぐ
- 関係を壊さない形でリスクを最小限にする
つまり、契約書は単なる「ビジネス文書」ではなく、“現場の安心感”をつくるツールなのです。
「人の問題の整理」としての契約書づくり
契約書をつくるときに忘れてはいけないのが、「この契約は誰を守るためのものか?」という視点です。
- 社長と取引先の信頼関係を守る?
- 若手社員が安心して対応できるようにする?
- 現場の混乱を避ける?
- これから長く続けたい取引を円滑に保つ?
そう考えると、法律的に正しい内容だけを追求するよりも、
相手との関係性、社内の実態、社員の感情をどう整理するかに時間をかけるべきだとわかってきます。
まとめ:「契約書=人の問題を言葉にするツール」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
この記事でお伝えしたかったのは、
中小ベンチャー企業にとっての契約書は、「人の問題の整理」を第一に考えていくと、より良いものが見えてくるということです。
- 法律的に正しいけれど関係性を壊してしまう契約書
- 逆に、法的にはシンプルでも、社員や相手企業に分かりやすさや安心を与える契約書
あなたの会社に本当に必要なのは、どちらでしょうか?
もし今、契約書について不安があるなら、
“トラブルを避ける”だけでなく、“人を守る”という視点で見直してみてください。
そして、自社に合った契約書をつくるために、現場と心に寄り添う専門家をうまく使うことも、経営判断のひとつです。
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