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【契約書のトリセツ】たった一文字で、これだけ違う― 句読点と「その他」が分ける、契約解釈の境界線 ―

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.その「、」と「の」は、どこまで掛かっていますか?

「君が好きな僕」

「君が、好きな僕」
「君が好きな、僕」

句読点の位置で、意味は大きく変わります。

小説なら表現の問題で済みます。
しかし、契約書では“解釈”の問題になります。

誰が負担するのか。
どこまでが対象なのか。
何が含まれるのか。

条文は、構造で読みます。

今日は、その「構造」の話です。


2.契約書は“法律知識”以前に“構造の明確化”

契約書の解釈は、

  • 文言
  • 契約全体の趣旨
  • 交渉経緯
  • 取引慣行
  • 信義則

などを総合して判断されます。

その前提に立ったうえで、ひとつ言えることがあります。

曖昧な構造は、解釈の余地を生む。

私たちのような専門職が条文を読むとき、
頭の中ではカッコを書いています。

A + (B or C) なのか
(A + B) or C なのか

この“カッコ”の位置を明確にするのが、
句読点や助詞の役割です。


3.「その他」と「その他の」

よくある条文です。

乙は、交通費、宿泊費、その他実費を請求できる。

これを、次と比較してみます。

乙は、交通費、宿泊費、その他の実費を請求できる。

違いは「の」一文字です。

しかし、ニュアンスは異なります。

記述ニュアンス背後にある意図
その他実費独立的・追加的請求範囲を広く取りたい側(受託者)
その他の実費限定的・同種支払範囲を予測可能にしたい側(発注者)

■ 実務で生じ得る差

条文が「その他実費」の場合、

実費であれば広く含まれる、と主張されやすい傾向があります。

一方、「その他の実費」と書かれている場合、

交通費や宿泊費と同種の実費に限る、という整理がされやすい。

もちろん最終的には契約全体の文脈で判断されます。

しかし、

文言が明確であるほど、解釈の余地は狭まる。

これが実務の現実です。


4.「、」がないことによる曖昧さ

次の条文を見てください。

本業務の遂行に関し乙が負担する費用およびその他本業務に付随して発生する一切の費用は甲の負担とする。

「一切の費用」は、どこまでを包み込んでいるのでしょうか。

  • 「乙が負担する費用」も含むのか
  • 「その他本業務に付随して発生する費用」だけを指すのか
  • 並列なのか、包含なのか

条文単体では、構造が一読で明確とは言えません。


■ 解像度を高めるとこうなる

① 甲の負担を広げたい場合(受託者有利)

本業務の遂行に関し乙が負担する費用、および、その他本業務に付随して発生する一切の費用は、すべて甲の負担とする。

ここでは、

  • 「、」で並列関係を明確化
  • 「一切の」を後段に配置
  • 「すべて」で包括性を補強

しています。

構造は明確です。

(A)+(B一切)=すべて甲負担


② 甲の負担を絞りたい場合(発注者有利)

甲が負担する費用は、次の各号に掲げるものに限る。
1.乙が立替払いした交通費
2.本業務に直接付随して発生する通信費

ここでは、

  • 「に限る」で限定を明示
  • 「その他」という曖昧語を排除
  • 箇条書きで構造を固定

しています。

文章で包み込むのではなく、
列挙で境界線を引いています。


5.句読点は飾りではない

句読点は、文章を読みやすくするための飾りではありません。

どこで切るか。
どこを並列にするか。
どこを包含させるか。

それは、リスクの境界線をどこに引くかという意思表示です。

そして「その他」という言葉は便利である一方、
解像度を下げる言葉でもあります。

解像度の高いプロは、

  • 広げたいなら包括構造を採る
  • 絞りたいなら限定構造を採る

この選択を、意図的に行います。


6.曖昧さはリスクを内包する

契約トラブルの多くは、悪意ではなく、

  • 想定のズレ
  • 認識の違い
  • 言語化不足

から生じます。

「その他」と書けば、
読む人によって想定が異なります。

「一切」と書けば、
どこまでが“一切”かが問題になります。

契約書は、

お互いの想定を明文化する道具です。

文言が具体的であればあるほど、
解釈リスクは下がります。


7.まとめ

実際の契約解釈では、

  • 文言
  • 契約全体の構造
  • 交渉経緯

が総合的に判断されます。

しかし、

文言の曖昧さが争点になることは、現実に起きています。

そしてその多くは、

  • 「その他」
  • 「一切」
  • 「適宜」
  • 「必要な費用」

といった曖昧語から始まります。

契約書の一文字は、
単なる表現ではありません。

リスクの分配を決める要素です。

どこまでが対象か。
何が含まれ、何が含まれないか。

その境界線を明確にすること。

それが、契約実務の基本です。


【音声解説】

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【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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