ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.なぜ契約書はこんなに読みにくいのか?
- 2.「甲」「乙」をやめるだけで、契約書は劇的に読みやすくなる
- 3.途中で「これ、誰の話?」となる契約書
- 4.読みにくさの正体は「当事者意識が持てないこと」
- 5.甲乙条文と「当社・お客さま」条文を比べてみる
- 6.「甲乙を使わなければならない」法律は存在しない
- 7.Wordの一括置換で誰でもできる方法
- 8.まとめ:読みやすい契約書は、良い商売のための道具
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.なぜ契約書はこんなに読みにくいのか?
契約書を前にして、こんなふうに感じたことはないでしょうか。
- 文字が多くて読む気がしない
- 途中まで読んだけれど、誰の話か分からなくなった
- 結局よく分からないままサインしてしまった
企業経営者の方、フリーランス・クリエイターの方、
あるいは企業の総務・営業事務・経理担当の方から、
日々こうした声を耳にします。
「法律用語が難しいから仕方ない」
「契約書って、そういうものだから」
そう思われがちですが、
実はもっとシンプルで、今日から改善できる原因があります。
それが、
契約書に当たり前のように使われている「甲」「乙」という表現です。
2.「甲」「乙」をやめるだけで、契約書は劇的に読みやすくなる
結論からお伝えします。
契約書が読みにくくなる大きな理由の一つは、
当事者を「甲」「乙」で表現していることです。
逆に言えば、
「甲」「乙」をやめて、
自分や相手をイメージできる言葉に置き換えるだけで、
契約書は驚くほど読みやすくなります。
これは特別な法律知識が必要な話ではありません。
誰でも、すぐに実践できる改善方法です。
3.途中で「これ、誰の話?」となる契約書
契約書を読んでいると、こんな状態に陥ることがあります。
- 「甲は〜しなければならない」
- 次の条文で「乙は〜するものとする」
- 「甲って自分だっけ?相手だっけ?」と混乱する
- 定義条文に戻って確認する
- それでも疲れて読むのをやめる
これは、読む側の理解力の問題ではありません。
日常生活を振り返ってみてください。
私たちは普段の文章や会話で、
「甲は」「乙は」
という言い回しを、ほとんど使いません。
契約書だけが、
私たちの思考に合わない言葉で書かれているのです。
4.読みにくさの正体は「当事者意識が持てないこと」
なぜ「甲・乙」は、契約書をここまで読みにくくするのでしょうか。
理由はシンプルです。
当事者意識が持てなくなるからです。
「甲」と書かれても、
- それが自分なのか
- 相手なのか
- どんな立場の人なのか
頭の中でいちいち変換しなければなりません。
この変換作業が積み重なることで、
契約書は一気に疲れる文章になります。
一方で、
- 当社
- お客さま
- 発注者
- 受注者
といった表現で書かれていればどうでしょうか。
「これは自分の義務だな」
「ここは相手側の話だな」
と、直感的に理解できるようになります。
5.甲乙条文と「当社・お客さま」条文を比べてみる
実際の条文を比べてみましょう。
■ よくある「甲・乙」条文
第5条(支払義務)
乙は、甲に対し、本契約に基づく対価として、
甲が別途定める期日までに、
甲指定の方法により支払うものとする。
内容としては、特別に難しいことは書かれていません。
しかし読む側は、無意識のうちに次のような確認をしています。
- 甲=どちらの当事者か
- 乙=自分か相手か
- 主導権はどちらにあるのか
■ 「当社・お客さま」に置き換えた条文
第5条(支払義務)
お客さまは、当社に対し、本契約に基づく対価として、
当社が別途定める期日までに、
当社指定の方法により支払うものとします。
いかがでしょうか。
条文の意味や法的効果は一切変わっていません。
変えたのは「甲・乙」という表記だけです。
それでも、
- 誰が支払うのか
- 誰に支払うのか
- どちらが主導権を持つのか
が、一読で理解できるようになります。
6.「甲乙を使わなければならない」法律は存在しない
ここで、非常によくある誤解を整理しておきます。
「契約書って、甲・乙を使わないといけないんですよね?」
結論から言います。
そのような法律は存在しません。
■ 契約は「契約自由の原則」が基本
日本の契約は、
契約自由の原則を大前提としています。
これは、
- 誰と契約するか
- どのような内容で契約するか
- どのような表現で契約書を書くか
といった点を、
当事者同士が合意のもとで自由に決められるという考え方です。
※もっとも、契約内容には強行規定や公序良俗などの法的制約があり、
何でも自由という意味ではありません。
ただし、
当事者の略称や表記方法については、
法律上の制限はありません。
■ 甲乙は法律ではなく「慣習」
では、なぜ多くの契約書で甲乙が使われているのでしょうか。
理由はとてもシンプルで、
長年の慣習として使われてきただけです。
- 公的文書
- 裁判例
- 古い契約書ひな形
こうしたものの影響で、
「契約書=甲乙」というイメージが定着したにすぎません。
7.Wordの一括置換で誰でもできる方法
では、実務でどう対応すればよいのでしょうか。
方法はとても簡単です。
■ Wordの「検索と置換」を使う
Wordの「検索と置換」機能を使って、
- 「甲」→「当社」
- 「乙」→「お客さま」
と一括で置き換えるだけです。
それだけで、
契約書の読みやすさは大きく変わります。
※置換後は、定義条文や当事者表示(住所・名称)との整合、
「丙」「丁」など他の略称が残っていないかも含めて、
必ず全体を見直しましょう。
8.まとめ:読みやすい契約書は、良い商売のための道具
契約書は、
法律家のための文章ではありません。
契約当事者が理解し、納得したうえで合意するための道具です。
- 自社にとっても
- 相手にとっても
分かりやすい契約書であることは、
長期的に見て必ずプラスになります。
「甲・乙」をやめる。
それだけで、
- 契約書は読みやすくなる
- 当事者意識が高まる
- 無用な誤解やトラブルを防げる
ぜひ次に契約書を読むとき、
あるいは作るとき、
一度「甲・乙」を置き換えてみてください。
契約書の見え方が、きっと変わるはずです。

【音声解説】
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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