ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに
本シリーズ「契約書実務ノート」は、契約書業務の“気づき”を蓄積するノートです。
契約書のひな形をどう読むか? クライアントにどう説明するか? そして、条文のどこにリスクが潜んでいるか?
行政書士をはじめとする実務家の方々に向けて、私が日々の実務で得られた気づきや知見を少しずつ綴っていくシリーズです。
“契約書作成業務の奥行き”を一緒に深めていきましょう。
依頼者のために、まっすぐ動ける契約書業務の魅力
行政書士にとって、契約書業務には特有のやりがいがあります。
それは、依頼者のためだけに集中して動けること。
行政書士の本来業務である許認可業務の場合、常に「依頼者」と「役所」の間に立つ必要があります。依頼者の意向を汲みつつ、行政手続の期限・様式・ルールにも対応しなければならないため、調整の手間やストレスは避けられません。
しかし契約書業務では、役所は登場しません。依頼者の価値観・事情・今後の展望に寄り添いながら、まさに“その人、その会社のための契約書”を設計できる。その真っ直ぐさは、実務者としての喜びを感じる瞬間です。
契約書業務の裏にある「実務責任」
とはいえ、自由度が高いぶん、リスクも大きいのが契約業務。
特にビジネス契約書では、条文ひとつのズレが数百万円、数千万円単位の損失につながることもあります。
たとえば、受託者側の依頼者から「業務委託契約書を作ってほしい」と頼まれ、委託者有利の雛形をそのまま流用してしまう――。実務において、こうした“立場の逆転”が原因で依頼者との信頼関係が崩れてしまうケースも見聞きします。
実際、私のもとにも「他の行政書士に依頼した契約書が不安なので、セカンドオピニオン的にチェックしてほしい」という相談が少なくありません。
だからこそ、契約書支援においては
「傾聴力」が命
依頼者が本当に必要としているのは何か。
この契約の背景にあるのは、どんなリスク回避か。
依頼者の語らない“前提”をどこまで汲み取れるか――
この姿勢が、実務者としての差になると私は感じています。
「行政書士フィールドには契約書作成ニーズがない」は本当か?
よく聞かれるのが、
「行政書士が活動する業界には、契約書のニーズなんてあるの?」
という問いです。
結論から言えば、「従来の活動領域だけを見れば少ない」が正解だと思います。
行政書士が多く関与するのは「建設業」「産廃業」などの許認可が必要とされる業界です。これらの業界には以下の特徴があります。
- 元請/下請の構造が明確
- 業界標準の契約書雛形が整備済み
- 契約交渉において下請側が発言しにくい空気感
つまり、「自分で契約書を整備する文化がない」「雛形でなんとかなってきた」という認識が根強く、契約書のカスタマイズニーズは表に出にくいのが実情です。
しかし――
「実務のズレ」をきっかけに契約書の見直しは始まる
実際には、こうした業界の中にも「契約書の見直しが必要だ」と感じている経営者や現場担当者は一定数存在します。
たとえば、私が取り上げた以下の記事では、建設業界で「業界標準の雛形は現場と合っていない」「読みづらくて社内運用できない」と感じた企業からのご依頼で、契約書の読みやすさや実務運用を考慮したカスタマイズをした事例を紹介しています。
「雛形がある=契約書業務のニーズがない」ではなく、
「雛形に違和感を覚えた瞬間こそ、新たなニーズが生まれる」と私は考えています。
IT・クリエイター・スタートアップ界隈:見逃せない契約ニーズ
私は、開業以来、紆余曲折はありましたが、契約書業務のニーズが明確なフィールドを少しずつ開拓してきました。一例をあげますと以下3つです。
① IT業界
- システム開発委託契約書(ウォーターフォール/アジャイル)
- 業務委託契約書(SES・準委任)
- SaaS提供に伴う利用規約・プライバシーポリシー
IT業界は、口頭での仕様変更、成果物の定義曖昧化、再委託先管理など、トラブルの地雷が多く埋まった業界です。
スタートアップ企業やフリーランス開発者は法務知識が不足しがちで、「こうしておけば防げた」という後悔が契約書の入口になることも少なくありません。
② クリエイター業界
- イラスト・デザインの著作権と利用範囲の明確化
- 納期・報酬・リテイクのルール
- クレジット表記の有無・撤回時の条件
作品提供後のトラブルや“買い切り前提の無断使用”など、法律に無自覚なまま問題が拡大しやすい領域です。
行政書士が「作品への敬意」と「法的整理」のバランスを取りながら支援することで、クリエイターからの信頼を得やすくなります。
③ スタートアップ界隈
- 創業者間の合意書・株式譲渡契約書
- 取引先との基本契約(取引基本契約、フランチャイズ契約、代理店契約ほか)、秘密保持契約
- 外注スタッフとの業務委託契約
スタートアップはスピード重視で動く反面、契約の整備が後回しになりがちです。
「創業時の口約束が後で揉める原因になった」
「契約書を読まずにサインしたら、とんでもない責任を負っていた」――
そんな状況に陥らないよう、初期から“契約文化”を根づかせる伴走者としての存在が求められています。
まとめ
契約書支援は、
- 「聞く力」
- 「言葉の設計力」
- 「業務の文脈をつかむ力」
この3つが求められる、行政書士にとって非常に奥深い分野です。
業界標準のひな形や「うちは下請だから…」という空気に阻まれて、ニーズが見えにくいこともあります。
しかし、現場の違和感やトラブル経験こそが“契約書を見直すきっかけ”になります。
その違和感やトラブル経験を「契約書商品」に転換できる「提案力」が求められているような気がしています。
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最後まで、お読みくださりありがとうございました。
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