ビジネス法務

【契約書のトリセツ】協業は“始める前”がすべて

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1. はじめに

協業(アライアンス)は、中小企業にとって事業拡大の大きなチャンスです。
プロダクト開発・営業連携・共同マーケティングなど、
“1社では実現が難しい価値”を生み出す手段として、多くの中小ベンチャー経営者の関心を集めています。

しかし──
協業が破綻する最大の原因は、法的トラブルではありません。

⭐ 最も大きな原因は「認識のズレ」です。

協業は、始めた直後ではなく、
実務が動き始めてから壊れていくことが多いのです。

  • 作業量の不均衡
  • 責任の押し付け合い
  • 想定外の追加作業
  • 収益配分の不満
  • 優先順位の違い

これらはすべて、スタート前の 「腹を割った認識共有」 が不足していることに起因します。

では、いつなら腹を割って話せるのか?
その答えは明確です。

⭐ 協業は“始める前こそ”率直に話せる。

利害が一致し、テンションが高く、
互いに信頼したいと思っている「協業前」は、
最も本音をテーブルの上に出しやすいのです。

本記事では、協業前に“認識を見える化する契約書”を作る理由と、
実務で使える 協業契約書の条文例 をわかりやすく解説します。


2. 協業がうまくいかなくなる理由

協業はスタート直後が最も順調に見えます。
しかし実務が動き始めると、双方の期待が徐々にズレていきます。

協業は「成果」だけでなく「過程」も共有しなければならないからです。

  • 役割分担
  • 工数と負荷
  • 優先順位
  • リスクと責任
  • 収益配分
  • 想定外への対応
  • 外部説明の仕方

これらは、最初から自然に合う企業のほうが珍しいものです。


3. 協業前こそ“腹を割れる”黄金タイミング

協業前は、利害が一致しているため、
心理的安全性が最も高く、本音を言いやすい時間帯です。

ところが協業が動き始めると──

  • 作業の偏りが見えてくる
  • 想定外の修正が発生する
  • 負担と対価のバランスが気になる
  • 本音を言うと関係が悪化しそうで黙る
  • 不満を溜め込み、ある日突然破綻する

利害が動き始めるほど、人は本音を言えなくなる。
これが協業の難しさです。

だからこそ、協業は “始める前にどれだけ率直に話せるか” が決定的に重要になります。


4. 協業で最初にすり合わせるべき「認識」

協業前に最低限押さえたいポイントは次のとおりです。

  • 各社の役割分担
  • 最終成果物のイメージ
  • 中間成果物・チェックポイント
  • 工数・負担の見積り
  • 収益配分と費用負担
  • 想定外への対応
  • 優先順位(どこまでリソースを割けるか)
  • 解約・撤退の条件
  • 外部への発表(誰が、どこまで言って良いか)

これらが揃って初めて、
協業は「関係性任せ」ではなく「再現性のあるプロセス」になります。


5. 契約書は“認識を見える化するツール”

契約書は相手を縛るものではありません。

  • 口頭のニュアンス
  • 暗黙の了解
  • 価値観
  • 当然と思っている基準

こうした“認識の粒度”を合わせるために、
契約書という形で“見える化”することが必要です。

契約書とは、
お互いが迷わないための 「合意の羅針盤」 です。


6. 協業契約書の主要ポイント

協業契約は、実務的には次の契約類型を組み合わせた構造になります。

  • 共同事業契約(民法上の組合契約に近い)
  • 準委任契約
  • 請負契約(成果物ありの場合)

契約類型により責任範囲は変わりますが、
共通して重要なのは次の7点です。

  1. 業務範囲・役割分担
  2. 成果物の定義
  3. 費用負担・収益配分
  4. スケジュール・マイルストーン
  5. 想定外対応の協議プロセス
  6. 秘密保持
  7. 契約期間・終了条件

7. 協業契約書の条文例

※本条文例は、一般的な協業契約を想定したサンプル条文です。
※具体的な実情に合わせて個別調整する必要があります。

■ 第○条(役割分担および業務範囲)

甲および乙は、本件協業に関し、別紙業務分担表に定めるとおり、
各自の業務範囲および責任範囲を分担するものとする。
甲および乙は、当該分担内容に変更が生じる場合、
書面(電子メール等を含む)により協議のうえ合意する。

■ 第○条(成果物の定義および検査)

本件協業における成果物の範囲・水準・納品方法は、
別紙成果仕様書に定めるものとする。
甲および乙は、成果物の受領後○日以内に検査を行い、
不適合がある場合は速やかに通知するものとする。

■ 第○条(費用負担・収益配分)

本件協業における費用負担および収益配分は、
別紙収益配分表に基づき行う。
外部環境の変動その他合理的な事由により配分基準の見直しが必要な場合、
甲乙協議のうえ書面で変更する。

■ 第○条(想定外事象への対応)

本件協業の遂行において、
技術的変更、市場環境の変動、法令改正その他想定外の事由が生じた場合、
甲および乙は、速やかに協議を行い、
必要な業務範囲の調整、費用負担の見直し等を行うものとする。

■ 第○条(契約期間および終了)

本契約の有効期間は契約締結日から○年間とする。
甲または乙は、相手方が本契約に重大な違反をした場合、
書面による催告のうえ本契約を解除できる。


8. まとめ

協業の成功は“運”ではありません。
成功企業の共通点はたったひとつ。

⭐「協業前の認識合わせ」を丁寧にやっている。

  • 利害が一致している協業前は最も腹を割れる
  • 利害が動き始めると本音が言えなくなる
  • 契約書は“認識を見える化するツール”
  • 認識のズレを防ぐことで協業の継続率は劇的に上がる

協業は、良好な関係づくりから始まり、
認識の可視化(契約書)によって安定し、
初めて成果が生まれます。

ぜひ本記事を参考に、
次の協業では「始める前の認識合わせ」を徹底してみてください。


【音声解説】

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【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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