ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに
今回は、「これまで社長ご自身の経験値で回してきたビジネス」を、次の世代にどうバトンタッチしていくか──その中で“契約書”が果たせる役割についてまとめてみたいと思います。
「契約書を作りたい」というより、「頭の中を整理したい」
「これまで社長である自分の頭の中ですべてやってきたけれど、 そろそろ次の世代に引き継いでいく時期になってきた。 そうなると、口頭で済ませてきた取引条件も、きちんと文字にしておかないといけない気がして…。」
こうしたご相談を最近、よくいただきます。
その際に出てくる言葉のひとつが──
「契約書をつくるというよりも、頭の中を整理したくて…」 というものです。
長年の経験をもとに、商談や発注、支払条件、納期などを社長自らがコントロールしてこられた企業ほど、社内に“明文化されたルール”がないことも珍しくありません。それでも滞りなくビジネスが回っていたのは、まさに社長の手腕と現場の感覚があってこそ。
しかしながら、「事業承継」「組織化」「社員さんへの権限移譲」といったフェーズに入ると、社長の“頭の中”を言語化して誰かに渡すという作業が必要になってきます。
取引先が「社長」ではなく「担当者」と話すようになったら
契約書整備のタイミングとして、よくあるのが以下のような状況です:
- 商談全般を社員さんに任せ始めた
- 新規取引先が上場企業や外資系企業など、取引条件に厳しい企業になってきた
- 事業承継の準備として、社内ルールを明文化しておきたいと思った
特に、「営業を社員さんに任せたが、取引条件が毎回違っている」というご相談は少なくありません。
これは社員さんが悪いわけではなく、「この取引はこうやる」という基準が社内に明文化されていないために起きることです。 そんなときにこそ、“契約書の自社ひな形”が力を発揮します。
契約書が果たす役割は「取りっぱぐれの防止」だけではない
契約書というと、「何かあったときに裁判で使うもの」と思われる方もいらっしゃいます。
確かに、そうした役割もあります。しかし実務の現場ではむしろ、 「商談内容を正確に伝え、誤解を防ぎ、信頼関係を築く道具」としての契約書の価値が大きいと感じています。
社長が口頭でサッと話して済ませていたようなことでも、社員さんにとっては「え、ここってそんな条件だったんですか?」というズレが起きることがあります。 この“ちょっとしたボタンの掛け違い”が、後のトラブルの火種になることも少なくありません。
契約書整備がもたらす安心と信頼
契約書を整備することで得られるのは、「法律的に強い書面」だけではありません。
- 社員さんが安心して営業できるようになる
- 社外の取引先にも「この会社はしっかりしているな」と思ってもらえる
- 事業承継の際、引き継ぎがスムーズに進む
- 万が一、社長が現場から離れるときも、会社のルールが機能する
つまり、「社長不在でも会社が回る」状態を少しずつ作っていくことにもつながります。
契約書は“事業承継ツール”としても活きる
実は、契約書というのは「法的な保険」や「トラブル回避」のためだけのものではありません。
“事業承継のツール”としても、大きな力を発揮します。
なぜなら、契約書にはその会社が「どんな価値観で」「どんな条件で」取引を行ってきたのか、という会社の歴史の蓄積が言語化されているからです。
たとえば、長年にわたって築いてきた得意先との取引条件や、支払い・納品に関する微妙な温度感。そういった“感覚的な判断”を、後継者がそのまま受け継ぐことは簡単ではありません。
契約書を整備しておくことで、次のような効果が生まれます:
- 後継者が迷わず取引の判断ができる
- 得意先との関係性を“同じ温度感”で引き継げる
- 社員や取引先に対して「この会社は変わらず信頼できる」という印象を与えられる
つまり、契約書は“社長の経営哲学”や“信頼のスタイル”を、次の世代へと受け渡すツールでももいえるのです。
「頭の中にあること」を一緒に整理します
ただ、社長の頭の中にあるノウハウを“言語化”するのは簡単なことではありません。
「こういうときは、この金額でやってたな」 「納期は〇日って言ってるけど、実際はこの取引先だけ特別扱いしてて…」
こういった微妙な“さじ加減”こそが、長年の信頼を築いてきた証でもあります。 しかし、それをそのまま社員さんに伝えるのは難しい。
そこで私たちのような専門家が間に入り、社長の経験を汲み取りながら、契約書という“わかりやすい形”に整えていくお手伝いをしています。
さいごに:社員や後継者に安心を「見える形」で渡す
事業承継では、「自分が辞めた後も、社員さんが安心して働けるようにしたい」という想いが強くなるものです。
だからこそ、「契約書」という客観的なツールが、感情を整理し、ルールを言語化する手段として役に立つのです。
契約書の整備は、何も「法務部のある大企業だけの話」ではありません。
むしろ、少数精鋭で動いてきた中小ベンチャー企業にとって、社長の頭の中のノウハウを“見える形”にして残すことは、これからの経営の安心材料になります。
私たちのような専門家は、社長の思いをそのまま汲み取って「言葉にする」ことができます。 必要に応じて、社員さんへの説明にも同席し、「難しそうでよく分からない」という不安を取り除くサポートもしております。
「そろそろ、うちも契約書を整えないといけないかな…」 「でも、何から始めたらいいのか分からない…」
そんな風に思われたときは、どうぞお気軽にご相談ください。 社長の頭の中の“モヤッと”を、きちんと整えるお手伝いをさせていただいております。
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