ビジネス法務

【契約書のトリセツ】契約のやめ方

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1. はじめに

「すみません、来月からジムをやめたいんですけど」
カウンターで伝えると、スタッフから返ってきたのは意外な答え。

「解約は1か月前までに書面で申し出ていただく必要があります」

「え? 今日言えばすぐやめられるんじゃないの?」

こんな経験、ありませんか?

実は「契約」というのは、いったん結んだら自由にやめられるものではありません。
むしろ「続けること」が前提であり、やめたいときには正しいルールに従わなければならないのです。

この記事では、

  • 解約と解除の違い
  • 契約をやめる3つのルート
  • 消費者だけが持つ特別ルール
  • 実務に役立つ条項例と通知書の雛形
    を解説します。

    2. 解約と解除はどう違う?

    • 解約:これから先の契約関係をやめること。
       例:動画配信サービスを「来月でストップします」と申請する。
    • 解除:過去にさかのぼって契約をなかったことに近づけること。
       例:訪問販売で買った商品に欠陥があり、返品・返金を求める。

    そして重要なのは、解除はハードルが高いということ。
    小さな不満や軽微な遅延では足りず、

    • 重大な債務不履行(契約違反)があること
    • 原則として「履行してください」と催告しても改善されないこと
      が必要です。

    重大な違反の場合には催告を省略して即時解除できるケースもありますが、「勝手に解除だ!」と宣言しても無効になり、逆に自分が契約違反扱いになる危険すらあるのです。


    3. 契約をやめる3つのルート

    1. 合意解約
       双方の話し合いで「ここでやめましょう」と一致すれば、合意解約として終了。
    2. 契約書に書かれたルールを使う
       例:「30日前に通知すれば解約できる」「相手が重大な違反をしたら解除できる」など。
    3. 法律が特別に認めている場合
       例:訪問販売のクーリング・オフ、エステや語学教室の途中解約権など。

    4. 消費者に認められる特別ルール

    • クーリング・オフ制度(特定商取引法)
       訪問販売や電話勧誘販売は、8日以内なら無条件で契約解除が可能。
    • 特定継続的役務提供(エステ・英会話・学習塾など)
       「やっぱり続けられない」と思ったときに途中でやめられる。ただし受けたサービス分は支払う必要あり。
    • 通信販売
       クーリング・オフ対象外。返品の可否は「返品不可」といった販売者の表示ルールに従います。

    5. よくある誤解とトラブル事例

    • 「解約って、いつでも自由にできるんでしょ?」
       → ✕ 契約書や法律に根拠が必要。
    • 「解除したら全額返ってくるんだよね?」
       → ✕ 提供済みのサービス分は精算が必要。
    • 「LINEで“解約します”って送れば終わりでしょ?」
       → ✕ 契約書に「書面で通知」とあれば従わないと無効リスク。
    • 「納期が少し遅れただけでも解除できるよね?」
       → ✕ 軽微な不履行では不可。重大な違反と手続きを要します。

    6. 中途解約条項のサンプル

    (中途解約)
    
    第○条 甲または乙は、本契約の期間中であっても、
    相手方に対し書面により○か月前までに通知することにより、
    本契約を将来に向かって解約することができる。
    
    2 本条による解約がなされた場合において、
    すでに提供された役務または納品済み成果物に対する報酬は、
    相手方に支払うものとする。
    
    3 前項のほか、解約に伴い合理的に発生した費用がある場合、
    解約を申し入れた当事者はこれを負担する。
    

    7. 中途解約通知書(全文ひな形)

    中途解約通知書
    
    令和○年○月○日
    
    ○○株式会社
    代表取締役 ○○ ○○ 殿
    
    契約中途解約の通知
    
    拝啓 貴社ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
    
    さて、当社と貴社との間で令和○年○月○日付で締結いたしました「○○契約」
    (以下「本契約」といいます。)につきまして、
    本契約第○条(中途解約)の定めに基づき、下記のとおり通知いたします。
    
    記
    
    1.解約の根拠
     本契約第○条の定めに従い、当社は本契約を中途解約いたします。
    
    2.解約の効力発生日
     本通知到達日から起算して○か月後である令和○年○月○日をもって、
     本契約は終了するものといたします。
    
    3.精算等
     本契約の解約に伴う費用・報酬等の精算については、
     本契約の定め及び当事者間の協議により誠実に処理いたします。
    
    以上
    
    株式会社△△
    代表取締役 △△ △△ 印
    

    ※上記の条文例・通知書は、契約実務に関する一般的な参考情報として掲載したものです。
    実際の契約内容や取引関係に応じて修正が必要となる場合がありますので、具体的な案件については専門家にご相談ください。


    8. まとめ

    契約の出口は、

    1. 合意解約
    2. 契約書のルールに従う
    3. 消費者保護の特例を使う

    この3つしかありません。

    特に「解除」はハードルが高く、重大な不履行+正しい手続きが必要。
    一方で「中途解約条項」を設けておけば、相手に非がなくても契約を円満に終了できます。

    契約は「結ぶとき」だけでなく「やめるとき」まで設計しておくこと。
    これこそが、安心してビジネスを進めるための「契約書のトリセツ」です。


    【音声解説】

    本記事の内容は、
    音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
    ▽ 音声はこちら(stand.fm)


    【執筆者】

    ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
    現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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    最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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