ビジネス法務

【契約書のトリセツ】「お行儀の良い契約書」では勝てない

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.契約書は、法律に従って作るもの??

契約書は、法律に従って作るもの――そう思われている方は多いのではないでしょうか。
ご相談を受けていると、「法律があって、その範囲で契約を作るものですよね?」
という前提で話が進むことがよくあります。

確かに一般的なイメージとしては、法律が上位にあり、
その枠の中で契約書を作るという理解が自然です。

しかし、契約実務の現場に長く携わっていると、
この理解には少しズレがあると感じる場面が少なくありません。

むしろ実際の取引では、「契約で決めたルールが現場を動かしている」という構造が見えてきます。


2.契約は「法律の範囲内で自由に作れるルール」です。

結論から言うと、契約は当事者同士で自由に決めることができます。
これが民法で定められている「契約自由の原則」です。
また、契約をするかどうかも、どのような内容にするかも、原則として当事者の意思に委ねられています。

民法第521条(契約の締結及び内容の自由)
何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

そして重要なのは、契約で定めた内容は、法律の一般的なルールよりも優先されるという点です。
つまり、実際の取引を動かしているのは法律そのものではなく、当事者が合意した契約内容です。


3.法律が守ってくれる?

実務では、「法律があるから大丈夫」と考えてしまうケースが多く見られます。
しかし現実には、契約書で別のルールを定めていれば、そちらが優先される場面がほとんどです。

例えば、

  • 支払期限/支払条件
  • 損害賠償の範囲
  • 解約条件

などは、契約によって自由に設計できます。
そのため、契約書をよく読まずにサインしてしまうことは、
自分に不利なルールをそのまま受け入れてしまうことと同じ意味を持ちます。

法律があるから安心、ではなく、「契約でどう決められているか」を見ることがとても重要です。


4.契約書は「自分たちで作るルール」であり、法律はその土台

契約書の本質は、法律を守るための書類ではなく、取引のルールを設計するためのツールです。
法律はあくまで最低限のルールであり、その上に実務のルールを上書きしていくのが契約です。

ここで重要なのが、「任意規定」と「強行規定」という考え方です。

民法の多くのルールは「任意規定」と呼ばれ、当事者の合意によって自由に変更することができます。
つまり、「法律にこう書いてある」内容であっても、契約で別のルールを定めれば、
それが優先されるという仕組みです。

一方で、「強行規定」と呼ばれるルールも存在します。
これは、どれだけ当事者同士で合意しても変更できないルールです。
例えば、消費者契約法中小受託取引適正化法(取適法;下請法)など
のルールがこれにあたります。

この構造を理解すると、「契約が法律より強い」という言葉の意味がより正確に見えてきます。
正確には、「任意規定の範囲では契約が上書きできる」ということです。

また、公序良俗に反する内容は無効となる可能性もあります。

民法第90条(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

ただ、こうした制限はあくまで例外的なものです。
そのため、ビジネスに関する取決めについては、
「原則として当事者間で自由に決めることができる」という理解で差し支えありません。


5.契約を使える会社と使えない会社の違いは明確

契約を使いこなしている会社は、自社で契約書を用意し、自社のルールを相手に提示します。
つまり、「交渉の起点」を自分たちで握っています。
その結果、条件をコントロールでき、リスクを抑えながら収益構造を設計することができます。

これに対して、契約を使えていない会社は、相手の契約書にそのままサインしてしまいます。
その時点で、ルールは相手側に決められており、交渉の主導権も失われています。
その結果、条件をコントロールできず、利益が不安定になりやすくなります。

この差を生むのが、「自社フォーマット(雛形)」の有無です。
あらかじめ自社に有利なルールを組み込んだ契約書を準備し、それを先に提示する。
この一手だけで、交渉の主導権を握れる可能性が高まります。

契約は後から調整するものではなく、最初に設計するものです。
ここを押さえているかどうかで、結果は大きく変わります。


6.「お行儀の良い契約書」では勝てない

上述の通り、契約書は、法律に従って作るものではなく、
法律の範囲内で自分たちのルールを設計するためのものです。
そして、そのルールは実際の取引において、法律の一般的なルールよりも優先されます。

法務部に配属されたばかりの頃、いわゆる「お行儀の良い契約書」を作成して
上司に見せたことがありました。

そのときに言われたのが、
「何のために法務がいると思っているんだ!契約自由の原則を使って法律の枠内で、
自社に有利な条件を設計して会社に利益をもたらすためにいるんだろう」

という一言でした。

当時は少し厳しく感じましたが、この言葉が契約実務の見方を大きく変えたのも事実です。
契約書は“法律を守るためのもの”ではなく、“ビジネスの条件を設計するためのもの”であるという視点は、
ここから始まりました。

実際に現在の実務を見ても、大手企業ほど法務部門の体制を強化し、
法律の範囲内でどこまで自社に有利な条件を設計できるかを綿密に検討しています。
これはまさに、契約自由の原則を前提にした動きと言えるでしょう。

この構造を理解すると、契約書の見え方は大きく変わります。
契約書は単なる形式的な書類ではなく、ビジネスを動かす設計図であり、意思決定そのものです。

契約自由の原則を理解することで、受け身で契約を結ぶ立場から、
主体的にルールを設計する立場へと視点が変わります。

契約書は「守るもの」ではなく、「作るもの」です。
この視点を持つことが、これからのビジネスにおいて大きな差を生みます。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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