ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. はじめに
- 2. NDA(秘密保持契約)をなめてはいけない
- 3. 契約書は「記憶の凍結保存」
- 4. 共創を成功させる7つのポイント
- 5. 契約書は共創のOS
- 6. おわりに
- 7. セミナー資料と契約書テンプレートについて
1. はじめに
先日、埼玉県のオープンイノベーション拠点 「渋沢MIX」 にて開催されたイベント
「つながるサロンBIG」(主催:NPO法人さいたま起業家協議会)にて、
第2部「契約書編」の講師として登壇させていただきました。
今回のイベント全体のテーマは 「共創デザイン」。
アイデアをビジネスに変えるための仕組みを考えるという趣旨のイベントでした。

近年、企業同士の協業やオープンイノベーションはますます増えています。
スタートアップと大企業、メーカーとIT企業、クリエイターと企業など、
異なる強みを持つプレイヤーが連携することで新しい価値を生み出す時代です。
しかし実務の現場では、そのような共創プロジェクトが途中で止まったり、
関係がぎくしゃくしてしまうケースも少なくありません。
原因の多くは、技術やアイデアではなく 「関係性の設計」 にあります。
誰が何を担当するのか、費用は誰が負担するのか、利益はどう分配するのか。
そうしたルールが曖昧なままプロジェクトがスタートしてしまうと、
後から期待値のズレが生まれ、トラブルにつながることがあります。
そこで今回のセミナーでは、共創を継続するためのルール設計という観点から、契約実務についてお話しました。
2. NDA(秘密保持契約)をなめてはいけない
第2部の前半では、ビジネスの一般用語にもなりつつある NDA(秘密保持契約) について解説しました。
最近では新聞や経済ニュースでも「NDAを締結」といった表現が普通に使われています。
しかし実務では、この契約について誤解されていることも多くあります。
NDAは「これから具体的な打ち合わせを始めるにあたって、やり取りする情報を秘密にしておきましょう」という契約です。
取引契約や売買契約とは違い、基本的にはお金のやり取りは書かれていません。
そのため、軽い気持ちで締結してしまうケースもありますが、実際には注意すべきポイントがいくつもあります。
例えば、特許やノウハウの帰属が相手企業になる条項が入っていることがあります。
また、秘密情報の範囲が広すぎたり、秘密保持期間(存続期間)が極端に長かったりする契約もあります。こ
うした内容をよく確認せずに締結してしまうと、後から自社に不利な状況になる可能性があります。
もう一つ、実務上よくある注意点があります。
それは 「NDAを締結した事実そのものを公開してよいのか」 という問題です。
多くのNDAでは、契約の存在自体を秘密とする趣旨の条項が入っています。
そのため、SNSなどで「某大企業とNDAを締結しました!」と発信してしまうと、契約違反になる可能性があります。
こうした点は、実務では意外と知られていないポイントです。
3. 契約書は「記憶の凍結保存」
講義の中で、参加者の皆さんにこんな質問をしました。
「3日前のお昼ごはん、覚えていますか?」多くの方が苦笑しながら首を振ります。
人間の記憶というのは、驚くほど曖昧なものです。
しかしビジネスでは、「誰が何を言ったのか」「どこまで合意したのか」といったことが後から問題になります。
共創プロジェクトの多くは、ブレストや雑談の中で「一緒にやりましょう」という流れから始まります。
最初は勢いがあり、前向きな空気の中で話が進みます。
しかし、数ヶ月後や数年後になって状況が変わると、当初の約束の認識が食い違うことがあります。
そこで重要になるのが契約書です。
契約書は、単なる法律文書ではありません。
その時点での合意や思いを言語化し、 「凍結保存」 するツールだと私は考えています。
契約書にすべてを書ききることが難しい場合でも、議事録やメールで合意内容を残しておくことで、
後から確認できる形にすることができます。
こうした記録は、トラブルを防ぐうえで非常に重要です。

4. 共創を成功させる7つのポイント
今回のセミナーでは、共創プロジェクトを進める際に最低限決めておくべき 7つのポイント を紹介しました。
- アイデアの出どころ(権利関係)
- 秘密情報の線引き
- 役割分担
- 費用負担
- 収益配分
- 契約解除
- 契約期間と更新
特に重要なのは 「出口の設計」 です。
共創プロジェクトでは「うまくいったらどうするか」ばかりが議論されがちですが、
「うまくいかなかった場合どうするか」も同じくらい重要です。
成果が出なかった場合にどのタイミングで終了するのか、途中で方向性が変わった場合はどうするのか。
こうしたルールを最初に決めておくことで、関係性を壊さずにプロジェクトを整理することができます。
また、契約の内容が曖昧な場合、トラブルの多くは 期待値のズレ から生まれます。
例えば「綺麗なホームページを作る」という表現は、一見わかりやすいようで実は曖昧です。
しかし、何をもって「綺麗」とするのか、どこまでが業務範囲なのかが明確でないと、
後から認識の違いが生まれることもあります。
契約書は、こうした曖昧さをできるだけ減らし、後から疑問が生じないようにするための文書です。
5. 契約書は共創のOS
契約書は、相手を疑うために結ぶものではありません。
むしろ 信頼関係を壊さないための仕組み です。人の記憶は曖昧であり、状況や立場も変わります。
だからこそ、その時点での合意を言葉として残しておく必要があります。
私はよく「契約書はトラブルのための文書ではなく、共創の解像度を上げるツールだ」とお話しています。
役割や責任、利益配分やリスクの所在を整理することで、プロジェクトの全体像がはっきりします。
その意味で、契約書は共創プロジェクトを動かす OS(基本ソフト) のような存在だと言えるかもしれません。
今回のセミナーでは、NDAや業務提携契約、収益配分、契約解除など、具体的な契約実務を通じて、
共創を続けるためのルール設計についてお話しました。
参加者の皆さんからは、スマートフォンを使った匿名質問ボードを通じて多くの質問が寄せられ、
大企業との契約交渉やAIを使った契約書作成など、実務的で鋭いテーマについて活発な応答が行われました。

6. おわりに
セミナー終了後の名刺交換会では、NDAのチェックや協業契約の相談など、
さまざまなご質問をいただきました。ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。
オープンイノベーションや共創が当たり前になりつつある今、
契約は単なる法律の問題ではなく ビジネスを動かすためのインフラ になりつつあります。
アイデアをビジネスに変えるためには、技術や発想だけでなく、関係性を設計する力も必要です。
今回の記事が、そのヒントになっていれば幸いです。
7. セミナー資料と契約書テンプレートについて
今回のセミナー終了後、交流会で参加者の方から
「今日の内容を実務で使える形にしたい」
「業務提携の雛形ってありますか?」
「NDAはどういうものを使えばいいですか?」
といったご質問をいくつもいただきました。
確かに、共創プロジェクトの話は盛り上がるものの、
・契約書をどう作ればいいのか
・何を話し合っておくべきなのか
・どこまで決めておけばいいのか
といった点で迷う方は少なくありません。
そこで今回、
セミナーでお話しした内容をベースに
・NDA(秘密保持契約書)
・業務提携契約書
・「共創」の前に話し合っておきたいチェックリスト
・セミナー解説スライド
を 実務で使える資料として整理しました。
セミナーの思想的な内容を実際に使えるツールとしてまとめたものです。
ご関心のある方は、こちらをご覧ください。

【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。











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