ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.契約書の最後に書いてある…
本契約締結の証として本書2通を作成し、各自記名押印の上、各1通ずつ保有するものとする。
この「記名押印」。
「署名押印」と何が違うのか、
自信を持って説明できますか?
なんとなく使っている。
なんとなく押している。
でも、いざ問われると少し曖昧になる。
実はこのテーマ、セミナーでも非常によく質問を受けます。
2.自筆かどうかで決まる
- 記名=自筆でなくてもよい氏名の表示
- 署名=自筆で書いた氏名(サイン・自署)
違いは「自筆かどうか」です。
そして契約書では、
条文の書き方によって求められる形式が変わります。
3.様々な疑問
- ゴム印でも大丈夫ですか?
- パソコンで印字した名前でも有効ですか?
- 「署名押印」とあるのに印字+押印で返ってきました。大丈夫でしょうか?
- PDFで送れば電子契約になりますか?
契約事務の現場では、
こうした“素朴だけれど重要な疑問”が頻繁に出てきます。
4.あらためての整理
■ 記名とは何か
日本組織内弁護士協会監修
『契約用語使い分け辞典』(新日本法規出版)によれば、
記名は、契約書等の文書作成者の氏名を当該文書に記すことをいう。必ずしも自筆であることを要せず、印刷、ゴム印、他人の記載によることも差し支えない。
つまり、
- 印刷された氏名
- ゴム印
- パソコン入力
これらはすべて「記名」です。
■ 署名とは何か
同書では、
署名は、記名のうち、文書作成者が自らその氏名を記載することをいう。サインと呼ばれることもある。自署も同義である。
つまり、
自筆=署名
という整理になります。
■ なぜ「記名押印」と「署名捺印」があるのか
契約書では通常、
記名押印
と書かれていることが多いです。
これは、印字された氏名に押印があれば足りるという整理です。
一方で、
署名捺印(署名押印)
とあえて定める場合があります。
これは、自筆の署名を求めることで、
証拠としての強さを一段引き上げたい場合に使われます。
つまり違いは、
- 契約を成立させるかどうかの問題というよりも
- 将来争いになったときの“証拠力”の設計の問題
です。
通常の取引であれば「記名押印」で十分なことが多い。
しかし、
- 個人との高額取引
- 長期契約
- 不動産取引
- トラブルが想定される契約
などでは、
より確実な証拠を残すために「署名捺印」を求める
という実務判断がなされることもあります。
5.電子契約と電子署名
■ 電子契約の増加
近年、電子契約は急速に普及しています。
紙の契約書に代えて、電子データで締結するケースが増えました。
そこで登場するのが電子署名です。
■ 電子署名とは何か
電子署名とは、単に“電子的にサインをすること”ではありません。
法律上の電子署名とは、
「電子署名及び認証業務に関する法律」によれば、
- その電子文書が本人によって作成されたこと
- その後に改ざんされていないこと
この2つを技術的に担保する仕組みを指します。
一般には「公開鍵暗号方式」という技術を用い、
- 文書の要約データを作成し
- 署名者の秘密鍵で暗号化し
- 公開鍵で検証できるようにする
といった仕組みで成り立っています。
専門的な理解までは不要ですが、
電子署名=本人性と非改ざん性を技術的に担保する仕組み
という点は押さえておくと十分です。
■ 「電子的なハンコ」との違い
ここで注意したいのが、
いわゆる「電子的なハンコ画像」をPDFに貼り付けることと、
法律上の電子署名は別物だという点です。
印影画像を貼っただけでは、
- 本人が本当に押したのか
- 後から内容が書き換えられていないか
を技術的に証明することはできません。
単にPDF化するだけでは足りず、
電子署名という仕組みが付与されていることが重要です。
6.まとめ
記名と署名。
とても基礎的な話です。
けれど、大学の法学部でも
この“実務の基礎”はあまり教わりません。
だからこそ、
- 知らなくて当たり前
- でも、知っていれば強い
実際、セミナーではよくこう言われます。
「それが聞きたかった」
「明日から自信を持って契約事務ができます」
契約書は、
嫌々やるものではありません。
理解すれば、
自分の武器になります。
このブログは、
契約書に関する「困った」をなくすために書いています。
基礎の基礎こそ、一番大切です。
次回以降も、実務に直結するテーマを取り上げていきます。
「こんなこと知りたい」ぜひお寄せください。
一緒に、契約書の解像度を上げていきましょう!

【音声解説】
本記事の内容は、
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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