ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.前項第3号乃至第9号はどこまで含む?
- 2.「乃至」は連続範囲をすべて含む
- 3.実務でのリアルな構造
- 4.「乃至」と「~」の違い
- 5.では、「乃至」は使うべきか?
- 6.実務上の確認ポイント
- 7.読者ファースト変換リスト
- 8.まとめ
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.前項第3号乃至第9号はどこまで含む?
契約書を読んでいて、手が止まる瞬間があります。
前項第3号乃至第9号
まず読めない。意味が分からない。
どこまで含むのか自信がない。
(お恥ずかしながら、過去の私がそうでした)
今回はこの「乃至(ないし)」を、
実務でよく出てくる条文構造で整理します。
例えば、こんな条文です。
前項第3号乃至第9号に違反した場合、甲は本契約を解除できる。
ここで迷うのは、
- 第3号と第9号だけなのか
- 第3号から第9号まで全部なのか
- 第4号から第8号も対象なのか
契約書は「範囲」を設計する文書でもあります。
この範囲の読み違いは、
- 解除範囲の誤認
- 責任範囲の誤認
につながりかねません。
正確な理解が必要です。
2.「乃至」は連続範囲をすべて含む
一般に、法令および契約実務において
「乃至(ないし)」は、AからBまでの連続範囲を含む趣旨で用いられます。
したがって、
前項第3号乃至第9号
と記載されていれば、通常は
第3号・第4号・第5号・第6号・第7号・第8号・第9号
を含むと理解されます。
3.実務でのリアルな構造
実務でよく見かける条文構造を、具体例で見てみましょう。
第10条(解除及び期限の利益の喪失)
1.甲は、乙が次の各号のいずれかに該当した場合には、本契約の全部又は一部を解除できる。
(1) 本契約に基づく支払を怠ったとき
(2) 是正の要求を受けたにもかかわらず軽微な義務違反を是正しないとき
(3) 差押え、仮差押え又は仮処分を受けたとき
(4) 破産手続開始の申立てがあったとき
(5) 民事再生手続開始の申立てがあったとき
(6) 会社更生手続開始の申立てがあったとき
(7) 手形又は小切手が不渡りとなったとき
(8) 解散又は事業廃止の決議をしたとき
(9) その他信用状態が著しく悪化したと合理的に認められるとき2.前項第3号乃至第9号に該当した場合、乙は当然に期限の利益を喪失し、甲は残債務の全部について直ちに支払を請求できる。
この構造のポイントは、第1項と第2項の連動です。
第1項では、解除事由を広く列挙しています。
しかし第2項で、
前項第3号乃至第9号
と指定した瞬間、
- 差押え
- 各種倒産手続
- 不渡り
- 解散
- 信用状態の著しい悪化
これらすべてが、
分割払いをやめて一括請求できる事由
になります。
もしこれが
「第3号及び第9号」
であれば、対象は両端だけです。
しかし「乃至」と書いた瞬間、
間の第4号から第8号まで含まれます。
つまり、
「乃至」は、期限の利益を一気に失わせる範囲をまとめて指定すること
になるのです。
この二文字で、
- 分割払いが続くのか
- 今日すぐ全額払わなければならないのか
が変わります。
これが「範囲指定」の重みです。
| 用語 | 読み替え | 視覚的イメージ | 範囲の広さ |
|---|---|---|---|
| 乃至(ないし) | ~から~まで | 面(塗りつぶし) | 広い |
| 及び(および) | AとB | 点(ピンポイント) | 狭い |
4.「乃至」と「~」の違い
ビジネスメールでは、
第3号〜第9号
と記載することがあります。
しかし契約実務では、通常このような記号は用いません。
理由としては、
- 表示環境による文字の揺れを避けるため
- 終点を含むかどうかの疑義を避けるため
- 文言で明示する慣行があるため
などが挙げられます。
そのため契約書では、
- 「乃至」
- 「から……まで」
といった文言で明確に示すことが一般的です。
5.では、「乃至」は使うべきか?
「乃至」は現在も法令・契約書で用いられている表現であり、不適切な語ではありません。
もっとも、
前項第3号から第9号まで
と記載しても、通常は同様の意味になります。
そして、
- 読みやすい
- 誤読しにくい
という利点があります。
契約書は、
- 経営者
- 営業担当者
- 現場責任者
- 経理担当者
など、多くの社内関係者が読む文書です。
契約書は、法律の専門家だけのものではありません。
実際に契約を運用する人たちが読む文書です。
そして、法律文書における専門性とは、
解釈の余地を減らすこと
であって、
難しい言葉を使うこと
ではありません。
契約書の目的は、
- 相手と合意内容を共有すること
- 社内で運用できること
- 後から読んでもブレないこと
にあります。
だからこそ、
「素人にも分かるように書く」というよりも、
誰が読んでも同じ意味に読めるように書く
ことが重要なのです。
難解語を使うことで一瞬でも立ち止まらせるなら、
それは解釈の安定性を損なう可能性があります。
平易な言葉で、明確に書く。
それが、実務契約における本当の専門性だと私は考えています。
6.実務上の確認ポイント
契約書に「乃至」が出てきたら、次を確認しましょう。
- 範囲はどこからどこまでか
- 連続するすべての号が対象になっていないか
- 自分にとって不利な義務が含まれていないか
範囲が広すぎると感じる場合には、
交渉の余地がある前提で、
第3号及び第4号
のように限定的に修正する提案を行うこともあります。
7.読者ファースト変換リスト
以上のように、
「誰が読んでも同じ意味に読めること」を重視するという観点に立てば、
契約書の表現も読者ファーストで整える余地があります。
例えば、次のような置き換えが考えられます。
| 区分 | 従来表現 | 読者ファースト視点での整理 | 実務コメント |
|---|---|---|---|
| 平易化推奨 | 乃至 | 「~から~まで」 | 意味は通常同じ。契約書でも置換可能な場面が多い |
| 平易化推奨 | 罷免 | 「解任」 | 民間契約では「解任」が一般的。公法的ニュアンスを避けられる |
| 具体化推奨 | 速やかに | 「○日以内に」 | 解釈幅が生じやすい語。可能であれば具体的日数を明示する方が安定的 |
| 具体化推奨 | 直ちに | 「即時に」又は具体的時間指定 | 一切の遅延を許さない趣旨。緊急条項では具体化が望ましい場合あり |
| 具体化推奨 | 遅滞なく | 「合理的期間内に」又は「○日以内に」 | 判例上一定の解釈はあるが、実務では期間明示がより安全 |
| 用語更新 | 瑕疵 | 「契約不適合」へ | 2020年民法改正後は「契約不適合責任」が基本概念。旧法語のまま放置しない |
| 原則維持 | 遺漏 | (原則維持) | 「遺漏なく」は慣用的法的表現として定着。無理な平易化は不要 |
| 原則維持 | 貼付 | (原則維持) | 印紙税・行政実務で標準用語。一般語へ置換する実益は乏しい |
8.まとめ
今回のテーマは「乃至(ないし)」でした。
ポイントはシンプルです。
- 「乃至」は通常、連続する範囲をすべて含む
- 範囲を広げる言葉であることを意識する
- 「から~まで」と書いても、通常は同じ意味になる
契約書は、
責任と義務の範囲を設計する文書です。
小さな言葉一つが、
解除できる範囲や責任の広さを決めます。
そして専門性とは、
難しい言葉を使うことではなく、
誰が読んでも同じ意味に読めるように書くこと。
その視点を持てるだけで、
契約書の読み方も、書き方も、少し変わってきます。

【音声解説】
本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
【ご質問受付中】
「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。
また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。










この記事へのコメントはありません。