ビジネス法務

【契約書のトリセツ】契約書=営業ツール という発想~「またお願いしたい」と言われる仕組みを契約書で整える~

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。



「契約書って、揉めたときのための“保険”でしょ?」

そう思われている方もきっと多いのではないでしょうか。
しかし、20年以上も契約書にかかわる仕事をしておりますと、契約書にはもっと大きな力や可能性があるように感じています。

それは――
「この人になら、またお願いしたい」と思ってもらえる力です。

今回は、契約書をただのリスク管理ツールではなく、営業ツールとして活用する発想をご紹介します。

キーワードは、“期待値のコントロール”です。


たとえば、Web制作や動画編集、ライティングなどの“成果物を納品する仕事”。
納品後に起きやすいトラブルの多くは、実は「品質」ではなく「期待とのズレ」が原因です。

  • 思ってたのと違う…
  • もっとこうなると思ってた…
  • 説明が足りなかったのでは?

こうしたトラブルの火種を、契約段階で取り除いておけたら──

  • 「あ、ここまで丁寧に書いてくれてたんだ」
  • 「この会社、ちゃんとしてるな」
  • 「またお願いしようかな」

このようにに思ってもらえる確率がグッと高まります。

つまり契約書は、「営業トークの裏付け」であり、「信頼の設計図」。
“ちゃんとしてる会社”と思ってもらうためのツールでもあるのです。


①「この契約は何のためか」を最初に書く(契約目的)

契約書の冒頭で、契約の目的を明記しておくと、
「この契約は何を目指すものなのか」というゴールのイメージを共有できます。

契約目的の条文例(第1条)

本契約は、甲が新商品の販売促進を目的として乙にWebサイト制作業務を委託し、乙がこれを受託することに関し、必要な条件を定めるものである。

完成イメージがブレにくくなり、
途中から要求が変わる“仕様のねじれ”を防ぐことができます。

また、目的条項は、契約の方向性を明確にするだけでなく、万一トラブルが起きたときの“契約解釈の補強資料”になることもあります。本文との整合性が重要なゆえんです。

②「何をどこまでやるか」を具体的に書く(業務内容・仕様)

契約書本文だけで業務範囲を完璧に書き切るのは、正直むずかしいです。
だからこそ、仕様書や別紙資料を活用するのがおすすめです。
また、“含まれること”と“含まれないこと”の両方を書いておくと、お互いの認識ズレが防げます。これが契約書ライティングのコツです。

業務定義の条文例(第2条)

本件業務とは、以下の内容を含むWebサイト制作業務をいう。
① トップページおよび下層ページ(計5ページ)の構成・デザイン
② スマートフォン対応(レスポンシブ化)
③ Google Analyticsタグの設置

なお、以下の業務は本件業務に含まれないものとする。
・サーバー契約およびドメイン取得代行
・納品後の保守・運用作業(別途見積)
・SEO施策に関する助言・分析

さらに、仕様書の位置づけも契約書に明記しておくと安心です。

仕様書の扱い例文:
本契約に付随して作成される仕様書は、本契約の一部を構成するものとし、業務内容の詳細はこれに従う。

③「どこまで責任を負うか」を明確にしておく(責任範囲の設計)

「思ってたのと違う」と言われても、
すべての満足を保証する義務があるわけではありません。

だからこそ、責任を負う範囲・負わない範囲を契約で定めておくことが大切です。

責任範囲の条文例(第◯条)

乙は、本契約および仕様書に適合する成果物を納品する責任を負う。

不適合が認められた場合、甲は納品日から14日以内に通知し、乙はこれに対応する。
ただし、以下の場合には乙は修正義務を負わないものとする:
・甲の情報提供の遅延または誤りに起因する不具合
・納品後に生じた仕様変更要求

乙が負う損害賠償責任は、直接かつ通常生ずる損害に限定され、かつ本契約に基づき乙が受領する対価の総額を上限とする。


契約書の中で「当社はここまで対応します」の部分を業界標準としたうえで、実際の「仕事」においてそのうえで、自社の強みや付加価値(たとえば対応スピード・修正回数・運用提案)を加えれば──

✔︎ 業界基準を満たす → 「期待通り」
✔︎ そこに付加価値を添える → 「期待以上」
✔︎ 結果 → 「またお願いしたい」「紹介したい」

という、理想的な好循環が生まれます。
契約書の“期待値設定”は、マーケティング戦略にも通じます。業界水準を示して、そこに自社ならではの一手を加える。
これが“契約書による信頼の設計”です。


契約書とは、単なる“揉めごとの予防策”だけではありません。
信頼と納得をつくるための「提案書」にもなり得ます。

  • やることを明確にし、
  • やらないことを丁寧に伝え、
  • 責任の線引きをはっきりさせる

契約書においてこうした期待値の設計をしておいて、実際の「仕事」において本気を見せる。
そうすることで、お客さまは「この会社はきちんとしている」と感じてくれるとともに、
「またお願いしたい」という気持ちにつながり、紹介・リピート・信頼の好循環を生み出します。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


【ご質問受付中】

「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。

また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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