ビジネス法務

【契約書のトリセツ】「クライアントとの直接やり取りは禁止」~契約書に書かれた“その一文”の意味と背景を読み解く~

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。

業務委託契約や制作案件、コンサルティングの仕事などで契約書を読んでいると、 こんな文言に出くわしたことはありませんか?

「クライアントには直接連絡しないでください」
「契約上、エンドユーザーとのやり取りは禁止されています」

確認したいことがあっても、 調整した方が早そうでも、 「直接やり取りNG」というルールに縛られる…

「いや、それって非効率じゃない?」
「そもそも、なんでダメなの?」

そんなモヤモヤを感じたことがある人へ、 今回はこのルールの意味と契約上の背景を、やさしく解説します。

まず、よく契約書に登場する条文例はこちらです。

受託者は、発注者の書面による事前承諾なしに、
発注者の取引先(エンドユーザー)と直接接触・交渉・取引を行ってはならない。

この条文は一見すると単なる“制限”のように見えますが、 実は、契約の世界では重要な構造を守るための「交通整理」の役割を果たしています。

① 信頼構造の崩壊を防ぐため(=中抜きリスク)

たとえば、発注者がエンドクライアントを開拓し、あなた(受託者)に業務を依頼した場合。
もしあなたが勝手にエンドと直接やりとりを始めてしまえば…

次からそのクライアントは、発注者を飛ばしてあなたに発注するかもしれません。
これがいわゆる「中抜き」という行為です。

発注者からすると、せっかくクライアントに営業活動を行ったのに、自分の商流が奪われ「利益」が損なわれたことになります。

② 情報・品質のコントロールが困難になる

発注者を飛ばしてエンドとやり取りすると、 途中で仕様変更が加わったり、品質への認識がズレてしまったり…

つまり「誰が何を指示し、誰が何を了承したか」が曖昧になるのです。

これは最終的に、責任の所在が不明確になる危険性をはらみます。

また、元請はエンドクライアントとの契約主体であり、最終的な法的責任を負う立場です。
そのため、受託者が独断でエンドとやり取りをすると、元請の意図しない説明や対応が「元請の責任」として問われる可能性があります。
こうしたリスクを避けるためにも、元請が「連絡ルートの一元化」を求めるのは、法的にも合理性がある対応と言えるのです。

③ 契約の範囲外でトラブルになる可能性がある

契約上「指示系統」「責任区分」が明記されていても、 勝手に別ルートでやり取りしてしまえば、その内容は正式な合意とは認められない可能性があります。

例えば:

  • 直接メールで受けた変更指示 → 未承認とされる
  • 追加作業をエンドと合意 → 発注者が費用負担を拒否する

…こうしたトラブルが現実に起こっています。

🔸 誤解①:「ちょっと挨拶しただけだからOKでしょ?」

→ その“ちょっと”が、契約では「接触」や「交渉」とみなされることがあります。

契約の文言は「連絡」「接触」「情報提供」などもカバーしていることが多く、厳密に解釈されると、 挨拶・質問・連絡も“アウト”とされるケースがあるので注意です。

🔸 誤解②:「クライアントから話しかけられたんだけど?」

→ 相手が自分から接触してきたとしても、
あなたが応じてやり取りを続ければ「契約違反」となる可能性があります。

たとえ受動的でも、「承諾なしの直接取引」は禁止対象になることもあるので注意です。

🔸 グレーゾーンへの対応:“事前確認”と“記録”が命綱

  • 必ず発注者に「直接連絡してもよいか」を確認する
  • 許可が出たら、そのやりとりを記録に残しておく

→ これにより、後からのトラブルに備えることができます。

契約によっては、こんな条文が追加されていることもあります。

本契約終了後●年間は、発注者の取引先との直接契約を行ってはならない。

これは、ざっくり言えば元請企業が「営業権」を守るための条文です。

ただし、期間や範囲が過剰な場合には法的に無効となる可能性もあるため、
納得できない場合は、交渉または法的チェックをおすすめします。

契約に「直接取引の禁止」があるとき、受託者が取るべき行動は次のとおりです。

状況行動
エンドから直接連絡が来た発注者(元請)に報告し、対応方針を仰ぐ
直接聞きたいことがある発注者(元請)に「代理で確認してもらう」か、「許可を得て自分で確認」
契約終了後に別案件の相談が来た禁止期間中かを契約書で確認し、必要があれば専門家に相談

実務で柔軟に動くには、以下のような例外規定を契約に入れておくのが理想です。

ただし、発注者が事前に承諾した場合、または業務上必要な範囲で発注者の取引先(エンドユーザー)と直接連絡を取ることができる。

これにより、業務の支障を最小限に抑えつつ、契約違反を回避できます。

  • 「直接取引の禁止」は、発注者が商流・品質・責任を守るための合理的なルール
  • 守らなければ契約違反、でも守りすぎて非効率なのも事実
  • 大切なのは、「確認」「許可」「記録」

直接取引の禁止に限らず、契約事は、「めんどくさい」と避けるのではなく、上記を踏まえ、信頼される動き方をされた方が、次の仕事につながります。

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