ビジネス法務

【契約書のトリセツ】いつまでも進まない請負契約、解除できるのはどんなとき?

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


請負契約とは、ざっくりと言えば「成果物を納期までに完成させること」がゴールとなる契約です。
Web制作、システム開発、建設工事など、いわゆる“モノ”を作って納める仕事でよく使われます。

つまり、作る側(受注者)は「ちゃんと完成させればいい」、頼む側(発注者)は「完成品を受け取ってから報酬を払う」というシンプルな仕組み。

……のはずなのに、現場ではこういう声が後を絶ちません。

「ぜんぜん進まないし、納品の見通しも立たない…」
「スケジュール通りに動いてくれず、仕様の理解もあやしい…」

そんなとき、「このままお願いし続けるのは厳しいな」と思っても、
すぐに契約を解除できるとは限りません。

だからこそ、お互いに嫌な思いをしないためにも、契約の段階で“どうなったら解除できるか”を決めておくことがとても大切となります。

今回は、「進まない請負契約」と向き合うためのヒントを、実務目線でわかりやすく解説していきます。


まずは、法律の基本ルールから見ていきましょう。

(注文者による契約の解除)
第641条 請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。

つまり、たとえ相手に落ち度がなくても「やっぱり契約をやめたい」と思えば解除することは可能です。
ただし、「その解除によって相手に損害が出た場合はちゃんと補ってくださいね」というルールがついてきます。

また、「全然やってくれない!これはもうダメだ!」と思った場合にも、解除はできます。
ただし、こちらも条件つきです。

(催告による解除)
第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

つまり、「〇日以内に対応してください」と催促しても改善されない場合には、契約解除が認められます。
ただし、“ちょっとした遅れ”や“軽微なミス”では解除できないという例外もある点に注意が必要です。


ケース1|Web制作をフリーランスにお願いしたけど…

  • 納期や仕様はきっちり決めたのに、2週間経っても「ちょっと考えてます」のまま。
  • 提出も進捗もなく、納品の気配ゼロ。

ケース2|開発会社にシステムを発注したけど…

  • 要件定義がぜんぜん進まない。
  • 毎回の打ち合わせで「まだ検討中です」としか言わない。
  • こちらの意図もあまり伝わっていないようで不安。

「このまま完成まで行く気がしない…」と思っても、「いまはまだ不履行(契約違反)とまでは言えない」ので解除は難しい。そんな状況は、取引実務上よく発生します。


※以下の契約条文例は、実務でよく使われるケースをもとに、読みやすく編集してご紹介しています。実際に契約書に盛り込む際には、個別の業務内容や取引の背景に応じて調整・リライトが必要となります。
※また、以下のような契約条文があるからといって一方的な解除は法に抵触する場合があります。運用に際しては慎重な判断が必要となることもあります。

① ステップごとに進捗を確認できる仕組み(マイルストーン)

「本業務は、以下のマイルストーンに従って進める。各段階で注文者は進捗状況を確認し、重大な遅延や仕様逸脱がある場合には契約を解除できるものとする。」

途中での見直しポイントを設けることで、未然にトラブルを防ぎやすくなります。

② 「これ以上は無理」と判断したときの条項

「受託者が合理的な期間内に業務の進捗を示さず、また契約の目的に照らして著しい逸脱があると判断される場合、注文者は契約を解除できるものとする。」

「明らかにズレてきた」と感じたとき、正当に解除へと進むための道筋を契約で示しておきます。

③ 中間検査で“見込み”を確認する

「注文者は、業務の途中で中間検査を実施できる。検査の結果、完成の見込みが合理的にないと判断された場合には契約を解除できるものとする。」

途中の“見極めタイミング”を契約に明記しておけば、判断材料にもなります。


解除できたとしても問題になりやすいのが、「ここまでの作業分、払ってもらわないと困る」という受注者側の主張です。

だからこそ、“解除後の清算方法”もあらかじめ明文化しておくことが大切です。

「契約が解除された場合、注文者は、受託者の作業実績に応じて合理的な対価を支払う。ただし、未完成または仕様に反する成果物については支払義務を負わない。」

一方的なリスクを避けつつ、受注者側にも“やった分はきちんと精算される”という安心感を持たせることができます。


契約解除はあくまで“最終手段”です。
だからこそ、揉めないための前提条件を契約書にしっかり組み込んでおくことが重要です。

  • マイルストーンの設計
  • 中間検査の導入
  • 進捗や品質が基準を満たさない場合の解除ルール
  • 解除後の清算方法

こういった備えを“契約書という道具”で整えておくことが、お互いの信頼を守る土台になります。

仕事が思ったとおりに進まないことは、取引実務においてまま発生します。
でも、そこで感情的になって一方的に関係を断ってしまえば、お互いにとって損失です。

だからこそ、「もしズレが起きたらどうするか?」を、最初に一緒に決めておく。

契約書は、責任と期待のズレを整えるための“事前設計図”。

良いパートナー関係を築くために、ボタンの掛け違いが発生しないよう、契約条件を丁寧に作り込みたいところです。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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