ビジネス契約書専門の行政書士（特にIT＆クリエイター系の契約書に強い）
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに：契約書作成のご相談は、「何かを解決したい」という声である
私のもとに「契約書を作成してほしい」というご相談に来られる方の多くは、契約書そのものを目的にしているわけではありません。
多くの場合、その背景には「何らかの問題を解決したい」という切実な気持ちがあります。
たとえば──
- 相手との関係性があいまいなまま事業が進んでいて不安だ
- 今後トラブルになりそうな気がするから先手を打っておきたい
- これまで口約束で済ませてきたけれど、そろそろきちんと形にしたい
こうした“課題”があるからこそ、「契約書を作りたい」という行動につながるのです。
ですので、我々がまず最初にすべきことは、「契約書の書き方を説明すること」でも「ひな形を渡すこと」でもありません。
まずは、その方が何に困っているのか、どんな不安を抱えているのかを丁寧に伺うこと。
その姿勢こそが、専門家としての第一歩ではないかと私は思っています。
視野が狭くなっているときこそ、広い視点で話を聴く
人は、悩みを抱えているとき、どうしても視野が狭くなりがちです。
目の前のことに意識が集中してしまって、本来検討すべき視点を見落としてしまう──これは誰しもに起こり得ることです。
契約書に関するご相談も、例外ではありません。
「いますぐ契約しなければならない」と思い込んでいる方もいれば、「とにかく書面にすれば安心」と信じている方もいます。
けれど、話をじっくり伺っていくと、「今すぐに契約する必要がない」ケースも多々あります。
我々の役目は、そうした“思い込み”や“見落とし”をそっと整えて差し上げることです。
ときには、契約書を作成する前に、「一度立ち止まって考えませんか？」と提案することもあります。
それは、単に慎重だからではなく、ご相談者が後悔しないように「誤った判断をしない」ためのナビゲーターとしての務めだと考えています。
契約書とは、「重大な判断の結果」をカタチにするもの
契約書を取り交わすというのは、人生や経営において重要な判断を下す瞬間です。
たとえば──
- 経営者が、社運を賭け資金や時間を投じて新しいプロジェクトに乗り出すとき
- 個人の方が、大切な財産を誰かに託すとき
そのような場面で作られる契約書は、単なる“紙の書類”ではなく、「決断の証」です。
だからこそ、作成を依頼された私たちが、“その判断が本当に正しい方向を向いているかどうか”を確認することには、非常に大きな意味があります。
ただ言われたとおりに作るのではなく、その判断自体がブレていないかを一緒に見ていく。
それが、契約書作成を支援する行政書士に求められる、本質的な姿勢ではないかと思うのです。
「契約しない選択肢」も、選択肢のひとつ
これまでの経験のなかで、契約書の作成を進めていたものの、途中で「やはり今は契約しない方が良いのでは」とご相談者の判断が変わったこともありました。
そうしたとき、私はその判断をむしろ歓迎します。
契約しない方がよいという結論に至った背景には、慎重に検討を重ねたプロセスがあるからです。
「契約書を作ってもらいに来たのに、結局作らなかった」
──そのような結果になっても、そこに至るまでの思考整理や方針の明確化には大きな意味があります。
逆に、ただ形式的に契約書を作るだけであれば、近い将来、AIでも十分に代替可能になるかもしれません。
“広い視野で聴く”という姿勢の重要性
誤解のないように申し上げたいのですが、ご相談者に寄り添うことはとても大切です。
不安や悩みに共感し、安心して話せる場を提供することは、専門家として欠かせない役割の一つです。
しかし同時に、「言われたことだけ」を鵜呑みにするのではなく、もう一歩踏み込んで、“全体像”を見る視点を持つことが求められます。
- なぜその契約が必要なのか
- なぜ今このタイミングなのか
- 契約によって本当にリスクは軽減されるのか
こうしたことを一緒に考えることが、ご相談者の「正しい」意思決定を支えることにつながると考えています。
AI時代における価値
生成AIの進化によって、契約書のひな形や文例は、誰でも簡単に手に入るようになりました。
それでも私たち専門職が必要とされ続けるのは、AIでは対応できない領域があるからです。
- ご相談者の置かれた状況を汲み取る
- 背景事情を整理する
- 対人関係を考慮し、トラブルを予防する
- 「この一言が、あとあと効いてくる」と見抜く
- 「契約しない」という決断を後押しする
こうした視点は、まだまだ人間にしかできないことです。
単に「条文を書く仕事」から、「意思決定を支援する仕事」へ──
そのように、私たちの仕事の本質も、変わりつつあるように感じています。
おわりに：契約書作成とは、「ともに考える」営み
契約書を作成するという仕事は、誰かに言われたことをそのまま文字にする作業ではありません。
ご相談者が抱える課題をともに見つめ、その人にとって一番良い道を見つける──そんな「対話」の連続です。
ときには契約そのものを見送る判断に至ることもあります。
けれども、そうしたプロセスこそが、「本当に意味のある契約」を生み出す土台になるのだと私は信じています。
私自身もまだまだ研鑽の途上です。
一つひとつのご相談に真摯に向き合いながら、視野を広げ、判断の助けとなれるよう、これからも学びを続けてまいります。
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