ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
1. 研修概要
このたび、公益社団法人函館法人会様主催の
「知らないではすまされない!中小受託取引適正化法(旧下請法)のポイント」
にて、講師を担当いたしました。
中小受託取引適正化法、いわゆる取適法は、旧下請法を改正・強化する形で施行された法律です。
もっとも、今回の研修でお伝えしたかったのは、制度改正の内容そのものだけではありません。
取適法を「制度改正の地図」として理解したうえで、実際の企業実務において、
発注書、契約書、支払条件、価格協議、仕様変更、検収、記録保存をどのように見直していくか。
いわば、取適法時代における契約実務の“歩き方”までお伝えすることを意識して構成しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 講座名 | 知らないではすまされない!中小受託取引適正化法(旧下請法)のポイント |
| 主催者 | 公益社団法人函館法人会様 |
| 実施日 | 2026年6月15日(月) |
| 時間 | 13:30〜16:20 |
| 実施形式 | 会場開催 |
| 対象者 | 企業の経営者、総務・経理・購買・営業管理部門等の実務担当者の方 |
| 講師 | 行政書士大森法務事務所 大森 靖之 |
| 主な内容 | 取適法の全体像、適用対象、4つの義務、11の禁止行為、支払実務、価格協議、契約書・発注書の見直し |
今回の研修には、函館法人会の会員企業の皆様にご参加いただきました。
業種としては、建設業をはじめ、外注先・協力会社との取引を日常的に行う企業の方が多く参加されていた印象です。
取適法は、大企業だけが気にすればよい法律ではありません。
自社が発注側として中小企業や個人事業主に業務を依頼する場面では、守るべき立場になります。
一方で、自社がより大きな企業から仕事を受ける場面では、守られる立場にもなります。
そのため、今回の研修では、制度の名称や条文を一方的に説明するのではなく、
日々の取引実務の中で、どのような場面に注意すべきかを意識しながらお話ししました。
2. セミナーで重視したこと
今回のセミナーで特に重視したのは、「制度の説明(地図)」だけで終わらせないことです。
取適法のセミナーというと、どうしても次のような制度説明に偏りがちです。
- 対象となる取引類型
- 資本金基準・従業員数基準
- 4つの義務
- 11の禁止行為
- 支払・協議ルールの強化(支払期日、遅延利息、手形払等の禁止)
もちろん、これらは重要です。
制度の全体像を知らなければ、自社の取引が対象になるかどうかも判断できません。
しかし、企業実務で本当に問題になるのは、その先です。
たとえば、
- 発注書に必要事項が書かれているか
- 支払期日は受領日から60日以内になっているか
- 手形払い等の支払方法を見直す必要がないか
- 価格改定の申入れに対して、協議の記録を残しているか
- 仕様変更や追加作業を、口頭だけで進めていないか
- 検収や不備通知の方法が曖昧になっていないか
- 契約書と発注書の内容が矛盾していないか
こうした点を確認しなければ、制度を知っていても現場は動きません。
そこで今回は、取適法を「地図」として確認したうえで、実際に発注書・契約書・メール・議事録・検収記録をどう使うかという「歩き方」までお伝えする構成にしました。
特に、今回のテーマは私自身にとっても初めて本格的に講演で扱う内容でした。
そのため、制度の改正内容だけでなく、取適法(旧下請法)、フリーランス保護法、建設業法、契約実務との関係も含めて、受講者の方が自社の取引に引き寄せて考えられるよう、資料・事例ともに入念に準備して臨みました。
3. セミナーで取り上げた主な視点
今回のセミナーでは、取適法の基本的な考え方に加え、発注書、契約書、支払条件、価格協議、仕様変更、検収、記録保存など、現場で確認すべき実務上のポイントを取り上げました。
いずれのテーマについても、法律の制度説明だけで終わらせるのではなく、受講者の方が日常業務の中でどのような場面に注意すべきかを意識して構成しました。
| 視点 | 研修で意識したポイント |
|---|---|
| 適用対象の判定 | 資本金だけで判断せず、取引内容・資本金・従業員数を確認する |
| 発注書・契約書 | 何を、いつまでに、いくらで、どのように支払うかを明確にする |
| 支払実務 | 受領日から60日以内、かつできる限り短い支払期日になっているか確認する |
| 手形払等 | 約束手形や長期サイトの支払実務を見直す |
| 価格協議 | 値上げ申入れを無視せず、協議の経緯を記録する |
| 仕様変更・追加作業 | 変更内容、追加費用、納期への影響を記録する |
| 検収 | 検収期間、不備通知、再検収、みなし検収を明確にする |
セミナーでは、できるだけ難しい言葉を避け、身近な例や実際に起こり得る場面を交えながら、受講者の方が自分の業務に引き寄せて考えられるようにお話ししました。
4. 取適法時代の契約実務の歩き方
取適法対応というと、まず「法律を守る」という話になります。
しかし、実務上は、法律名と内容を知っているだけでは対応できません。
実際には、
- 契約書を見直す
- 発注書の記載事項を整理する
- 支払条件を確認する
- 価格協議の手順を決める
- 仕様変更・追加作業の承認ルールを決める
- 検収方法を明確にする
- メールや議事録を保存する
といった、具体的な業務の見直しが必要になります。
つまり、取適法対応は、法務部門だけの問題ではありません。
総務、経理、購買、営業、現場担当者が、それぞれの業務の中で確認すべきテーマです。
たとえば、支払期日については、契約書に「受領日から60日以内」と書くだけでは不十分です。
実際の締日、支払日、経理システム、請求書処理の流れまで含めて、自社の支払実務がルールに合っているかを確認する必要があります。
また、価格協議についても、値上げを必ず受け入れなければならないということではありません。
重要なのは、受託側から価格改定の申入れがあったときに、無視したり、一方的に拒絶したりせず、協議のプロセスを残すことです。
研修では、価格協議の場面について、
- 価格改定申入れを受け付ける
- 原価変動の根拠を確認する
- 協議を行う
- 回答理由を残す
- 申入書・議事録・回答書を保存する
という流れで整理しました。
取適法時代の契約実務では、正しい判断をすることだけでなく、正しい判断をしたことを後から説明できるようにしておくことも重要です。
5. 受講者の声
休憩時間や終了後には、5名ほどの参加者の方から個別にご質問をいただきました。
質問内容からも、制度そのものへの関心だけでなく、実際の発注書、支払条件、価格協議、外注先とのやり取りをどう見直すかという、現場実務への関心が高いことを感じました。
また、運送業の参加者の方からは、
業界団体の研修にも参加したが、正直よく分からなかった。
しかし、今日の話を聞いて腹落ちした。
という趣旨のお言葉をいただきました。
今回の研修では、単なる制度説明にとどまらず、旧下請法や契約実務と関連付けながら、
「制度の説明(地図)」だけではなく、「現場での歩き方」をお伝えすることを意識していました。
その点について、一定の手応えを感じる機会となりました。
当日実施されたアンケートでも、内容や講師説明について前向きなご感想を多くいただきました。
数字そのものを強調するよりも、難しい制度改正のテーマについて、少しでも「自社の実務に引き寄せて考えられた」と感じていただけたことが、今回の収穫だったと感じています。
6. セミナーを終えて
今回のセミナーを通じて、取適法対応は、単に法律名を知ることではなく、日々の取引実務を見直すことだと改めて感じました。
「知らなかった」では済まされない場面がある一方で、すべての担当者が法律の専門家になる必要はありません。
大切なのは、日々の業務の中で、
- この取引は取適法の対象になるのだろうか
- 発注書に必要事項は書かれているだろうか
- 支払期日は受領日から60日以内になっているだろうか
- 価格協議の申入れを受けたときの窓口は決まっているだろうか
- 仕様変更や追加作業の記録は残っているだろうか
- 契約書と発注書、メール、議事録は整合しているだろうか
と立ち止まれることです。
そのうえで、必要に応じて記録を残し、社内で確認・相談し、会社として適切な判断につなげることが、取引トラブルや法令違反を防ぐ第一歩になります。
取適法は、発注側・受注側の双方が、取引条件を明確にし、無用なトラブルを防ぎ、適正な取引関係を築くためのルールでもあります。
そして、そのために必要になるのが、契約実務です。
今後も、「単なる法律のお勉強」ではなく、現場で使える言葉に置き換えながら、企業の皆様が安心して業務を進められるようなセミナーや研修を行ってまいります。
セミナー前後に、函館駅前周辺を少しだけ観光しました。
【赤レンガ倉庫と函館山】


【塩ラーメン】


【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
【ご質問受付中】
「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。
また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。











この記事へのコメントはありません。