ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
1. 講座概要
このたび、公益財団法人埼玉県産業振興公社様主催の「契約書のポイント研修(基本編)」にて、講師を担当いたしました。
本講座は、契約書を初めて本格的に学ぶ方、日常業務で契約書に触れているものの自己流で対応している方、総務・管理・購買・営業・技術部門などで契約書を確認する機会のある方を対象に、契約書の基本的な読み方・考え方・実務上の注意点を学ぶ内容です。
この講座は、私が2016年から担当している研修であり、今回で丸10年となりました。
10年続けていると、受講者の方がどこでつまずきやすいのか、どの話に反応があるのか、どの部分を具体例で補足すると理解しやすいのかが、かなり蓄積されてきます。
その意味で、本講座は、当方にとっても「看板コンテンツ」といえる講座に育ってきたと感じています。
世の中には、契約書に関する本、記事、動画、解説コンテンツは数多くあります。
しかし、契約書を「法律知識」としてではなく、実際の取引、見積、発注、納品、検収、請求、入金、クレーム対応と結びつけながら、現場ですぐ使える形で体系的に学ぶ機会は、全国的にも意外と多くありません。
今回の研修では、契約書を「難しい法律文書」としてではなく、会社の利益を守り、トラブルを予防し、取引の流れを整えるための実務ツールとしてお伝えしました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 講座名 | 契約書のポイント研修(基本編) |
| 主催者 | 公益財団法人埼玉県産業振興公社様 |
| 実施日 | 2026年6月12日(金) |
| 時間 | 9:30~16:30(6時間) |
| 実施形式 | 集合研修 |
| 対象者 | 総務・管理・購買・営業・技術・内部統制部門など、契約書に関わる実務担当者の方 |
| 講師 | 行政書士大森法務事務所 大森 靖之 |
| 主な内容 | 契約の基本、契約書の役割、押印・印紙・電子契約、契約書用語、 契約交渉、取引基本契約書、業務委託契約書、秘密保持契約書など |
今回の講座には、製造業、建設業、印刷業など、幅広い業種の方にご参加いただきました。
職種も、総務、経理、購買、生産管理、内部統制、システム部門、管理部門など、契約書を実際に確認・管理・運用する立場の方が中心でした。
契約書は、法務部門だけのものではありません。
営業が条件を決め、現場が納品し、購買が発注し、経理が請求・支払を管理し、総務や管理部門が社内文書として保管する。
このように、契約書は会社のさまざまな部門とつながっています。
そのため、今回の講座では、法律の条文を細かく覚えることよりも、実際の業務の中で「どこを見ればよいのか」「何が空欄だと危ないのか」「どこから有償対応にすべきなのか」といった実務感覚を重視しました。
2. 講座で重視したこと
今回の講座で特に重視したのは、契約書を「取引の流れ」と結びつけて理解することです。
契約書というと、どうしても難しい法律用語や定型文に目が行きがちです。
しかし、契約書で本当に大切なのは、次のような基本事項です。
- 誰と契約するのか
- 何を売るのか、何を依頼するのか
- いつまでに納品するのか
- いくらで取引するのか
- いつ支払ってもらえるのか
- 検査・検収はいつ終わるのか
- どこまでが無償対応で、どこからが追加費用なのか
- トラブルが起きたとき、誰がどこまで責任を負うのか
これらは、法律の話であると同時に、売上、利益、資金繰り、社内手続、顧客対応の話でもあります。
講座の冒頭では、受講者の方に「報酬・代金をどのように決めているか」を考えていただきました。
見積金額の中に、やり直し、追加作業、クレーム対応、損害賠償のリスクまで含まれているのか。
ここを考えないまま受注してしまうと、仕事を取ったつもりが、蓋を開けたら大赤字ということも起こり得ます。
契約書は、売上を直接増やす書類ではありません。
しかし、利益を残すためには欠かせない書類です。
「ここまでは契約内」
「ここからは追加費用」
「この場合は当社の責任」
「この場合は相手方の責任」
といった線引きを事前に行うことで、無用なトラブルを防ぐことができます。
3. 講座で取り上げた主な視点
今回の講座では、契約書の基本を確認したうえで、実務上よく問題になるテーマを幅広く取り上げました。
| 視点 | 研修で意識したポイント |
|---|---|
| 契約の基本 | 口約束でも契約は成立するが、後から説明できる証拠として契約書が重要 |
| 報酬・代金 | 金額だけでなく、やり直し・追加作業・損害賠償の範囲も確認 |
| 契約書の優先関係 | 個別契約、基本契約、法律・商慣習の関係を整理 |
| 債権回収 | 訴訟は最終手段。裁判に勝っても自動的に入金されるわけではない |
| 押印・印鑑 | 認印、実印、代表印、捨印、契印、割印、消印の意味を確認 |
| 印紙税 | 契約書のタイトルではなく中身で判断すること、電子契約との違いを確認 |
| 電子契約 | 便利さだけでなく、締結権限、社内承認、保存ルールに注意 |
| 契約書用語 | 「場合」「とき」「又は」「若しくは」「直ちに」「遅滞なく」などの使い分け |
| 契約交渉 | 勝ち負けではなく、責任範囲と費用負担の線引きとして考える |
| 取引基本契約書 | 納入、検査、所有権、危険負担、品質保証、補修部品などを確認 |
| 業務委託契約書 | 請負型・準委任型、成果物、報酬体系、再委託、進捗報告を確認 |
| 秘密保持契約書 | 秘密情報の範囲、対象外情報、契約期間、終了後の義務を確認 |
また、今回は、近年の法改正・実務動向として、中小受託取引適正化法(取適法;旧下請法)にも触れました。
先日の同社様主催の「コンプライアンス研修(基本編)」でも反応が多かったテーマであり、今回の契約書研修でも、支払条件、取引条件の明示、無償の追加対応、検収・支払時期などと関連づけて説明しました。
取適法やフリーランス法は、単に「法律が変わった」という話ではありません。
取引条件をあいまいにしないこと、支払期日を守ること、相手に一方的な負担を押しつけないこと。
これらは、契約書の実務そのものと深く関係しています。
4. 契約書を「現場で使う」ために
今回の研修では、契約書を読み解くための基本として、次のような視点を繰り返しお伝えしました。
まず、契約書は「揉めたときのためだけ」にあるものではありません。むしろ大切なのは、揉める前の段階です。
- 商談の段階で、支払条件、納期、検査・検収、追加作業、責任範囲を確認しておく
- 見積書や発注書の段階で、どこまでが契約内で、どこからが追加費用なのかを確認しておく
- メールやチャットでのやり取りでも、後から説明できる形で条件を残しておく
このような日々の積み重ねが、実際には大きなトラブルを防ぎます。
また、契約書の雛形を使うときには、「その雛形がどちら側に有利なのか」を意識することも重要です。
- 同じ業務委託契約書でも、発注者に有利なものと、受注者に有利なものでは、条項の考え方が大きく異なります
- 同じ秘密保持契約書でも、情報を開示する側と、情報を受け取る側では、注意すべきポイントが異なります
契約書は、単に空欄を埋める書類ではありません。
自社の立場、取引の内容、相手方との力関係、将来起こり得るトラブルを踏まえて、どこまでリスクを負うのか、どこからは受け入れられないのかを整理するための道具です。
5. 受講者の声
研修後のアンケートでは、回答者全員から「大変参考になった」または「参考になった」との評価をいただきました。
特に、次のようなご感想をいただきました。
「契約書作成の知識がまったくなかったので、とても勉強になりました」
「契約書によく使われる表現や文言で、勘違いしていたことや知らなかったこともあり、勉強になりました」
「実際の事例を交えながらお話しいただき、大変参考になりました」
「なんとなくしか見ていなかった契約書でしたが、注意するところなどを学べたので、仕事でもプライベートでも活かしていけたらと思いました」
「製本作業、収入印紙貼付のような、これまで当たり前にしていたことも意味があるんだなと改めて理解しました」
「資料も見やすく、説明の際には例え話もあったので、とてもわかりやすかったです」
自社に持ち帰り、実践したいこととしては、次のような声もありました。
「取引先との契約内容の確認」
「契約チェックシートの活用」
「リーガルチェックへの活用」
「自社がどういう契約をしているのか確認したい」
「資料を社内で回覧したい」
講師として特にうれしかったのは、「契約書の内容がより分かるようになった」「仕事でも活かしていきたい」「契約チェックシートを活用したい」という声です。
契約書研修は、受講して終わりではありません。
自社に戻って、実際の契約書や発注書、見積書、社内の契約管理の方法を確認していただいて初めて意味があります。
その意味で、今回の研修が、受講者の方の実務に戻るきっかけになったのであれば、大変ありがたく思います。
6. 研修を終えて
「契約書のポイント研修(基本編)」は、2016年から担当している講座です。
当初から、契約書を難しい法律文書として説明するのではなく、現場で使えるビジネス文書として伝えることを意識してきました。
10年続ける中で、受講者の方の関心も少しずつ変化してきました。
以前は、印鑑、印紙、契約書の基本的な読み方に関する質問が多くありました。
もちろん、これらは今でも重要です。
一方で、近年は、電子契約、AIの活用、取適法、フリーランス保護法、カスタマーハラスメント、契約交渉、責任範囲の線引きなど、より実務に近いテーマへの関心も高まっています。
契約書をめぐる環境は変わり続けています。しかし、根本にある考え方は変わりません。
契約書は、取引の内容を明確にし、関係者の認識をそろえ、後から説明できるようにするための文書です。
そして、会社の利益を守り、現場の方が安心して仕事を進めるための道具でもあります。
今後も、法律を一方的に説明するのではなく、現場で使える言葉に置き換えながら、企業の皆様が契約書を自分たちの業務に活かせるような研修を行ってまいります。
また、今回のアンケートでは、「契約書のポイント研修(応用編)」や「ビジネス上のAIの使い方や注意点」に関する研修を受けたいとの声もいただきました。
基本編では、契約書の全体像や基本的な考え方を中心に扱いました。
応用編では、立場が異なった場合に条項をどこまで調整するのか、売主側・買主側、発注者側・受注者側、開示者側・受領者側でどのように契約書の見方が変わるのかといった、より実践的な内容を扱います。
また、生成AIの活用についても、契約書をAIに丸投げするのではなく、取引条件の整理、プロンプト作成、AIが作成した条項の確認、秘密情報の取扱いなど、実務上の注意点を踏まえてお伝えする予定です。
契約書を「読める」「使える」「説明できる」ようになることは、企業活動における大きな力になります。
これからも、契約書を必要とする企業の皆様に向けて、現場で使える契約実務を分かりやすくお伝えしてまいります。

【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
【ご質問受付中】
「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。
また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。












この記事へのコメントはありません。