ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
1. 研修概要
このたび、公益財団法人埼玉県産業振興公社様主催の公社会員優待セミナー
「生成AI時代の契約実務の新常識~適切にAIを活用するためのポイント~」
にて、講師を担当いたしました。
生成AIの普及により、契約書や利用規約、業務委託契約書、秘密保持契約書などの文書を、短時間で作成できる時代になりました。
一方で、AIが作った契約書をそのまま使うことで、かえって取引条件が曖昧になったり、自社では守れない内容を約束してしまったり、相手方との交渉が止まってしまったりするケースも出てきています。
今回のセミナーでは、生成AIの使い方そのものだけではなく、
「AIに任せてよい部分」と「人が判断すべき部分」を整理しながら、生成AI時代における契約実務の考え方をお伝えしました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 講座名 | 生成AI時代の契約実務の新常識~適切にAIを活用するためのポイント~ |
| 主催者 | 公益財団法人埼玉県産業振興公社様 |
| 実施日 | 2026年6月26日(金) |
| 時間 | 13:30〜16:30 |
| 実施形式 | オンライン開催(Teams) |
| 対象者 | 中小企業の経営者、管理職、総務・法務・営業・技術部門等の実務担当者の方 |
| 講師 | 行政書士大森法務事務所 大森 靖之 |
| 主な内容 | 契約書の基本、生成AIの特性、AIに任せやすい部分・人が判断すべき部分、 プロンプト作成、AI出力のチェック、ChatGPT・Claudeによる契約書作成演習 |
生成AIを使えば、契約書のたたき台を短時間で作成することができます。
しかし、契約書は単なる文章ではありません。
契約書は、取引先、営業担当者、現場担当者、管理部門、経営者が、同じ前提で動くための「共通の地図」です。
そのため、見た目が整った契約書であっても、自社の実態に合っていなければ、現場では使えません。
今回の研修では、生成AIを便利な補助者として活用しながらも、最後は人が責任を持って「判断」するという視点を大切にしました。
2. セミナーで重視したこと
今回のセミナーで特に重視したのは、
「AIで契約書を作る方法」だけで終わらせないことです。
生成AIに、
「業務委託契約書を作ってください」
「当社に有利な契約書を作ってください」
と入力すれば、それらしい契約書案は出力されます。
しかし、問題はその先です。
たとえば、
- 業務範囲は明確になっているか
- 納期は自社の現場で本当に守れるか
- 検収条件は曖昧ではないか
- 追加作業が無償対応になっていないか
- 支払条件は実務上問題ないか
- 責任範囲や損害賠償が過度に一方的ではないか
- 中小受託取引適正化法(取適法;旧下請法)やフリーランス保護法の観点を確認しているか
こうした点は、AIが自動で正しく判断してくれるわけではありません。
契約書に書くということは、会社として約束するということです。
そのため、AIが出力した契約書を見るときに最も大切なのは、
「この内容を、自社は本当に約束できるのか」
という視点です。
今回の研修では、契約書を「取引の解像度を上げるツール」として捉え、生成AIを使う場合でも、最終的には人が判断すべきポイントを整理しました。
3. セミナーで取り上げた主な視点
今回のセミナーでは、生成AIの操作方法だけではなく、契約実務で実際に確認すべき視点を中心に取り上げました。
| 視点 | 研修で意識したポイント |
|---|---|
| 契約書の基本 | 契約書は、取引条件を明確にし、関係者の行動を支える文書である |
| 認識のズレ | 発注者・受注者・営業・現場・管理部門で見ているものが違うことを確認する |
| 曖昧にしてはいけない項目 | 業務範囲、納期、検収、追加対応、支払条件を明確にする |
| AIの得意分野 | たたき台作成、文章整理、構成案、チェックリスト化に活用する |
| AIの苦手分野 | 案件背景、力関係、資金繰り、現場運用、交渉方針は人が判断する |
| プロンプト作成 | 当社と相手方のポジション、業務内容、納期、報酬、検収、責任範囲を具体的に入れる |
| AI出力の確認 | 文章のきれいさではなく、自社で守れるか、相手に説明できるかを見る |
| 法令対応 | 取適法、フリーランス保護法など、取引規制の観点も意識する |
セミナー前半では、契約書の基本的な考え方を整理しました。
後半では、実際にChatGPTやClaudeを使い、同じプロンプトを入力した場合に、どのような契約書案が出力されるのかを比較しました。
生成AIは、契約書の原案作成において非常に強力なツールです。
一方で、同じプロンプトを使っても、AIの種類やモデルによって、条項の厚み、言葉の選び方、リスクの拾い方に違いが出ます。
その違いを見ること自体が、今回の研修の大きな学びになったと感じています。
4. 生成AI時代の契約実務の歩き方
生成AI時代の契約実務では、単にAIに契約書を作らせるだけでは不十分です。
実務上は、次のような流れで考える必要があります。
- まず、取引の内容を人が整理する
- 次に、AIに与える条件を具体的にする
- AIが出力した契約書案を確認する
- 条項ごとに、自社で守れるかを確認する
- 必要に応じて、AIに修正案を出させる
- 最後は、人が判断して契約書として使う
今回の演習では、次のようなプロンプトの型を用意しました。
「当社が【●●】を【●●】に【●●する】場合の『●●契約書案』を作成してください。
その際の詳細条件は以下のとおりです。」
そのうえで、
- 当社のポジション
- 相手方のポジション
- 業務内容・取引内容
- 契約期間・納期
- 報酬・代金
- 支払条件
- 検収条件
- 責任範囲・損害賠償
- その他重視したい条件
を入力する形にしました。
プロンプトをどのように作ればよいか迷う方には、標準プロンプトをそのままコピー&ペーストしていただき、まずは生成AIの出力に慣れていただく形にしました。
また、AIで作成された契約書案については、どの条項をどのように見ればよいかを具体的に解説しました。
特に重要なのは、AI出力をそのまま読むのではなく、次のように問い直すことです。
- この業務範囲で本当に足りるか
- 追加作業はどこから有償になるか
- 検収条件は曖昧ではないか
- 支払期日は適切か
- 責任範囲は過度に一方的ではないか
- 自社の現場担当者が説明できる内容か
- トラブル時に使える条項になっているか
AIは、契約書作成を楽にしてくれる強力な補助者です。
しかし、会社の責任、取引条件、現場の動き方までは、代わりに判断してくれません。
だからこそ、生成AI時代の契約実務では、AIを使う力だけでなく、AIが作った文書を読む力が重要になります。
5. 受講者の声
受講後アンケートでは、研修満足度について「大変参考になった」「参考になった」を合わせて100%、カリキュラムの内容・構成、説明の分かりやすさ、配布資料についても肯定的評価100%をいただきました。
自由記述でも、次のようなご感想をいただきました。
「プロンプト例とチェックリストは社内に持ち帰り、社内共通のひな形にしようと思います」
「生成AIはあくまでも活用するものであり、任せるツールではないことを改めて認識しました」
「契約書作成に当たって担当者が留意すべき点や、生成AIへの指示に当たって留意するべき事項は、自所属に共有して、所属単位での実践を図りたい」
「契約書の概念から教えていただき、契約書への苦手意識が薄まりました」
「1条ずつの確認による誤答リスクのつぶし込みについては、今後のAI利用の際に意識的に行っていこうと思います」
「AIに頼る部分とそうでない部分の分け方を考えながら活用しようと思います」
今回の研修では、単に「AIは便利です」という話ではなく「人がどこを確認すべきか」という点を中心にお伝えしました。
その点について、受講者の方々から具体的な持ち帰りの声をいただけたことは、大きな収穫でした。
生成AIと契約実務を組み合わせたテーマには、今後も継続的なニーズがあると感じています。
6. セミナーを終えて
今回のセミナーは、私自身にとっても「生成AIと契約実務」という切り口で行う初めての本格的な講演でした。
これまで契約書の基礎、取引基本契約、秘密保持契約、下請法・取適法、コンプライアンスなどの研修は数多く担当してきましたが、生成AIを実際に使いながら契約書案を作成し、その出力結果を比較・検討する形式は、新しい試みでした。
実施して改めて感じたのは、生成AIの普及により、契約書作成のハードルは確実に下がっているということです。
しかし、ハードルが下がったからこそ、契約書を読む力、判断する力、現場に合わせて整える力が、これまで以上に重要になっています。
AIが作る契約書は、見た目は整っています。
しかし、そこには自社の事情、現場の動き、取引先との関係、過去のトラブル、営業担当者の説明のしやすさまでは十分に反映されていません。
私がよく表現している言葉でいえば、AIが作るのは「整った文書」です。そこに人が加えるべきものは、「現場のだし」です。
契約書は、人間同士の約束を言葉にするものです。
だからこそ、どれだけAIが進化しても、最後に必要になるのは、
「この内容を本当に約束できるのか」
「現場で守れるのか」
「相手に説明できるのか」
という人の判断です。
今後も、生成AIを避けるのではなく、適切に使いながら、契約実務をより分かりやすく、より現場で使える形に整理していきたいと考えています。
「AIで契約書を作れる時代だからこそ、人がどこを確認すべきか」
この視点を大切にしながら、今後も企業の皆様が安心して取引を進められるようなセミナーや研修を行ってまいります。

【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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