~「契約書>覚書」は都市伝説!知らないと大損することも
ビジネス法務コーディネーター®大森靖之です。日頃は、ビジネス契約書専門(特にIT系に強い)の行政書士として、中小・ベンチャー企業様の成長発展のお手伝いをしております。
1.はじめに
しばしば、
「タイトルが『覚書』になっていれば、法律的な効力が薄いと聞いたのですが、これって本当ですか?」
という主旨のご質問をいただくことがあります。果たしてそうでしょうか。
2.タイトルによる優劣はありません
結論だけ先に言ってしまえば、「契約書」「覚書」「協定書」「誓約書」…タイトル(表題)による優劣はありません。
こういった「素朴な疑問」のご質問をいただいたときに頼りになるのがこちらの本。
契約書に関することなら、基礎知識から雛形に至るまで何でも載ってる専門書。根拠に基づき自信を持ってご回答できるようになるので、普段、一番開く本かもしれません。
このシリーズの第1巻~第3巻を取りそろえておけば、契約書に関するたいていの問題は解決します。
少々値は張りますが、いろんな本に手を出して散財するくらいなら、これを揃えるのが吉。
しかも雛形データを専用サイトでダウンロードできるという素晴らしさ!!
話が逸れました(読者の皆さん、いつもスミマセン)
『覚書』に話を戻します。
表題は、自由で、実際、念書・覚書・誓約書・協定書・差入証などいろいろな表現が用いられる。それが法的に契約書であるかどうかは、表題ではなく、その書面に書かれた内容が契約書かどうかによる。契約当事者の合意、一定の契約条項を記載してあれば、契約書としての効力が認められる。
『契約書式実務全書(第3版))』大村=佐瀬=良永(ぎょうせい)p.80
念書とか覚書という表題で書かれた文書にも、実際には様々な目的のものがあるが、当事者間の権利義務に関する定めをしている限り、それは契約書である。
『契約書式実務全書(第3版))』大村=佐瀬=良永(ぎょうせい)p.81
と分かりやすく簡潔に書かれています。
この専門書の著者であり、この項目を書かれている良永先生には、学生の頃『債権総論』を教えていただいたことが。その『債権総論』は再履修。前年度はちんぷんかんぷんで訳が分からず(そりゃ当然単位落とす)。良永先生の講義を聴いて「こういうことか!」と納得。20年以上前の話ですが、当時からとても分かりやすかった授業でした。この時にしっかりと『債権総論』を学んでおいたから今があるのかも…
それはさておき。冒頭の話に戻れば、
「タイトルが『覚書』になっていれば、法律的な効力が薄い」
これは「ウソ」です。
商談を担当する方は、必ずしも法律や契約書に詳しくは無い方が多いので、悪意(一般的な意味)なく上記のようなことを言っているケースが多いのでしょうが、これを信じて、契約書にハンコを押してしまったらそれは自己責任。
その『覚書』に理不尽な内容が書いてあったとしても、「契約書」と変わらずの効果がありますので、『覚書』に書いてあることが守れなかったり、実行できなかったりした場合には、最悪、相手から損害賠償請求などの責任追及されてしまうことも、法的には考えられますので、十分な注意が必要です。
たとえ『覚書』だったとしても、書いてあることが守れないと、大損をこくことがあり得るということです。
以上につきましては、私が定期的に執筆を担当しております、NPO法人さいたま起業家協議会の
【起業コラム】もご参照ください(私は執筆している他のコラムと比べてアクセス数が多いようです)。
「覚書だと効力が弱い?知らないと損をすることも。契約書面のタイトルにまつわる誤解」
3.覚書を使うケース、誓約書との違いは?
契約書と法的な効力の差がない覚書。
「ではタイトルは契約書に統一でいいんじゃない?」
まさにその通りではあるのですが、
①契約条項がA4用紙1枚程度に収まるくらいのボリュームの場合
②すでに取り交わされている基本契約書(原契約)があって
-その一部を変更する場合
-一部の条項を追加する場合(例:反社会的勢力排除条項、個人情報保護条項など)
-期間を延長する場合
-金額を変更する場合
には、「覚書」というタイトルの契約書にすることが多いです。
ちなみに②のケースについて。
原契約と覚書が併存することとなり、管理上の手間は増えるのですが、
・社内手続上の問題(基本契約は社長決裁だが、覚書なら現場責任者レベルの決裁で済むなど)
・印紙代の節約に繋がることもある
などの理由から、「併存方式」が用いられることが実務上ままあります。
「誓約書」「念書」「差入証」については、上記専門書によれば、
本来、契約書は契約当事者が対等の立場で合意を定めたという形式をとるわけだが、当事者の一方だけが署名(記名)押印して、それを相手方に差し入れる場合には、表題を契約書とせずに、念書とか覚書、あるいは誓約書と書くことが多い(一方だけが作成したという形式の文書であって、双方の合意という契約書の形式にそぐわないからであろう。)。こうした差入れ方式でも、当事者間に合意が成立している以上は、契約書としての意味をもつ。
『契約書式実務全書(第3版))』大村=佐瀬=良永(ぎょうせい)p.81
とのことのようです。
「誓約書」「念書」「差入証」「借用証」は、普通の契約書のように、両方の契約当事者がハンコを押す(orサインをする)のではなく、「差し入れる側だけ」がハンコを押す等して一方通行で提出する契約書類です。
「一筆取るというシチュエーションで使われる」と申し上げた方が分かりやすいでしょうか。
私が契約書関係の仕事をはじめた20年前くらいは、一筆取られた側が「内容についてはよく覚えていないが、あの人にはどこかで一筆書かされたぞ」という記憶が頭のどこかに刻まれるので、一定の抑止効果や(お金の借用書の場合は)返済促進の効果ががあると先輩から教えていただきました。
しかし、今は、スマホ一つで簡単に画像データが残せる現代。その効果が当時ほどあるかどうかは不明なところはありますが、実務上はよく使われています。
4.さいごに
上述の
「タイトルが『覚書』になっていれば、法律的な効力が薄い」
こういった、悪意なき(一般的な意味)都市伝説が多いのが、この契約書の世界。
多くの方々納得し、安心して契約書を取り交わせるようなお役立ち情報を、こちらのブログで発信してまいりたいと考えております。
5.おまけ(「悪意」と「善意」の法律的な意味)
ちなみに…この「悪意」。
一般的な意味と、法律的な意味には結構差があります。
まず、一般的な意味から。
あくい【悪意】
『三省堂国語辞典(第8版)』三省堂
①相手に苦痛をあたえようとする、よくない気持ち。わるぎ。
②悪い意味。
③省略(法律的な意味)
ちなみに…同じ三省堂という出版社から出ている「面白い」国語辞典ではこのような語釈。
あくい【悪意】
『新明解国語辞典(第8版)』三省堂
①意図的に相手に不幸をもたらしたり苦痛を与えたりしようとする気持。
②相手の言動について、殊更に欠点だと判断される点ばかりを取り上げた見方。
③省略(法的な意味)
いわゆる「わかりみの深さ」を求めるときには、『新明解』がオススメです。
ちなみにですが…上述の『三省堂国語辞典』(通称:三国)は新語に強い辞書。最新の第8版の発売は2021年12月。で、この「わかりみ」が載っているか調べてみたところ…いまだなく。三国的にはまだ一般用語とはみていないようですね。
ともかく、同じ出版社から出ている辞書でも上述のように、かなり語釈が異なるところが国語辞典のおもしろみでありますw
最後に法律的な意味合いでの「悪意」
あくい【悪意】
『法律用語辞典(第5版)』有斐閣
①ある事実を知っていることをいう。道徳的な悪意とは無関係…(以下略)
②例外的に、他人を害する意思…(以下略)
悪意の法律的な意味合いは「知っていること」。
悪意の対義語は「善意」=「知らないこと」
ぜんい【善意】
『法律用語辞典(第5版)』有斐閣
法律用語としては、ある事実を知らないことをいい(略)、ある事実を知っているいう悪意に対する。いずれも、日常用語とは異なり、道徳的な意味を含まない…(以下略)
「悪意」だけでこれだけのウンチクが書けてしまうなんて…
法律は奥が深いです。
6.音声解説
stand.fm「契約書に強くなる!ラジオ」では上記についての音声解説をしております。
文字だけでは表せない微妙なニュアンスを気取らずにお伝えできるのが音声配信の魅力です。
「ながら視聴」でも知識を得ていただけるようにお話ししておりますので、一度お聴きいただければ幸いです。
最後まで、お読みくださりありがとうございました。
この記事へのコメントはありません。