ビジネス法務

【契約書のトリセツ】頭の中のアイデアを「商品」に変えるのが契約書

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.頭の中にあるサービスは、もう「商品」と呼べるのか

「このアイデアをビジネス化したい」
「自分の経験を生かして、コンサルティングを提供したい」
「得意なデザインを仕事にしたい」

起業家、フリーランス、クリエイターの皆さんの頭の中には、さまざまなサービスのアイデアがあると思います。
では、そのアイデアは、すでにお客様へ販売できる「商品」になっているでしょうか。

お客様から、次のように聞かれた場面を想像してみてください。

「具体的に、何をしてもらえるのですか?」
「どこまでが料金に含まれますか?」
「いつ、何が完成したら料金を支払うのですか?」

これらの質問に明確に答えられなければ、それはまだ頭の中にあるアイデアであって、商品としては完成していないのかもしれません。


2.契約書は、アイデアを商品に変える設計図である

ホームページ制作、システム開発、デザイン、コンサルティングなど、形のない商品を扱うビジネスでは、契約書は単なるルールブックではありません。
私は、こうした「商品のない商売」では、契約書こそが商品であると考えています。

もちろん、実際にお客様へ提供するのは、ホームページやシステム、デザイン、助言といったサービスです。
しかし、それらはペットボトルやペンのように、手に取って形を確認できるものではありません。

そこで契約書を使って、

  • 何を提供するのか
  • どこまで対応するのか
  • 何をもって完成とするのか
  • 料金はいくらなのか
  • どこから追加料金になるのか
  • 問題が起きたとき、どこまで責任を負うのか

を言葉にして、まるっとパッケージ化します。

契約書は、完成した商品へ最後に添える書類ではありません。頭の中にあるアイデアに輪郭と値段を与え、実際に販売できる商品へ変えるための設計図なのです。


3.サービス名と料金だけを決めて販売を始めてしまう

新しいサービスを始めるとき、多くの方は、まずサービス名を決めます。
そして、ロゴやホームページを作り、料金表を掲載し、SNSで募集を始めます。
申込フォームや決済方法まで用意すれば、「これで販売できる」と考えるかもしれません。
ところが、肝心の「その料金で何をどこまで行うのか」が整理されていないことがあります。

例えば、「ホームページ制作30万円」と案内していても、ページ数、機能、修正回数、公開後の保守などが決まっていなければ、お客様が想像する商品と、制作会社が想定する商品にズレが生じます。
受注後になって、

  • 文章も作ってくれると思っていた
  • 写真の撮影も料金に含まれていると思った
  • 修正は何度でも頼めると思っていた

と言われれば、言った・言わないのモヤッとしたトラブルになってしまいます。
これは、お客様が悪いとも、提供者が悪いとも限りません。
最初から商品の輪郭が見える形になっていなかったことが原因です。


4.商品化とは「できること」と「できないこと」を決めること

形のある商品なら、大きさ、色、形、数量などを目で確認できます。
不具合があれば、「ここに傷がある」「注文した色と違う」と比較的判断しやすいでしょう。
しかし、形のないサービスでは、「何をどこまでやれば仕事をしたことになるのか」が外から見えません。
だからこそ、契約書でサービスの輪郭と境界線をつくる必要があります。

頭の中のアイデア商品にするために決める条件
ホームページを作るページ数、機能、素材、納期、修正回数
コンサルティングをする面談回数、時間、助言範囲、成果の扱い
デザインを制作する制作物、提案数、修正回数、著作権
システムを開発する仕様、検収基準、保守、追加開発
動画を制作する動画の尺、撮影回数、編集範囲、使用媒体

保険や旅行も、ここでいう目に見えない商品です。
保険では、「こういう場合には保険金が出ます」「この場合は対象外です」という条件が約款にまとめられています。
旅行も、交通、宿泊、食事、日程などが一つのパッケージとして販売されています。

ホームページ制作やコンサルティングも同じです。
「提供すること」だけでなく、「提供しないこと」まで決めることで、初めて一つの商品になります。


5.「ホームページ制作30万円」だけでは商品にならない

例えば、ホームページを30万円で制作するとしましょう。
しかし、「30万円」という価格だけでは、商品としては不完全です。

仮に、次のような条件を契約書や仕様書に落とし込んだらどうでしょうか。

  • 制作するページは5ページまで
  • 写真と文章はお客様が提供する
  • スマートフォン表示に対応する
  • デザイン修正は2回まで料金に含む
  • 3回目以降の修正は別途見積とする
  • 公開後の更新作業と保守は別契約とする
  • 納品後1か月間は、制作上の不具合を無償で修正する

ここまで決めて、ようやく「ホームページ制作30万円」という商品の中身が見えてきます。

反対に、修正回数を決めず、お客様から「あそこを直して、ここも直して」と何度も依頼されれば、作業時間だけが増えていきます。売上は30万円でも、人件費が膨らめば会社に利益は残りません。
また、不具合が起きたときに、逸失利益を含む無制限の損害賠償まで求められれば、受注金額を超えるキャッシュアウトが発生する可能性もあります。

他社より安く仕事を引き受けるのであれば、

「安く提供する代わりに修正は2回まで」
「損害賠償は受領した代金相当額を上限とする」

といった条件も含めて商品設計する必要があります。
契約条件は、自社を守るためだけのものではありません。
会社が利益を出し、きちんと儲かる商品にするための設計条件なのです。


6.6つの質問でアイデアを商品化する

新しいサービスを思いついたら、すぐに契約書のひな形を探すのではなく、まず次の6つの質問に答えてみてください。

  1. 誰に、何を提供するのか
  2. 何をもって仕事の完成とするのか
  3. 基本料金には、どこまでの作業が含まれるのか
  4. どの時点から追加料金が発生するのか
  5. お客様には、何をいつまでに協力してもらうのか
  6. 問題が起きた場合、どこまで責任を負うのか

特に忘れやすいのが、5番目の「お客様に協力してもらうこと」です。
ホームページ制作であれば、写真や文章を提供してもらえなければ作業を進められません。
コンサルティングであれば、必要な資料や正確な情報を出してもらえなければ、適切な助言はできません。

商品設計とは、自社がやることだけを決める作業ではありません。
お客様と一緒に商品を完成させるための役割分担を決める作業でもあります。

これらの回答を、見積書、仕様書、申込書、契約書へ落とし込んでいけば、頭の中にしかなかったアイデアが、誰にでも説明できる商品へ変わっていきます。


7.まとめ|契約書は、アイデアと売上の間にある

「こんなサービスを提供したい」

と頭の中で漠然と考えているだけでは、まだ商品ではありません。

  • 何を提供するのか
  • 何を提供しないのか
  • 何をもって完成とするのか
  • 料金には何が含まれるのか
  • どこから追加料金になるのか

    これらを言葉にして初めて、お客様が内容を理解し、安心して購入できる商品になります。

契約書を作るということは、単にトラブルを避けることではありません。
自社のサービスをパッケージ化し、頭の中のアイデアを、売ることのできる商品へ変えることです。

商品のない商売だからこそ、契約書を後回しにしてはいけません。
ホームページ制作、システム開発、コンサルティング、デザインなどの無形商材では、契約書は商品の外側にある書類ではなく、商品設計の中心にあるものなのです。


【音声解説】

本記事の内容は、
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▽ 音声はこちら(stand.fm)


🔎 参考記事

ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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