ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.契約書を渡した瞬間、商談の空気が変わっていませんか
ホームページは、明るく親しみやすいデザイン。
会社案内や提案書も、写真や色を使って丁寧に作り込んでいる。
商談では、サービスの魅力や仕事への思いを分かりやすく説明する。
ところが、契約書を渡す段階になると、急に小さな文字が詰め込まれた、冷たい印象の書面が出てくることがあります。
「それでは、ここにハンコだけお願いします」
そんな渡し方をされた相手は、どう感じるでしょうか。
これまで親しみやすかった会社が、契約の段階になった途端、別の顔を見せたように感じるかもしれません。
「何か不利な条件が隠れているのではないか」と身構え、商談の空気が変わることもあります。
2.契約書もブランドを構成する正式なビジネス書面である
契約書は、法律上の権利義務を定める文書です。しかし、法的に正しければ、それだけでよいわけではありません。
契約書も、会社がお客様へ渡す正式なビジネス書面です。
ホームページ、パンフレット、提案書、見積書と続いてきた顧客とのコミュニケーションの最後に、契約書があります。
そこで突然、見た目や言葉遣い、情報の整理方法が変われば、相手に違和感を与えます。
契約書も、自社のブランドや仕事への姿勢を伝える接点の一つです。
読みやすく、内容を確認しやすく、疑問点を質問しやすい契約書を用意することは、
「相手に正しく理解してもらったうえで契約する」
という会社の姿勢を示すことでもあります。
3.契約書になると、突然「別の会社」が現れる
商談資料では、お客様の立場に合わせて分かりやすく説明していたのに、契約書では専門用語を並べるだけになってしまう。
提案書は十分な余白を取り、見出しも整理されているのに、契約書では小さな文字が隙間なく並んでいる。
ホームページでは「お客様に寄り添います」と伝えているのに、契約書には一方的な免責や厳しい違約金が書かれている。
契約書だけが、会社全体の発信から切り離されてしまうことは珍しくありません。
もちろん、契約書には法的な正確性が必要です。
見た目を柔らかくするために、重要な条件を曖昧にすることはできません。
問題は、法律文書であることを理由に、読み手への配慮まで放棄してしまうことです。
4.トンマナとは、相手に与える印象をそろえること
「トンマナ」とは、「トーン&マナー」を略した言葉です。
文章の言葉遣い、色、書体、写真、レイアウトなどを通じて、相手に与える雰囲気や印象を統一する考え方を指します。
たとえば、親しみやすさを重視する会社なら、ホームページだけでなく、提案書やメールも分かりやすく柔らかな表現にそろえます。専門性や信頼感を重視する会社なら、落ち着いたデザインと、簡潔で正確な文章を使います。
契約書のトンマナを整えるとは、契約書をカラフルに装飾することではありません。
自社がこれまで築いてきた印象を壊さず、正式な契約条件を読み手へ正確に届けることです。
| 顧客との接点 | 主な役割 | 相手に与える印象 |
|---|---|---|
| ホームページ | 会社やサービスを知ってもらう | この会社に相談してみたい |
| パンフレット・提案書 | 商品の内容や価値を伝える | このサービスなら任せられそう |
| 見積書 | 金額と提供内容を確認する | この条件なら依頼できそう |
| 契約書 | 役割、責任、取引条件を確定する | 内容を理解したうえで安心して契約できる |
契約書だけを別物として扱わず、一連の「顧客体験」の中に置くことが重要です。
5.読みづらい契約書が、不要な警戒心を生む
あるサービスについて、商談が順調に進んでいたとします。
担当者の説明は分かりやすく、パンフレットも親しみやすい。見積内容にも納得し、あとは契約するだけです。
そこで渡された契約書が、文字の小さい、余白のほとんどない書面だったらどうでしょうか。
条文の区切りも分かりにくく、どこに重要な条件が書かれているのかも見つけられません。
相手が契約書を詳しく読もうとすること自体は、悪いことではありません。
むしろ、内容を理解したうえで契約してもらう方が、後のトラブルを防げます。
問題は、読みづらさによって「わざと読ませないようにしているのではないか」という余計な疑念を生むことです。
契約書の書式を整え、見出し、条番号、段落、余白などを整理すれば、相手からの質問も具体的になります。
「何となく怖い契約書」から、「確認したい場所が分かる契約書」へ変わるのです。
6.契約書の内容だけでなく「届け方」まで確認する
契約書のトンマナを見直すときは、特定のフォントを機械的に採用すればよいわけではありません。
誰が、どのような環境で読むのかを考えます。
- 紙で読むことが多いのか
- パソコンやタブレットで確認するのか
- 若い担当者が読むのか
- ご高齢のお客様も読むのか
- 条文数が少ない契約なのか
- 別紙や仕様書を含む長い契約なのか
読み手や用途によって、適切な文字の種類、大きさ、行間、余白は変わります。
また、見出しと本文の違いが分かるか、条番号が追いやすいか、ページをまたぐ場所が不自然ではないか、署名欄が見つけやすいかといった点も確認します。
重要なのは、格好よく見せることではありません。
読み手が途中で迷わず、必要な条件へたどり着けるようにすることです。
契約書のデザインは、装飾ではなく、内容を正しく伝えるための情報設計です。
契約書を送る際の説明もトンマナの一部です。
「署名してください」とだけ伝えるのではなく、特に確認してほしい条件や、質問を受け付ける方法を案内すると、相手も安心して内容を確認できます。
7.契約書は、ブランドの最後に置かれる文書では?
契約書を読みにくくして、細かい条件に気づかれないまま署名してもらう。
そのような発想は、長く続く取引にはつながりません。
相手に内容を理解してもらい、疑問点を確認し、お互いが納得したうえで契約する。
そのためには、条文の内容だけでなく、言葉遣いやレイアウトなど、契約書の「見てくれ」にも配慮する必要があります。
契約書は、ホームページや提案書とは別世界の文書ではありません。
自社の仕事の進め方、責任の持ち方、お客様への向き合い方を外に出す文書です。
商談では親しみやすかった会社が、契約書になった途端に冷たくならないようにする。
法的な正確性を保ちながら、自社のトンマナと読み手への配慮を契約書までつなげる。
その一貫性が、相手に安心感を与え、気持ちよく契約し、気持ちよく仕事を始めるための土台にもなるのです。

【音声解説】
本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)
🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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