ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
■ クイズ
次の契約書の一文、どこに違和感がありますか?
第3条の規程に基づき、本契約は更新されるものとする。
一見、問題なさそうに見えます。
しかし、この一文には
少なくとも2つ、解像度の低いポイントがあります。
答えは最後に整理します。
1.「規程」と「規定」の実務上の整理
「規程」と「規定」。
どちらも「きてい」と読みますが、
実務では一般に次のように使い分けられます。
| 用語 | 実務上の整理 |
|---|---|
| 規程 | 一連のルール全体 |
| 規定 | その中の個々の条文 |
- 「出張旅費規程」→ ルールの名称
- 「第5条の規定」→ 条文の定め
ただし重要なのは、
この区別は法令上明確に定義されているものではないという点です。
実務慣行としての整理であり、
法令によっては「規程」という語が条文単位で用いられる例も存在します。
したがって、絶対的ルールではなく、
文書全体の構造を整えるための慣行と理解するのが適切です。
2.用語の精度は設計の精度
契約書は構造物です。
- 全体ルール
- 個別条文
- 条文相互の関係
これらが整理されている文書は、解釈が安定します。
規程と規定の混在は直ちに無効を生むものではありませんが、
階層構造が曖昧である可能性を示します。
3.間違いやすい言葉セット(法的整理付き)
■ 変更/更新
- 変更:契約内容の一部を書き換えること
- 更新:契約関係の同一性を維持したまま契約期間を延長すること
更新には、
- 法定更新
- 合意更新
- 自動更新
など複数の類型があります。
更新と同時に条件変更を行うことも理論上は可能ですが、
その場合は条文上明確に書き分ける必要があります。
■ 作成/制定
- 作成:書類を作ること
- 制定:正式に定め、効力を発生させること
社内規程については「制定」が法的文脈に適する場合が多い。
■ 回答/解答
- 回答:質問に対する返事
- 解答:問題に対する正解
契約交渉やビジネス文書では「回答」が通常です。
■ 署名/記名
- 署名:本人が自筆で氏名を書くこと
- 記名:印字やゴム印等で氏名を表示すること
民事訴訟法228条4項は次のように定めています。
私文書は、本人又は代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
したがって、
- 署名のみ
- 押印のみ
いずれの場合も、真正成立の推定が働きます。
一方、記名のみではこの推定は働きません。
実務では「記名+押印」が広く用いられていますが、
どの方式を採用するかは、証拠力との関係を理解して選択する必要があります。
単純な優劣の問題ではありません。
■ 制作/製作
- 制作:創作・表現活動を伴う場合
- 製作:設備や資本を投入し実体あるものを完成させる場合
制作契約では著作権が問題になりやすく、
製作契約では所有権や特許が中心になることが多いですが、
具体的取引によっては双方が問題となります。
4.クイズの答え
改めて冒頭の文章を見てみましょう。
第3条の規程に基づき、本契約は更新されるものとする。
解像度を上げるべき点①
「第3条」は個別条文です。
実務上の整理に従えば、
第3条の規定に基づき
または単に
第3条に基づき
とする方が自然です。
解像度を上げるべき点②
「更新される」の内容が不明確です。
- 自動更新か
- 合意更新か
- 期間は何年か
- 条件は同一か
より精密に書くなら、
本契約は、期間満了日の30日前までに書面による解約の意思表示がない場合、同一条件にて1年間自動更新される。
のように明示します。
5.まとめ:解像度は一文字から始まる
契約書の紛争は、大胆な条項よりも、曖昧な言葉から生まれます。
規程と規定。
更新と変更。
署名と記名。
一文字の違いが、
解釈の幅を決めます。
契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
言葉を整えることは、思考を整えること。
思考を整えることは、取引を安定させること。
その一文字を、丁寧に。

【音声解説】
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【執筆者】
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