ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.「意思」と「意志」の違い
- 2.用語ミスは、契約交渉上の余計な摩擦になる
- 3.あるある|「意思」と「意志」の誤変換
- 4.本質|契約書の言葉は「読まれる相手」を前提に整える
- 5.契約書で気をつけたい用語一覧
- 6.対応策|用語ミスを防ぐためのチェックポイント
- 7.まとめ|用語の精度は、契約書の信頼感を支える
- 🔎 参考記事
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.「意思」と「意志」の違い
契約書を作成・チェックしていると、細かい言葉の違いが気になることがあります。
その一つが、同音異義語です。たとえば、「意思」と「意志」。
どちらも「いし」と読みます。
日常生活では、どちらも自然に使われる言葉です。
「本人の意思を確認する」
「強い意志を持って取り組む」
このように、どちらも間違った日本語ではありません。
しかし、契約書や法的ドキュメントでは、基本的に使う場面が違います。
契約書でよく出てくるのは、ほとんどの場合、「意思」です。たとえば、
甲が申込みの意思表示を行い、乙がこれを承諾したときに、個別契約が成立するものとします。
この場合は、「意思表示」です。「意志表示」ではありません。
一文字の違いですが、意外と目に入ります。
契約書の中で「意志表示」と書かれていると、
「この契約書は、法律文書に慣れていない人が作ったのかな」
と見られてしまうことがあります。
もちろん、その一文字だけで契約書全体が直ちに無効になる、という話ではありません。
しかし、契約書は信用の文書です。
初歩的な用語ミスがあると、本題とは関係のないところで相手方から指摘を受けることがあります。
これは、契約交渉の現場では地味に痛いです。
2.用語ミスは、契約交渉上の余計な摩擦になる
契約書の用語ミスは、単なる誤字脱字では済まないことがあります。
なぜなら、用語ミスは、契約書全体の信頼感に影響するからです。
契約書で本当に重要なのは、もちろん中身です。
- 業務範囲
- 納期
- 検収
- 支払条件
- 損害賠償
- 解除
- 知的財産権
- 秘密保持
- 責任範囲
こうした取引条件の設計こそが本質です。
ただ、その本質を相手に正しく伝えるためには、用語の精度も必要です。
たとえば、自社から契約書を提示したとします。
その契約書の中に、基本的な法律用語の誤りや、変換ミス、古い表現、用語のブレが多い。
すると相手方は、内容以前に、
「この契約書は大丈夫でしょうか」
「こちらの法務で全面的に直します」
「この条項の意味も少し確認させてください」
という反応になりがちです。
本来こちらが契約書を出して主導権を握りたいのに、用語ミスをきっかけに相手に主導権を渡してしまう。
こういうことがあります。
用語チェックは、単なる校正ではありません。
契約交渉で余計な突っ込みを受けないための、最後の防衛線です。
3.あるある|「意思」と「意志」の誤変換
では、「意思」と「意志」はどう違うのでしょうか。
契約書や法律文書で使われる「意思」は、一般的には、ある行為をしようとする考えや思いを意味します。
法律用語としては、一定の法律効果を発生させようとする考え、いわゆる「意思表示」の場面で使われます。
- 売ります
- 買います
- 申し込みます
- 承諾します
- 解除します
- 同意します
こうした法律上の効果を発生させるための表示が、「意思表示」です。
一方、「意志」は、気持ち、意向、決意、志向性といったニュアンスが強い言葉です。
- 強い意志
- 意志を貫く
- 意志薄弱
- 本人の意志を尊重する
こうした使い方です。
経営者や個人事業主の方は、「志」という字を大切にされることが多いです。
- 事業への志
- 社会に貢献したいという志
- お客様に価値を届けたいという志
これは本当に大切です。
ただし、契約書の中で出てくる「いし」は、志の話ではありません。
法律効果を発生させるための「意思」の話です。
そのため、契約書で、
申込の意志表示
承諾の意志表示
解除の意志表示
と書かれている場合は、まず「意思表示」ではないかと確認した方がよいです。
特に、パソコンやスマートフォンの予測変換では「意志」が出てくることがあります。
たとえば、「いしひょうじ」と入力したときに、予測変換で「意志表示」が候補に出てきて、
そのまま確定してしまうケースです。
契約書作成の最後には、「いし」が「意思」になっているかを一度確認する。
これだけでも、初歩的な違和感をかなり防げます。
4.本質|契約書の言葉は「読まれる相手」を前提に整える
契約書は、自分だけが読む文書ではありません。
相手方の担当者に読まれます。
相手方の上司に読まれます。
相手方の法務部門に読まれます。
場合によっては、弁護士や外部専門家にも読まれます。
つまり、契約書は常に「読まれる相手」がいる文書です。
この点が、社内メモや下書きとは違います。
用語が不安定だと、読み手はそこで立ち止まります。
「この言葉は正しいのか」
「この人は契約実務に慣れているのか」
「他にもミスがあるのではないか」
「条項の意味も慎重に見た方がよいのではないか」
こうした疑念が生じます。
契約書は、相手に納得してもらい、署名・押印してもらう文書です。
したがって、法的に正しいだけでなく、相手に余計な不安を与えないことも大切です。
中身が良くても、基本的な用語ミスが多いと、文書全体の信用が落ちてしまうことがあります。
5.契約書で気をつけたい用語一覧
「意思」と「意志」以外にも、契約書や法的ドキュメントでは注意したい用語があります。
ここでは、実務上よく見かけるものを整理します。
| 意思/意志 | 契約書では原則「意思」。典型は意思表示 | 「意志」は決意・気持ちのニュアンスが強い |
| 解除/解約 | 解除は契約違反等を理由に終了させる場面、解約は継続契約を将来に向かって終了させる場面で使われることが多い | 契約終了の理由・効果を確認する |
| 承諾/同意/承認 | 承諾は申込みに対する受け入れ。同意は相手の行為や条件を認めること。承認は事後的に認めるニュアンスを持つことがある | どの時点で、誰が、何を認めるのかを確認する |
| 直ちに/速やかに/遅滞なく | いずれも早期対応を求める表現だが、緊急性に差がある | 「直ちに」はかなり強い。実務上守れるか確認する |
| 以上/超える 以下/未満 | 以上・以下はその数を含む。超える・未満は含まない | 金額・日数・期間で誤ると条件が変わる |
| 又は/若しくは | 法令・契約書では階層構造を示すために使い分けることがある | 複雑なら無理に法令風にせず、箇条書きで整理する |
| 及び/並びに | こちらも階層構造を示すために使い分けることがある | 並列関係が複雑な場合は構造を見直す |
| 保証/保障/補償 | 保証は債務保証・品質保証など。保障は権利や状態を守るニュアンス。補償は損失を補う意味合い | 契約書では特に「保証」と「補償」の混同に注意する |
| 損害/損失 | 損害は法律上の賠償対象として使われることが多い。損失は経済的な不利益を広く指すことがある | 損害賠償条項では用語を統一する |
| 瑕疵/契約不適合 | 2020年4月施行の改正民法以降は「契約の内容に適合しない」ことを基準にした契約不適合責任が基本。古いひな形には「瑕疵担保責任」という言葉が残っていることがある | 「瑕疵担保責任」という言葉自体が常に誤りというわけではないが、現行民法の契約不適合責任とは発想・概念が異なる。古いひな形の言葉をそのまま流用していないか、意図して使っている表現かを確認する |
契約書を作成・チェックするときに、
「この言葉で本当に合っているか」
「別の意味に読まれないか」
「古い表現をそのまま使っていないか」
「日常語の感覚で書いていないか」
と立ち止まることが大切です。
特に、古いひな形やネット上のテンプレートを使う場合には注意が必要です。
以前の法律用語がそのまま残っていることがあります。
言葉が古いだけならまだよいのですが、現在のルールや実務感覚とズレている場合もあります。
6.対応策|用語ミスを防ぐためのチェックポイント
契約書を作るとき、用語ミスを防ぐためには、最後に次の観点で確認するとよいです。
| チェック項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 変換ミス | 意思/意志、保証/補償など、同音異義語が混ざっていないか |
| 用語統一 | 同じ概念に別の言葉を使っていないか |
| 古い用語 | 「瑕疵担保責任」「和議(現在の民事再生)」など、古いひな形の表現が残っていないか |
| 契約類型との整合 | 売買、業務委託、ライセンスなど、契約類型に合う表現か |
| 主語 | 誰が義務を負うのか、誰が権利を持つのかが明確か |
| 時点 | 契約締結時、納品時、検収後、契約終了後などが明確か |
| 条文間の整合 | 別の条項と矛盾していないか |
| 相手に指摘されやすい箇所 | 初歩的ミスで交渉主導権を失わないか |
特に大事なのは、「用語統一」です。
契約書では、同じものを指すなら、同じ言葉で書くのが原則です。
たとえば、ある条項では「成果物」と書き、別の条項では「納品物」と書き、
さらに別の条項では「制作物」と書いている。日常的には似たような意味に見えるかもしれません。
しかし、契約書では、
- 「成果物」と「納品物」は同じ意味なのか
- 「制作物」は途中段階のものも含むのか
- 「納品物」と書いた場合、納品前のデータは含まれないのか
といった疑問が生じることがあります。
この場合、最初に定義を置くか、どれか一つの用語に統一することを検討します。
また、「時点」の確認も重要です。
- 「契約締結後」なのか
- 「業務開始後」なのか
- 「納品後」なのか
- 「検収完了後」なのか
- 「契約終了後」なのか
ここが曖昧だと、権利義務の発生時期がズレます。
特に、支払条件、検収、秘密保持、競業避止、知的財産権、解除後の義務などでは、
時点のズレが実務上のトラブルにつながります。
用語チェックは、単なる誤字脱字の確認ではありません。
契約書の意味を揃える作業です。
そして、契約交渉で余計な突っ込みを受けないための、最後の防衛線でもあります。
7.まとめ|用語の精度は、契約書の信頼感を支える
今回のポイントを整理します。
- 契約書や法的ドキュメントで使う「いし」は、ほとんどの場合「意思」である
- 典型例は「意思表示」であり、「意志表示」とは通常書かない
- 「意志」は決意や気持ちのニュアンスが強く、契約書では使う場面がかなり限られる
- 予測変換で「意志」と出てしまうことがあるため、最後に確認する必要がある
- 「意思/意志」以外にも、解除/解約、承諾/同意/承認、保証/補償など、注意すべき用語がある
- 用語の違いは、契約条件の解釈や文書全体の信頼感に関わる
- 自社から契約書を提示する場合、用語ミスは相手に余計な指摘の機会を与えることがある
- 用語を整えることは、契約交渉上の防衛策でもある
契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
そのためには、条項の中身だけでなく、言葉の精度も大切です。
「意思」と「意志」の違いは、小さな違いに見えるかもしれません。
しかし、契約書では、その小さな違いが文書全体の信頼感に影響します。
大切なのは、完璧な法律用語辞典のように振る舞うことではありません。
「この言葉で本当に合っているか」と、最後に一度立ち止まることです。
契約書は、相手に読まれる文書です。
相手に納得してもらう文書です。
そして、将来トラブルになったときに立ち返る文書です。
だからこそ、言葉を丁寧に選ぶ。
この積み重ねが、実際に使える契約書につながります。

【音声解説】
本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)
🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
【ご質問受付中】
「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。
また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。











この記事へのコメントはありません。