ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.フリーランスは、自分から契約を切ってもいいのか?
- 2.契約書どおりに進めつつ、事前のサインと引継ぎで着地させる
- 3.契約解除でよくある迷い
- 4.フリーランスも「選ばれる側」であり、「選ぶ側」でもある
- 5.実例・実務ポイント|スマートに契約解除するための流れ
- 6.対応策・読み方・作り方|角を立てにくい伝え方の例
- 7.まとめ|契約解除条項は、取引の終わり方を整理するための設計図である
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.フリーランスは、自分から契約を切ってもいいのか?
stand.fm『契約書に強くなる!ラジオ』のリスナーの方から、契約解除についてご質問をいただきました。
内容を少し整理すると、次のようなご相談です。
Web制作系のフリーランスとして企業と業務委託契約を結んでいます。
今のクライアントが嫌というわけではありませんが、より良い条件の契約先が見つかりました。
現在の業務委託契約書を見ると、「2週間前までに書面で申し出れば契約解除可能」と書かれています。
この場合、どのように伝えれば、できるだけ角を立てずに契約を終了できるでしょうか。
また、「書面」とは具体的にどのようなものを用意すればよいのでしょうか。
これは、フリーランスの方にはよくある悩みだと思います。
今の取引先が嫌いなわけではない。
トラブルが起きているわけでもない。
でも、もっと条件の良い取引先が見つかった。
このとき、今の契約を自分から終わらせてもいいのか。
法律や契約書だけを見れば、契約書に解除や解約の方法が書いてあれば、そ
の手続に従って進めることになります。
ただ、現場ではそれだけでは済みません。
- 「自分から辞めたいと言ったら、相手に悪いのではないか」
- 「今までお世話になったのに、裏切るように見えないか」
- 「一方的に契約解除通知を送ったら、心証が悪くならないか」
- 「引き止められたら、どう返せばいいのか」
こういう気持ちの問題が出てきます。
2.契約書どおりに進めつつ、事前のサインと引継ぎで着地させる
フリーランスが自分から契約解除・解約を申し出ること自体は、契約書上認められているのであれば、
当然行ってもよい契約上の権利となります。
特に、契約書に、
2週間前までに書面で通知することにより、本契約を解約できる
といった条項がある場合には、原則として、その定めに従って通知をすることになります。
ただし、実務上は次の3点が大切です。
- 1つ目は、契約書の解除・解約条項を正確に確認すること
- 2つ目は、いきなり書面を送るのではなく、可能であれば事前にサインを出しておくこと
- 3つ目は、最後の印象を悪くしないように、引継ぎや終了日を丁寧に設計すること
ここを間違えると、契約上は問題がなくても、人間関係としてしこりが残ります。
逆に、ここを丁寧に進めると、
- 「残念だけど仕方ないですね」
- 「また機会があればお願いします」
- 「別案件で相談することがあれば声をかけます」
という着地になることもあります。
もちろん、すべての相手がそうなるわけではありません。
条件の良い別の取引先へ移ることを、面白くないと感じるクライアントもいるでしょう。
しかし、フリーランスも独立した事業者です。
より良い条件の仕事を選ぶこと自体は、決して不誠実なことではありません。
大事なのは、契約を「逃げるように終える」のではなく、「事業者として終える」ことです。
3.契約解除でよくある迷い
フリーランスの方からよく聞く迷いは、大きく分けると3つあります。
▼メールだけで伝えてよいのか
まず多いのが、「書面で通知と書いてあるけれど、メールでいいのか」という問題です。
これは、慎重に考えた方がよいところです。
最近は、契約書や通知の電子化も進んでいます。
メールやチャットで重要なやり取りをすることも珍しくありません。
ただし、契約書にあえて「書面で通知」と書かれている場合、メールだけで足りるかどうかは、
契約書の文言や当事者間の運用によって変わってきます。
たとえば、契約書に、
書面または電子メールにより通知する
と書かれていれば、メール通知も予定されていると読みやすいです。
一方で、単に「書面」とだけ書かれている場合には、少なくとも実務上は、
正式な解除通知書を作成して送る方が安全です。
「メールで辞めますと送ったから大丈夫だろう」と思っていたら、後で、
- 「正式な書面通知を受け取っていない」
- 「解約日はまだ先ではないか」
- 「引継ぎが終わっていない」
といった話になることもあります。
契約終了の場面では、言った・言わないになりやすいです。
だからこそ、契約書で指定された方法にできるだけ沿って、証拠が残る形で進めることが大切です。
▼いきなり通知書を送ってよいのか
次に多いのが、「契約書どおりなら、いきなり解除通知書を送ってよいのか」
という迷いです。
契約書上は、それで足りる場面もあります。
ただ、人間関係としては、いきなり正式書面だけが届くと、相手が驚くことがあります。
特に、これまで良好に仕事をしてきたクライアントであれば、
- 「え、突然ですか?」
- 「何か不満があったのでしょうか?」
- 「先に一言相談してくれてもよかったのに」
と思われる可能性があります。
契約書は、手続を明確にするためのものです。
しかし、人間関係を無視するためのものではありません。
ここが本当に大事です。
契約書どおりに進めることと、相手への伝え方を丁寧にすることは、両立します。
むしろ、両方必要です。
▼本当の理由をどこまで言うべきか
もう一つ悩ましいのが、理由の伝え方です。
今回のように、「より良い条件の契約先が見つかった」
という理由の場合、正直に言うべきか迷うと思います。
これはケースによります。
ただ、一般的には、相手を刺激する言い方は避けた方がよいです。
たとえば、「他社の方が報酬条件が良いので、そちらに移ります」
とストレートに言うと、かなりドライに聞こえます。
もちろん、それが事実であっても、相手からすると面白くない場合があります。
そのため、実務上は、
- 「今後の業務体制を見直すことになりました」
- 「受任可能な業務量を調整する必要が出てまいりました」
- 「新規案件との兼ね合いで、継続的な対応が難しくなりました」
といった言い方にすることが多いです。
嘘をつく必要はありません。
ただ、すべてを露骨に言う必要もありません。
契約終了の場面では、正しさよりも、角の立たない表現が大切になることがあります。
4.フリーランスも「選ばれる側」であり、「選ぶ側」でもある
この問題の本質は、フリーランスも独立した事業者だということです。
会社員であれば、雇用契約や退職のルールがあります。
一方で、フリーランスとクライアントの関係は、原則として業務委託契約です。
もちろん、実態によっては労働者性が問題になるケースもあります。
ただ、通常の業務委託契約として整理されている場合、フリーランスは「雇われている人」ではなく、
独立した事業者として「取引」をしています。
つまり、クライアントがフリーランスを選ぶのと同じように、フリーランスもクライアントを選びます。
ここを忘れてしまうと、契約解除の話が必要以上に重くなります。
- 「辞めたいと言ったら申し訳ない」
- 「相手に嫌われるかもしれない」
- 「取引先を切るなんて失礼ではないか」
そう感じるのは自然です。
しかし、事業者同士の取引では、条件が合わなくなれば契約を終了することがあります。
- 単価が合わない
- 稼働時間が合わない
- 責任範囲が重すぎる
- 連絡の負担が大きい
- 成長した先の仕事と合わなくなった
こうした理由で取引を見直すことは、決しておかしなことではありません。
契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
契約を始めるときだけでなく、契約を終えるときにも、その役割があります。
- 「いつまでに」
- 「どの方法で」
- 「誰に」
- 「何を通知すれば」
- 「いつ契約が終わるのか」
これを明確にすることで、感情だけの話にしない。
契約書は、そのためにあります。
5.実例・実務ポイント|スマートに契約解除するための流れ
では、実際にはどのように進めればよいのでしょうか。
一つの流れとしては、次のようになります。
▼まず契約書の解除条項を確認する
最初に見るべきは、契約書です。
確認するポイントは、少なくとも次のとおりです。
- 契約期間
- 自動更新の有無
- 途中解約の可否
- 通知期限
- 通知方法
- 通知先
- 未納品業務や進行中案件の扱い
- 報酬精算の方法
- 秘密保持義務や競業避止義務の有無
- 契約終了後も残る義務
特に注意したいのは、契約解除と契約終了後の義務は別だという点です。
契約が終わっても、秘密保持義務、損害賠償、知的財産権、貸与物の返還、
データ削除、成果物の取扱いなどは残る場合があります。
「契約を解除したから、すべて終わり」ではありません。
ここは特に注意した方がよいところです。
たとえば、Web制作の業務であれば、契約終了後も次のような問題が残ることがあります。
- サーバーやドメインの管理権限をどう返すのか
- 制作途中のデータをどう扱うのか
- 納品済みデータの修正対応はどこまで行うのか
- WordPressなどのログイン情報をどう引き継ぐのか
- 素材データや画像データの利用権限はどう整理するのか
- 保守契約がある場合、終了日以降の障害対応をどうするのか
Web制作系の契約解除は、単に「もう作業しません」で終われないことがあります。
契約終了後に、管理権限、データ、アカウント、成果物、保守対応が残るからです。
だからこそ、契約書の解除条項だけでなく、終了時の処理も確認しておく必要があります。
▼次に、事前にやわらかくサインを出す
相手との関係性が極端に悪化している場合を除き、いきなり解除通知書を送るよりも、
事前に一度、やわらかく伝える方がよいことがあります。
たとえば、打合せやメールで、
- 「今後の業務体制を少し見直しておりまして」
- 「継続案件の受け方を整理しているところです」
- 「稼働可能時間の関係で、今後の対応範囲を調整する必要が出てきました」
といった形で、少しずつサインを出します。
また、場合によっては、「現在の条件ですと、今後同じ形での継続が少し難しくなりそうです」
と伝えることもあります。
これにより、相手が条件を見直してくれることもあります。
- 報酬を上げる
- 納期を調整する
- 対応範囲を狭める
- 連絡頻度を減らす
- 月額契約からスポット契約に変える
こうした改善ができれば、契約を終了せずに済むこともあります。
一方で、条件が変わらないのであれば、正式に終了へ進む。
これが自然です。
「辞めるか、我慢するか」の二択にしないことです。
契約書は、終了させるためだけのものではありません。
条件を見直すためのきっかけにもなります。
▼最後に、正式な書面で通知する
事前に話をしたうえで、最終的には契約書に定められた方法で正式に通知します。
たとえば、「2週間前までに書面で通知」とあるなら、終了希望日の2週間以上前に、
解除通知書または解約通知書を送ることになります。
このとき、口頭やメールだけで済ませるのではなく、書面をPDF化してメール添付し、
必要に応じて郵送するなど、証拠が残る形にしておくと安心です。
もっとも、どの方法が適切かは契約書の文言やこれまでの運用によります。
契約書に通知方法が細かく書いてある場合は、それに従ってください。
たとえば、通知先住所、通知先メールアドレス、代表者宛てなのか担当部署宛てなのか、
到達日をいつと扱うのかなどが書かれている契約書もあります。
この場合、自己判断で別の方法を取ると、後で「正式な通知ではない」と言われる余地が出てしまいます。
契約解除の場面では、通知したつもりが一番危ないです。
「伝えたつもり」ではなく、「契約書上の通知として届いた」といえる形にしておく。
ここが実務上のポイントです。
6.対応策・読み方・作り方|角を立てにくい伝え方の例
では、実際にどのような言い方がよいのでしょうか。
一例としては、次のような表現が考えられます。
いつも大変お世話になっております。
現在お受けしている業務につきまして、今後の業務体制を見直すこととなり、
誠に恐縮ですが、契約書の定めに従い、〇年〇月〇日をもって契約を終了させていただきたく存じます。これまで継続してご依頼いただきましたこと、心より感謝しております。
契約終了日までの業務および必要な引継ぎにつきましては、責任をもって対応いたします。突然のご連絡となり恐縮ですが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
ポイントは、相手を否定しないことです。
- 「条件が悪い」
- 「対応が大変」
- 「他社の方が良い」
- 「もう続けるメリットがない」
こういう言い方は、事実であっても避けた方が無難です。
それよりも、
- 「業務体制の見直し」
- 「受任可能な業務量の調整」
- 「今後の事業方針との兼ね合い」
- 「継続対応が難しくなった」
という表現にする。
これだけで、だいぶ角が取れます。
また、終了日までに何をするのかも示すと、相手は安心しやすくなります。
- 現在進行中の作業はどこまで対応するのか
- データやアカウント情報はどう返すのか
- 後任者への引継ぎはどこまで可能か
- 最終請求はいつ行うのか
- 納品物や管理データの扱いをどうするのか
このあたりを整理しておくと、単なる「辞めます」ではなく、「終了まで責任をもって対応します」という印象になります。
契約解除の通知は、別れ話に似ています。
感情だけで進めるとこじれます。
でも、事務的すぎても冷たく見えます。
だからこそ、契約書で手続を確認しつつ、言葉は丁寧にする。
このバランスが大切です。
▼契約解除通知書に書いておきたい項目
解除通知書・解約通知書を作る場合、一般的には次のような項目を入れておくと整理しやすくなります。
- 作成日
- 相手方の名称
- 自分の名称または氏名
- 対象となる契約書の名称
- 契約締結日
- 契約書のどの条項に基づく通知なのか
- 契約終了日
- 終了日までの対応方針
- 必要な引継ぎについて
- 感謝の言葉
たとえば、
〇年〇月〇日付で締結した業務委託契約書第〇条に基づき、
〇年〇月〇日をもって本契約を解約する旨、通知いたします。
というように、対象契約と根拠条項を明確にしておくと、何の契約をいつ終了させる通知なのかが分かりやすくなります。
契約書は、曖昧さを減らすための文書です。
解除通知書も同じです。
相手に気を遣うあまり、肝心な部分が曖昧になってしまうと、かえってトラブルになります。
やわらかく書く部分と、明確に書く部分を分ける。
これが実務上のコツです。
7.まとめ|契約解除条項は、取引の終わり方を整理するための設計図である
今回のポイントを整理します。
- フリーランスが自分から契約解除を申し出ること自体は、契約書上認められていれば特別おかしなことではない
- ただし、契約書の解除・解約条項、通知期限、通知方法、終了後の義務は必ず確認する必要がある
- 「書面で通知」と書かれている場合、メールだけで足りるかどうかは契約書の文言や運用によって慎重に考える必要がある
- いきなり解除通知書を送るより、可能であれば事前に業務体制の見直しや条件調整のサインを出しておく方が、角が立ちにくい
- 契約解除の理由は、相手を否定する表現ではなく、「業務体制の見直し」「受任可能な業務量の調整」など、取引を整理する言葉で伝える
- 終了日までの対応、引継ぎ、データや成果物の扱い、最終請求などを整理しておくことで、契約終了後の印象は大きく変わる
- フリーランスも独立した事業者であり、合わなくなった取引を見直すことは、事業を続けていくうえで自然な判断である
そして何より大事なのは、契約解除は、相手を切り捨てるためだけの手続ではないということです。
契約解除条項は、冷たい条文ではありません。
- いつまでに伝えればよいのか
- どの方法で通知すればよいのか
- どこまで対応して終わるのか
- 何を引き継ぐ必要があるのか
- 契約終了後も何が残るのか
これをあらかじめ言葉にしたものです。
だからこそ、契約解除条項は、取引の終わり方を整理するための設計図なのです。
相手を困らせるためではなく、無理な取引を抱え込みすぎないために使う。
感情的に関係を断つためではなく、お互いの仕事を整理するために使う。
逃げるためではなく、次の仕事へ進むために使う。
この視点を持つと、契約解除条項は少し違って見えてきます。
契約書は、取引の解像度を上げるツールです。
取引の始め方だけでなく、続け方、見直し方、終わらせ方まで言語化する。
その意味で、契約書はフリーランスが自分の仕事を守り、次のステージへ進むための大切な設計図なのです。

【音声解説】
本記事の内容は、
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▽ 音声はこちら(stand.fm)
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
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