ビジネス法務

【契約書のトリセツ】創業初期こそ入金確認が大事|契約書があるとスマートに督促できる理由

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.創業初期に、入金確認まできちんとできていますか?

創業準備中の方や、創業して間もない方とお話ししていると、よく感じることがあります。

  • 事業計画
  • マーケティング
  • SNS発信
  • 商品化
  • 営業活動
  • 補助金や融資の準備

こうしたテーマには、皆さんとても熱心です。
これは当然です。事業を始める以上、まずは売上を作らなければなりません。
お客様に知ってもらい、商品やサービスを買ってもらい、仕事を受ける。
ここに意識が向くのは自然です。

ただ、創業者・創業希望者向けのセミナーなどでお話しするとき、私が必ずお伝えしていることがあります。

それが、

「入金確認をマメにしてください」

という話です。

創業初期において、これはかなり重要です。
なぜなら、仕事をしただけでは、事業は回らないからです。

  • 納品した
  • 請求書を出した
  • お客様から「ありがとうございます」と言われた
  • 次の仕事も見えてきた

ここで安心してしまう方がいます。
しかし、本当に大事なのは、その後です。

期日どおりに入金されているか。

ここまで確認して、初めてその仕事は一つの区切りを迎えます。

創業初期は、手元資金に余裕がないことが多いです。
一件の入金遅れが、自分の支払い、家賃、外注費、仕入れ、借入返済に影響することがあります。
だからこそ、入金確認は単なる事務作業ではありません。
創業初期の経営を守るための基本動作なのです。


2.入金確認は、創業初期の「資金繰りを守る実務」である

創業初期の方ほど、入金確認を仕組み化すべきです。
仕事が終わったら終わりではありません。
請求書を出したら終わりでもありません。

  • 支払期日を確認する
  • 入金予定日をカレンダーに入れる
  • 期日に入金があったか確認する
  • 入金がなければ、すぐに連絡する

ここまでを一つの業務フローにする必要があります。

創業初期は、どうしても「次の仕事を取ること」に意識が向きます。
もちろん、それは大事です。
ただ、売上は、入金されて初めて事業資金になります。
売上が立っていても、入金されなければ資金繰りは苦しくなります。

特に創業初期は、入ってくるお金より、先に出ていくお金の方が目につきます。

  • 事務所や店舗の家賃
  • 仕入れ費用
  • 外注費
  • 広告費
  • 通信費
  • システム利用料
  • 借入金の返済
  • 生活費

こうした支払いは待ってくれません。
そのため、入金確認は「経理担当がやる細かい作業」ではなく、経営者自身が押さえるべき資金繰りの実務です。

「いつ入るはずのお金なのか」
「入らなかったら、いつ誰が連絡するのか」
「契約書や請求書に、どの支払期日が書かれているのか」

ここを明確にすることで、創業初期の経営はかなり安定します。


3.仕事が終わると、入金確認を忘れてしまう

創業初期によくあるのは、仕事が終わった瞬間に気が抜けてしまうことです。

  • 初めての案件
  • 苦労して取った仕事
  • 何度も修正した成果物
  • ようやく納品できたサービス

これが終わると、

「よし、終わった」
「次の仕事を探そう」
「次の提案を作ろう」

という気持ちになります。
もちろん、前向きでよいことです。しかし、ここで入金確認を忘れてしまうと危険です。

たとえば、月末に自分の支払いがある。そこで通帳やネットバンキングを見て、

「あれ、入っていない」

と気づく。この時点で初めてお客様に連絡しても、相手からは、

「社内処理が遅れています」
「担当者が確認中です」
「請求書が経理に回っていませんでした」
「来月末の支払いになります」

などと言われてしまうことがあります。

創業初期にこれは痛いです。
お客様側に悪意があるとは限りません。
単なる処理漏れかもしれません。
担当者の確認不足かもしれません。
経理部門との連携ミスかもしれません。
請求書の送付先が違っていたのかもしれません。

ただ、理由が何であれ、入金が遅れれば困るのは自社です。

創業初期に限らずのことではありますが、

「有名な会社だから大丈夫」
「担当者が良い人だから大丈夫」
「長く続いている会社だから大丈夫」
「羽振りがよさそうだから大丈夫」

と思いがちです。私も創業初期はそう考えていました。

しかし、社歴が長い会社でも、支払いが遅いことはあります。
規模の大きな会社でも、経理処理が遅れることはあります。
担当者が良い人でも、支払手続が社内で止まっていることはあります。

だからこそ、入金確認は相手の人格を疑う作業ではありません。
自社の経営を守るための確認作業です。


4.「うるさい会社」から先に支払われるという現実

お金を支払う側の心理として、督促してくる会社から優先的に支払われやすいという現実があります。
資金繰りが厳しい会社や、支払事務がルーズな会社では、どうしても優先順位がつきます。

そのとき、

  • 何も言ってこない会社
  • 支払いが遅れても黙っている会社
  • いつも遠慮している会社

は後回しにされやすい。一方で、

  • 支払期日の翌日に確認してくる会社
  • 契約書と請求書を確認したうえで連絡してくる会社
  • 入金遅れを放置しない会社

には、早めに対応しようという心理が働きます。

創業初期は、どうしても遠慮が出ます。

「督促したら嫌われるのではないか」
「次の仕事をもらえなくなるのではないか」
「相手を疑っているように思われるのではないか」

こう考えてしまう。

しかし、期日を過ぎた入金を確認することは、失礼なことではありません。
むしろ、自社の経営管理をきちんとしているということです。

督促は、たしかに嫌な仕事です。
お金の話は言いにくいですし、相手にどう伝えればよいか迷うこともあります。

ただ、これも実務です。
相手を責めるのではなく、相手を傷つけず、それでいて約束どおりに支払ってもらう。
そのためのスマートな言い回しは、最初から自然にできるものではありません。
慣れて覚えるしかありません。
最初は少し勇気がいります。

しかし、何度か経験すると、

「契約書では〇月〇日がお支払期日となっております」
「本日時点でご入金の確認ができておりません」
「念のため、ご状況をご確認いただけますでしょうか」

というように、感情的にならず、淡々と確認できるようになります。

これは、創業者にとって一つの修行だと思います。
実際、安定して成長している会社は、このあたりが上手です。
売ることだけでなく、回収することまで業務フローに組み込んでいます。
入金確認日を管理し、遅れがあればすぐに確認し、必要であれば支払予定日を再確認する。
こうしたことを、感情ではなく仕組みとして行っています。

つまり、督促が上手い会社は、単に「強い会社」なのではありません。
お金の流れをきちんと見ている会社です。
資金繰りを他人任せにしない会社です。
約束を曖昧にしない会社です。
創業初期こそ、この感覚を早めに身につけておくことが大切です。
入金確認は、創業者が身につけるべき経営習慣です。


5.契約書があると、督促はスマートになる

とはいえ、督促は言いにくいものです。
創業したばかりの方であれば、なおさらです。

「お金を払ってください」

という言葉は、どうしても重く感じます。

しかし、契約書があると、かなり言いやすくなります。
なぜなら、感情ではなく、ルールを根拠に話せるからです。

契約書がない場合、督促はどうしても曖昧になりがちです。

「たしか、今月末までにお支払いいただく予定だったと思うのですが……」
「あのとき、そういうお話でしたよね……」
「請求書はお送りしているのですが……」

こういう言い方になります。

相手から、

「来月末だと思っていました」
「確認しておきます」
「担当者に聞いてみます」

と言われると、話がぼやけます。

一方で、契約書や発注書、請求書に支払期日が明記されていれば、こう言えます。

恐れ入ります。契約書および請求書を確認しましたところ、○月○日がお支払期限となっておりますが、本日時点でご入金の確認ができておりません。お手数ですが、ご状況をご確認いただけますでしょうか。

これは、感情的な督促ではありません。契約書と請求書に基づく確認です。
この言い方なら、相手を責める感じも弱まります。
しかも、こちらも言いやすい。

契約書は、トラブルになったときの証拠だけではありません。
言いにくいことを、スマートに伝えるための根拠にもなります。
契約書があることで、督促の心理的負担が減ります。
創業初期ほど、この効果は大きいです。


6.創業初期に作っておきたい入金管理フロー

創業初期の方は、難しい仕組みを作る必要はありません。
まずは、入金確認を業務フローに組み込むことです。
たとえば、次のような流れです。

タイミングやることポイント
受注時契約書・発注書で支払条件を確認する支払期日、支払方法、振込手数料の負担を確認
納品時納品日と検収条件を記録する検収後支払の場合、検収完了日が重要
請求時請求書を送付し、送付記録を残すメール送付日、宛先、添付ファイルを保存
支払期日前入金予定日をカレンダー登録する忘れない仕組みにする
支払期日当日または翌日入金確認をするネットバンキング等で確認
未入金の場合すぐに確認連絡をする感情ではなく、契約書・請求書を根拠に連絡
支払困難と言われた場合分割払い・支払予定日を協議する放置せず、次の約束を文字で残す

特に大事なのは、支払期日をカレンダーに入れることです。
納品日や商談日はカレンダーに入れていても、入金確認日は入れていない方がいます。
しかし、創業初期に本当に大事なのは、入金日です。

入金予定日を管理し、未入金ならすぐに確認する。
これだけでも、未回収リスクはかなり下がります。

また、支払が遅れた相手が、

「今すぐ全額は難しい」

と言ってきた場合でも、早めに分かれば対応できます。

  • 分割払いにする
  • 支払予定日を書面で確認する
  • 次回以降の取引条件を見直す
  • 前金制に変更する
  • 新規発注を一時止める

打つ手が出てきます。

逆に、放置してしまうと、相手の資金繰りがさらに悪化し、回収が難しくなります。
入金遅れは、早く気づくほど対応しやすい。
これは、創業初期に必ず押さえておきたい実務感覚です。


7.支援機関の方へ|創業支援に「契約と入金管理」の視点を

創業支援の現場では、事業計画、資金調達、マーケティング、販路開拓、SNS活用などが重要なテーマになります。
もちろん、それらは欠かせません。
ただ、創業後に実際に起こりやすいトラブルを見ると、契約と入金管理の基礎も非常に重要です。

  • 知人に制作を依頼したが、いつまでも完成しない
  • フランチャイズ契約をよく分からず締結してしまう
  • 賃貸借契約の違約金や解約予告期間を見落とす
  • 納品したのに入金されない
  • 支払期日を確認しておらず、資金繰りが崩れる

こうした問題は、創業者にとって大きなダメージになります。
限られた創業資金が、契約トラブルや未回収で失われてしまうからです。

創業者向けセミナーに、契約書の基礎知識や入金管理の実務を組み込むことは、
創業後の生存率を高める支援にもつながります。

難しい法律論を学ぶ必要はありません。まずは、

  • 契約書は何のためにあるのか
  • 支払条件はどこを見るのか
  • 入金確認はいつ行うのか
  • 未入金時にどう連絡するのか
  • 口約束ではなく、何を文字で残すべきか

こうした基本を押さえるだけでも、創業者の実務力は大きく変わります。


8.まとめ|入金確認は、創業者が自分の事業を守る基本動作

今回のポイントを整理します。

  • 創業初期は契約トラブルや入金トラブルが起きやすい
  • 仕事が終わっても、入金確認まで終わらなければ安心できない
  • 社歴が長い会社、有名な会社、担当者が良い人でも、支払遅れは起こり得る
  • 支払う側は、督促してくる会社を優先しやすい現実がある
  • 契約書があると、感情ではなくルールを根拠にスマートに督促できる
  • 入金確認日は、カレンダーに入れて仕組み化する
  • 未入金が分かったら、できるだけ早く確認連絡をする
  • 支援機関の創業支援では、契約と入金管理の基礎を伝えることが重要である

契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
そして、入金確認は、その取引を最後まで見届けるための実務です。
創業初期は、売上を作ることに意識が向きます。

売上は入金されて初めて資金になります。

  • 契約書を整える
  • 請求書を出す
  • 支払期日を確認する
  • 入金を確認する
  • 未入金ならすぐに連絡する

この流れを、創業初期から当たり前にしておく。
それが、自分の事業を守る基本動作です。

督促は、相手を責めることではありません。
約束した支払期日を確認することです。
契約書があれば、その確認はスマートになります。
創業したばかりの方ほど、売ることだけでなく、
回収することまで含めて商売だと考えていただければと思います。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


🔎 参考記事

ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


【ご質問受付中】

「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。

また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

【契約書のトリセツ】契約書を出して嫌な顔をされないために|経営者が考えたい商談の段取り設計前のページ

【契約書のトリセツ】受注金額を上げるために契約書をどう使うか次のページ

関連記事

  1. ラジオ

    「契約書に強くなる!ラジオ」2024年9月

    ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。ビジネス契約書専門の行…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


ご連絡先

行政書士大森法務事務所
home@omoripartners.com
048-814-1241
〒330-0062
埼玉県さいたま市浦和区仲町2-5-1-B1
▼契約書類作成
▼セミナー講師依頼
(契約書、ビジネス法務、コンプライアンス)
▼台本作成
(研修動画、ナレーション、ラジオ番組)

stand.fm『契約書に強くなる!ラジオ』【週2回(水・日)更新】
PR
FM川口『ちょいワルMonday200』【毎月第2第4月曜日19:00~生放送】
note
2026年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930 
PAGE TOP