セミナー・研修

【実務ノート】セミナー・研修講師をつとめる際に意識していること

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次


1. 契約実務を、現場で使える知識に翻訳する

契約書、コンプライアンス、ビジネス法務などのテーマで、セミナーや企業研修の講師をつとめる機会をいただいています。
その中で、私が特に意識していることがあります。
それは、単に法律知識を説明するのではなく、受講者の方が「明日から自信を持って実務に使える状態」にすることです。

契約書の知識は、学校で体系的に学ぶ機会がほとんどありません。
法学部で契約法を学ぶことはあっても、

「契約書のどこを見るのか」
「印鑑はどこに押すのか」
「印紙はいくら貼るのか」
「相手の契約書を受け取ったとき、どこを確認するのか」
「営業現場でお客様から質問されたら、どう説明するのか」

といった契約実務そのものを体系的に学ぶ機会は、意外なほど少ないのが実情です。
だからこそ、契約書に関する研修では、法律論をそのまま伝えるのではなく、現場で使える形に翻訳することを大切にしています。


2. 現場で「点」として存在している知識を、線にする

中小ベンチャー企業の現場には、契約書に関する断片的な知識がたくさんあります。
たとえば、

「捨印は何となく押している」
「印紙はとりあえず200円を貼っている」
「契約書は相手から送られてきたものを確認するだけ」
「注文書や発注書は契約書ほど重要ではないと思っている」
「取引基本契約書は一度結べば終わりだと思っている」

こうした一つひとつの認識は、現場ではよく見られるものです。
しかし、その意味やリスクを体系的に整理しないまま業務を続けていると、思わぬところで大きな損失につながります。
契約書の研修では、このような現場の「点」をつなぎ、線や面として理解してもらうことを意識しています。

「なぜ捨印を安易に押してはいけないのか」
「なぜ印紙代が発生するのか」
「なぜ電子契約では印紙代が不要になるのか」
「なぜ相手方フォーマットをそのまま受け入れると危ないのか」
「なぜ自社の営業担当者が契約書を説明できる必要があるのか」

こうした理由が分かると、受講者の方の表情が変わります。
単なる知識ではなく、日々の業務の意味が分かるからです。


3. 契約書は、中小ベンチャー企業を大損から守るための道具である

契約書の知識は、細かい法律知識の問題に見えるかもしれません。
しかし、実務上は、会社のお金や利益を守るための非常に重要な知識です。
たとえば、

  • 保証範囲を決めていない
  • 追加作業の費用条件を決めていない
  • 検収の期限を決めていない
  • 損害賠償の上限を決めていない
  • 契約終了時の精算方法を決めていない

こうした空白があると、トラブルが起きたときに、無償対応、返金、追加作業、値引き、損害賠償などの形でキャッシュアウトが発生します。

特に中小ベンチャー企業の場合、1件の契約トラブルが資金繰りや経営に大きな影響を与えることがあります。
その意味で、契約書は、単なる書類ではありません。
中小ベンチャー企業を「大損」から守るための実務の道具です。
研修では、この感覚を受講者の方に持ち帰っていただくことを重視しています。
契約書に強くなることは、会社を強くすることです。


4. 難しすぎる契約書では、現場で使えない

契約書を導入する際に注意したいのが、いきなり難しすぎる契約書を使おうとすることです。
世の中には、大企業向けの非常に精緻な契約書ひな形がたくさんあります。
もちろん、法的にはよくできているものもあります。
しかし、中小ベンチャー企業が初めて契約書を導入する場面で、あまりに重厚で複雑な契約書を使うと、現場が使いこなせないことがあります。

  • 営業担当者がお客様に説明できない
  • 社内で条項の意味が共有されない
  • 相手方から質問されると答えられない
  • 結局、契約書を出すこと自体が心理的負担になる

これでは、本末転倒です。
契約書は、現場で使えて初めて意味があります。
最初から完璧な契約書を目指すよりも、まずは自社の事業にとって重要なリスクを押さえた、分かりやすく運用しやすい契約書から始める。
そして、会社の成長や取引内容の変化に合わせて、少しずつバージョンアップしていく。
研修でも、この「身の丈に合った契約書」という感覚を大切にしています。


5. 地方・中小ベンチャー企業ほど、契約書の基礎知識が必要になる

契約書の知識は、都市部の大企業だけに必要なものではありません。
むしろ、地方の中小ベンチャー企業こそ、契約書の基礎知識を持つ必要があります。

大企業が提示してくる契約書は、多くの場合、大企業側に有利に作られています。
これは、ある意味では当然です。
契約書は、作った側の立場やリスク感覚が反映される文書だからです。
そのため、相手方から提示された契約書を何も分からないまま受け入れてしまうと、自社に不利な条件を飲み込んでしまうことがあります。

支払条件、検収条件、損害賠償、知的財産、秘密保持、契約解除、管轄裁判所。
一つひとつは細かい条項に見えても、トラブル時には大きな差になります。

研修では、受講者の方に「全部を専門家のように読めるようになってください」とは言いません。
まずは、自社にとって危ない条項に気づけるようになること。
そして、必要な場面で専門家に相談できるようになること。
この入口を作ることが、契約書研修の大きな役割だと考えています。


6. セミナーでは、現場の言葉に置き換える

私がセミナー・研修講師をつとめる際に意識しているのは、できるだけ現場の言葉で話すことです。
法律用語を正確に説明することは大切です。
しかし、それだけでは受講者の方が実務に持ち帰れないことがあります。

たとえば、「損害賠償の上限」と言うだけでは、営業担当者や現場担当者には少し遠い話に聞こえるかもしれません。
そこで、

「この取引で、万が一トラブルになったとき、会社としてどこまで責任を負えるのかを決めておく条項です」

と説明する。

「検収」と言うだけでなく、

「納品後、いつまでに確認してもらい、いつ請求・入金につなげるかを決める条件です」

と説明する。

このように、条文の意味を、現場の業務の流れに置き換えて伝えることを意識しています。


7. 研修の目的は、受講者が明日から動けるようになること

契約書研修の目的は、受講者を法律専門家にすることではありません。
目的は、受講者の方が明日からの実務で、少しでも安全に、少しでも自信を持って動けるようになることです。

  • 契約書を見たときに、どこから確認すればよいか分かる。
  • 捨印を求められたときに、安易に押さず理由を確認できる。
  • 印紙が必要かどうか、確認する意識を持てる。
  • 相手方フォーマットをそのまま受け入れず、自社の立場を確認できる。
  • 分からないときに、早めに専門家へ相談できる。

このような小さな変化が、会社を大きなトラブルから守ります。
セミナーや研修では、法律知識を詰め込むだけでなく、受講者の方が自社に戻ったあとに行動を変えられるかどうかを重視しています。


8. 契約書研修は、会社を守るための実務教育では?

契約書は、法務部だけのものではありません。
営業、総務、経理、現場、経営者。取引に関わるすべての人に関係します。

契約書の知識があるかないかで、会社の利益の残り方は変わります。
知らなかったために大損することもあれば、知っていたからこそ防げる損失もあります。
だからこそ、契約書研修では、専門的な知識を分かりやすく、現場で使える形にして届けることを大切にしています。

弊所では、契約書の基礎知識、営業現場で使える契約実務、契約書チェックの考え方、コンプライアンス、ビジネス法務などのテーマで、オンライン・対面いずれの形式でも研修に対応しています。

単に契約書の条文を解説するだけでなく、受講者の方が「明日から自信を持って契約実務に取り組める」ことを目指しています。

契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
そして、契約書研修とは、そのツールを現場で使えるようにするための実務教育だと考えています。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


🔎 参考記事

ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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