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【実務ノート】契約書は「セリフ台本」ではなく「進行台本」

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次


1.契約書は、細かく書くほど良いのでしょうか

契約書を作るとき、

「念のため、考えられる条件をすべて書いておきたい」

と考える方は少なくありません。
たしかに、曖昧な契約書では、何か起きたときに対応できません。
しかし、細かく書けば書くほど良いとも限りません。

私は契約書の専門家である一方、コミュニティFM局でラジオ番組の構成作家とパーソナリティも務めています。

契約書とラジオ番組。一見、まったく違う仕事に見えます。
ところが、番組の台本を何年も作るうちに、両者には大きな共通点があることに気づきました。
どちらも、何でも言語化してガチガチに決めれば、うまくいくわけではないのです。


2.契約書は「セリフ台本」ではなく「進行台本」

ラジオのトーク番組で使う台本には、二つの作り方があります。
一つは、出演者が話す言葉を一言一句書いた「セリフ台本」です。
もう一つは、テーマ、話す順番、時間配分、曲やCMを入れるタイミングなど、番組の骨格を示した「進行台本」です。

トーク番組で出演者全員のセリフを細かく書くと、会話が台本の読み合わせのようになってしまいます。
その場で生まれる反応や掛け合いもなくなり、生放送ならではの面白さが消えてしまいます。

契約書も同じです。
良い契約書は、現場の一挙手一投足を指定するセリフ台本ではありません。
取引の目的、役割、お金の流れ、責任範囲など、本筋から外れないための骨格を示す進行台本です。


3.細かすぎる契約書が、現場の足枷になる

たとえば、複数の商品に共通して使用する取引基本契約書へ、商品Aに合わせた検査方法を細かく書いたとします。
契約締結時には、それが最も正確な契約書に見えます。

ところが、その後、性質の異なる商品Cを取り扱うことになったらどうでしょうか。
商品Aには適していた検査方法が、商品Cには合わないかもしれません。
それでも契約書を改定せずに使い続ければ、現場が合理的な検査をしていても、形式上は契約書どおりに実施していないことになります。

契約書は現場を円滑に動かすためのものです。その契約書に合わせるために、現場が不合理な仕事を続けるようでは本末転倒です。


4.契約書の「マチ」は、何も決めないことではない

ラジオ番組の進行台本には、あえて細かく書かない箇所があります。
出演者の個性や当日の話題を生かすため、「ここはその場の掛け合いに任せる」という部分を残すのです。

私は、これを台本における「マチ」だと考えています。
洋服のマチは、布が足りずに生じた空白ではありません。
体の動きを受け止めるため、意図的に設けられたゆとりです。

ただし、契約書では「別途協議の上決定する」と書くだけでは、本当のマチにはなりません。
問題が起きて双方の利害が対立してから協議を始めても、簡単には決まらないからです。

契約書のマチとは、何も決めないことではありません。
後で具体的に決めるための手順を、先に決めておくことです。

決めておくこと具体的な内容
後で決める項目仕様、検査方法、納期、納品形式など
決める文書発注書、仕様書、メール、チャットなど
決める人双方の担当者、責任者
変更方法書面や電子記録による合意
決まらない場合従前条件の継続、作業停止、中途終了

余白を残すことと、曖昧なまま放置することは違います。


5.基本契約書と個別発注書で「進行台本」を作る

実務では、取引基本契約書と個別発注書を使い分けることで、適度なマチを作れます。

基本契約書には、支払、秘密保持、知的財産権、損害賠償、契約解除など、案件が変わっても共通するルールを書きます。
一方、商品ごとの仕様、数量、納期、検査方法、制作物の形式、修正回数などは、発注書や個別契約で決めます。

たとえば、基本契約書には「検査の方法、基準および期間は、対象商品ごとに個別契約に定める」と書き、具体的な条件は発注時に決める方法があります。

これなら、商品が変わるたびに基本契約書全体を作り直す必要はありません。
それでいて、検査条件を何も決めていない状態にもなりません。
ラジオ番組でいえば、番組の開始時刻やコーナーの順番は進行台本で決めつつ、その場の具体的な会話は出演者に任せるようなものです。


6.契約書に残す「アドリブ」の範囲を決める

契約書にマチを設けるときは、まず「必ず固定する条件」と「案件ごとに変わる条件」を分けます。

報酬、支払時期、権利の帰属、責任範囲、契約を終了できる場面など、会社の利益やキャッシュフローに直結する条件は、原則として明確にします。

一方、具体的な制作手順、検査方法、納品形式、スケジュールなど、案件ごとに変わるものは、個別発注書や仕様書に委ねる方法を検討します。

大切なのは、現場のアドリブを禁止することではありません。
誰が、どの範囲まで判断できるのかを決めておくことです。

ChatGPTなどの生成AIを使えば、細かな条件を盛り込んだ契約書案を作ることはできます。
しかし、どこを固定し、どこにマチを残せば現場が動きやすいのかは、自社の仕事の進め方を見なければ判断できません。

契約書は、自社のビジネスモデルを外に出す文書です。現場の動き方まで理解して、初めて適切な進行台本になります。


7.まとめ|良い契約書は、現場のアドリブを受け止める

ラジオ番組の構成作家を経験したからこそ、台本には「書かない方がうまくいく部分」があると分かりました。
すべてを書かなければ番組は進みません。
しかし、すべてを書いてしまえば番組は面白くなりません。

契約書も同じです。

  • 何を必ず守るのか
  • どこまでは現場で調整できるのか
  • 条件を変更する場合、誰がどのような方法で決めるのか

良い契約書は、現場のアドリブを排除しません。
取引が本筋から外れないように骨格を示しながら、予定外の変化や人と人とのコミュニケーションを受け止める「マチ」を備えています。


【音声解説】

本記事の内容は、
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【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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