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【契約書のトリセツ】契約書は売上の「額」ではなく「質」を決める

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.同じ100万円の売上なら、同じ価値があるのか

100万円の商品を販売し、無事に代金が振り込まれた。
営業担当者からすれば、ひとまず売上目標の達成です。
では、同じ100万円の売上であれば、会社にとっての価値も同じなのでしょうか。

一方の取引では、不具合への対応期間や損害賠償の上限が明確に決められている。
もう一方の取引では、無償対応の範囲も期間も曖昧で、損害賠償にも上限がない。
帳簿に記録される売上は同じ100万円でも、契約書一つでその後に会社へ残る利益は大きく変わることもあります。

「契約書なんて、売上には直接関係ないじゃないか」

確かに、契約書が注文を連れてきてくれるわけではありません。
しかし、本当に契約書が必要になるのは、売上が立つまでではなく、その後の話なのです。


2.契約書が決めるのは、売上がどれだけ利益として残るか

契約書は、売上の額を直接増やすための書類ではありません。
契約書が決めるのは、その売上にどれだけの責任や追加コストが付いてくるのか、そして、入金されたお金をどれだけ利益として会社に残せるのかという「売上の質」です。

商品やサービスに不具合があれば、修理、再制作、再納品などが必要になります。
納期が遅れれば、違約金を請求されるかもしれません。
相手に損害を与えれば、損害賠償の問題にもなります。

これらはすべて、いったん会社へ入ったお金が、後から外へ出ていく「キャッシュアウト」の原因になります。
契約書は、このキャッシュアウトをゼロにする魔法の道具ではありません。
しかし、どのような場合に、どこまで責任を負うのかという防衛ラインを引くことはできます。

その意味で、契約書は「売上を利益として残すための文書」なのです。


3.受注金額だけを見て「良い案件」と判断してしまう

営業の現場では、どうしても受注金額に目が向きます。

  • 100万円の案件を受注した
  • 今月の売上目標を達成した
  • 大口のお客様と取引が始まった

もちろん、売上を作ることは大切です。
しかし、その契約書にどのような条件が付いているかまで確認しなければ、本当に良い案件かどうかは分かりません。

例えば、納品後に何度でも無償で修正しなければならない契約だったらどうでしょうか。
わずかな不具合でも長期間対応しなければならず、さらに相手に生じた損害を無制限に賠償する内容だったら、金額だけを見て「良い案件」とは言えません。

商談がまとまった勢いで、契約書の中身を説明せず、「とりあえず、ここにハンコを押してください」と進めてしまうこともあります。
ところが、トラブルが起きた後に契約書を読み返しても、後の祭りです。
受注した時点では黒字に見えていた案件が、追加作業やクレーム対応によって赤字へ変わることは、実際のビジネスでは珍しくありません。


4.売上には「後から出ていくお金」がくっついている

契約書には、業務内容、代金、支払時期だけでなく、契約不適合責任、損害賠償、違約金、解除といった条項が書かれています。
こうした条項は、売上が立つ前にはあまり目立ちません。何事もなく取引が終われば、使われることもないでしょう。

しかし、不具合や納期遅れが起きた瞬間に発動します。
私は、こうした条項を「キャッシュアウト条項」と捉えています。

契約不適合責任の範囲が曖昧であれば、どこまで無償対応を続けるのか分かりません。
損害賠償の範囲や上限が決められていなければ、受け取った代金を超える請求を受ける可能性もあります。

利益を守るということは、責任を一切負わない契約書を作ることではありません。
自社が引き受けられる責任の範囲を見極め、取引価格とのバランスを取ることです。

責任を無制限に負うのであれば、そのリスクに見合った価格設定が必要です。
低い価格で大きな責任まで引き受ければ、どれだけ売上を増やしても会社にお金が残りません。


5.100万円の案件が赤字案件に変わるまで

仮に、100万円で受注した制作案件があったとします。
材料費や外注費、人件費などの原価が70万円であれば、予定していた利益は30万円です。

ところが、契約書で修正回数を決めていなかったため、追加修正に10万円分の作業が発生した。
納品後の対応範囲も曖昧だったため、現地対応に10万円かかった。
さらに、納期遅れを理由として20万円の損害を請求された。

この場合、計算は次のようになります。

売上100万円
- 原価70万円
- 追加修正10万円
- 現地対応10万円
- 損害対応20万円
= 10万円の赤字

売上の額は100万円のままです。
しかし、会社に残るはずだった30万円の利益が消え、さらに10万円の赤字が生じています。

契約書で修正回数、無償対応の範囲、責任を負う期間、損害賠償の範囲などを決めていれば、すべての支出を防げなかったとしても、キャッシュアウトを一定の範囲に抑えられた可能性があります。
これが、契約条件によって「売上の質」が変わるということです。


6.契約締結前に「利益を減らす4つの条件」を確認する

まず確認したいのは、どのような場合に無償対応が発生するのかです。
仕様どおりに納品した後も、相手の好みによる修正へ無制限に対応するのか。
それとも、修正回数や対象を決めるのか。業務の完了条件と無償対応の範囲を整理します。

次に、いつまで責任を負うのかを確認します。
納品から何か月、検収から何か月など、責任を負う期間を決めなければ、取引終了後もクレーム対応が続く可能性があります。

三つ目は、何をすれば責任を果たしたことになるのかです。
修理、交換、再制作、代金減額など、問題が起きたときの対応方法を決めます。
相手から求められた対応を何でも受け入れる内容にしないことが大切です。

四つ目は、損害賠償や違約金の範囲と上限です。
取引金額や想定されるリスクを踏まえ、どこまでなら自社が引き受けられるのかを検討します。
一般的なひな形を自社用に調整せず使用すると、この防衛ラインが自社の取引実態に合わないままになってしまうことがあります。
そして、こうした条件は契約書に書くだけではなく、締結時に相手へ説明します。

「不具合があった場合は、この範囲で対応します」
「損害賠償については、今回の取引金額とのバランスから、この金額を上限とさせてください」

その理由まで丁寧に説明して合意しておけば、問題が起きた後の交渉でも話がぶれにくくなります。


7.まとめ|良い売上とは、利益として残る売上である

契約書は、売上を直接作るものではありません。
しかし、売上が立った後に発生する追加作業、クレーム対応、損害賠償、違約金などのキャッシュアウトを抑え、会社の利益を守る役割があります。

受注金額だけを見て、その案件の良し悪しを判断してはいけません。

  • どこまで仕事をすれば完了なのか
  • どのような場合に無償対応をするのか
  • いつまで責任を負うのか
  • 損害賠償にはどのような範囲と上限があるのか。

こうした条件まで含めて、初めてその売上の本当の価値が分かります。

契約書は、売上の額を決めるだけの文書ではありません。
せっかく働いて得た売上を、不必要に外へ流出させず、利益として会社に残すための防衛線です。

売上を上げることと同じくらい、売上を守ることにも目を向ける。
その視点が、厳しい環境の中でも儲けを残し、会社を存続させていくために必要なのです。


【音声解説】

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▽ 音声はこちら(stand.fm)


🔎 参考記事

ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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