ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.甲乙双方の消印がされていないのですが、問題ないのでしょうか
- 2.印紙は「誰か一人」が消していればよい
- 3.「斜線を引けばよい」は注意
- 4.消印の目的は、印紙の再使用を防ぐこと
- 5.相手から返ってきた契約書を見るときの確認ポイント
- 6.社内ルールはシンプルにしておく
- 7.まとめ:印紙は「誰かが正しく消していればよい」
- 🔎 参考記事
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.甲乙双方の消印がされていないのですが、問題ないのでしょうか
契約書を2通作成するとき、収入印紙を貼る場面があります。
実務上は、自社が保管する契約書には相手方が収入印紙を貼り、
相手方が保管する契約書には自社が収入印紙を貼る、という運用をしている会社もあります。
ここで、よく出てくる疑問があります。
「現在キャビネットで保管されている契約書を見ると、収入印紙には相手方のハンコしか押されていません。
甲乙双方の消印がされていないのですが、問題ないのでしょうか」
つまり、印紙に相手方の消印だけがある状態です。
自社のハンコも追加で押さなければならないのか。
甲乙双方の消印がそろっていないと不備になるのか。
そのまま保管してよいのか。ここで迷う方は少なくありません。
結論から言えば、相手方が適切に消印していれば、通常は自社が追加で消印しなくても問題ありません。
印紙の消印は、甲乙双方が必ず押さなければならないものではないからです。
大事なのは、収入印紙が再使用できない状態になっているかどうかです。
そのため、相手方のハンコや署名によって、契約書本文と収入印紙にまたがる形で適切に消印されていれば、
自社側の消印がなくても、通常はそのまま保管して差し支えありません。
2.印紙は「誰か一人」が消していればよい
契約書に貼った収入印紙の消印は、契約当事者全員が行う必要はありません。
国税庁の通達でも、甲乙が共同して作成した契約書については、甲乙双方が消印しても、
甲乙のどちらか一人が消印しても差し支えないとされています。
印紙税法基本通達・第64条(共同作成の場合の印紙の消印方法)
2以上の者が共同して作成した課税文書にはり付けた印紙を法第8条《印紙による納付等》第2項の規定により消す場合には、作成者のうちの一の者が消すこととしても差し支えない。
つまり、大事なのは「誰が押したか」よりも、収入印紙が再使用できない状態になっているかどうかです。
整理すると、次のようになります。
| ケース | 取扱い |
|---|---|
| 甲乙双方が消印している | 問題なし |
| 甲だけが消印している | 問題なし |
| 乙だけが消印している | 問題なし |
| どちらも消印していない | 問題あり |
| 斜線だけ引いている | 消印としては不十分 |
したがって、相手方が印紙にきちんと消印している契約書が返ってきた場合、
自社のハンコを追加で押さなければならない、というわけではありません。
ただし、その消印が正しい方法でされているかは確認しておく必要があります。
3.「斜線を引けばよい」は注意
収入印紙の消印について、意外と多い誤解があります。
それは、
「印紙にボールペンで斜線を引いておけばよい」
というものです。
しかし、これは注意が必要です。
国税庁の説明では、単に「印」と表示したり、斜線を引いたりしても、印章や署名には当たらないため、
消印したことにはならないとされています(国税庁/『印紙税の手引』)。
課税文書の作成者は、原則として、課税文書に課されるべき印紙税相当額の収入印紙(以下、「印紙」といいます。)を張り付ける方法により印紙税を納付します。この場合には、自己又はその代理人、使用人その他の従業者の印章又は署名で、その課税文書と印紙の彩文とにかけて、判明に印紙を消す必要があります(法8、令5)。
なお、単に「印」と表示したり斜線を引いたりしてもそれは印章や署名に当たりませんから、印紙を消したことにはなりません。また、鉛筆で署名したもののように簡単に消し去ることができるものも、印紙を消したことにはなりません。
つまり、印紙の上にピッと線を引くだけでは足りません。
消印として認められるためには、文書と印紙の彩紋にかけて、印章または署名によって判明に消す必要があります。
ここでいう「判明に」とは、一見して誰が消印したか分かる程度、というイメージです。
| 方法 | 消印としての扱い |
|---|---|
| 会社の代表者印 | 可 |
| 会社の角印 | 可 |
| 担当者の認印 | 可 |
| 日付印・氏名/社名入りゴム印 | 可 |
| 自筆の署名 | 可 |
| 屋号・商号の自筆記載 | 可 |
| 斜線だけ | 不可 |
| 「印」と書くだけ | 不可 |
| 鉛筆・消えるボールペンでの署名 | 不可 |
鉛筆や消えるボールペンは、あとから簡単に消したり書き換えたりできるため、
印紙の再使用を防ぐという消印の目的に合いません。
実務上、「斜線で消していた」という会社もあるかもしれません。
しかし、税務上の取扱いとしては、斜線だけでは消印にならないため、
社内ルールを見直しておいた方が安全です。
4.消印の目的は、印紙の再使用を防ぐこと
なぜ、収入印紙に消印をする必要があるのでしょうか。
それは、印紙の再使用を防ぐためです。
収入印紙は「印紙税」という税金を納めるために貼るものです。
契約書などの課税文書に収入印紙を貼り、それを消印することで、その印紙は使用済みになります。
反対に、消印がされていなければ、印紙を剥がして別の文書に貼り直すことができてしまうかもしれません。
だから、文書と印紙にまたがるように消印をする必要があります。
ここで大切なのは、消印が「契約意思を示すハンコ」ではないということです。
契約書の末尾に押す記名押印は、契約当事者としての意思表示に関わるものです。
一方で、印紙の消印は、印紙の再使用を防ぐためのものです。
| 押印の種類 | 主な目的 |
|---|---|
| 契約書末尾の押印 | 契約当事者としての意思表示・確認 |
| 契印・割印 | ページ差し替えや文書の一体性確認 |
| 印紙の消印 | 収入印紙の再使用防止 |
この違いを押さえておくと、なぜ「甲乙どちらか一人でよい」のかが分かりやすくなります。
なお、印紙の消印は、契印・割印とは別の処理です。
契印・割印は、契約書のページ差し替え防止や、複数の書面の一体性を示すために行うものです。
一方で、印紙の消印は、収入印紙の再使用を防ぐために行うものです。
どちらも契約書に押すハンコなので混同されやすいですが、目的が違います。
5.相手から返ってきた契約書を見るときの確認ポイント
では、実務では何を確認すればよいのでしょうか。
相手から契約書が返ってきたときには、次の点を確認するとよいです。
| 確認ポイント | 見るべき内容 |
|---|---|
| 印紙が貼られているか | 課税文書で必要な場合に印紙が貼付されているか |
| 印紙に消印があるか | 文書と印紙にまたがって消されているか |
| 消印の方法は適切か | 印章または署名で消されているか |
| 斜線だけでないか | 線を引いただけになっていないか |
| 鉛筆や消えるペンでないか | 簡単に消せる方法になっていないか |
| 誰が消したか分かるか | 一見して消印者が分かる程度か |
消印は、収入印紙の上だけに押すのではなく、契約書本文と収入印紙の両方にまたがるように押します。
印紙だけにハンコが押されていると、再使用防止として不十分に見えることがあるためです。
たとえば、相手方の会社の角印が、契約書本文と収入印紙にまたがって押されている。
このような場合は、一般的には問題ありません。
一方で、印紙の上にボールペンで斜線だけが引かれている場合や、
誰が書いたか分からない記号だけがある場合は、消印として不十分と考えた方がよいです。
その場合は、相手方に確認するか、自社側で適切な消印を行っておくことを検討します。
6.社内ルールはシンプルにしておく
印紙の消印については、社内で複雑なルールにしすぎる必要はありません。
ただし、最低限のルールは決めておいた方がよいです。
たとえば、次のような運用です。
| 場面 | 社内ルール例 |
|---|---|
| 自社で印紙を貼る場合 | 自社の角印・代表者印・担当者署名などで消印する |
| 相手が印紙を貼った契約書が返ってきた場合 | 相手方の適切な消印があれば追加押印不要 |
| 斜線だけの場合 | 消印として不十分な可能性があるため確認する |
| 消えるペン・鉛筆の場合 | 使用しない |
| 電子契約の場合 | 印紙税の要否を別途確認する |
実務上は、代表者印で消印する必要はありません。
角印、日付印、氏名・社名入りのゴム印、自筆署名などでも、要件を満たせば差し支えありません。
大事なのは、文書と印紙にまたがって、誰が消したか分かる形で、簡単に消せない方法で消すことです。
また、契約書の印紙税そのものについては、契約書の種類や記載金額によって判断が変わります。
- 請負契約なのか
- 売買契約なのか
- 継続的取引の基本契約書なのか
- 金額の記載があるのか
このあたりで印紙税額や印紙の要否が変わることがあります。
本記事では「消印の方法」に絞って解説しています。
なお、電子契約の場合には、印紙税の取扱いが紙の契約書とは異なります。
国税庁は、印紙税の課税対象となるのは課税物件表に掲げられた「文書」であり、
電磁的記録は文書に含まれないため、電磁的記録には印紙税は課税されないという見解を示しています。
そのため、電子契約を導入することで、紙の契約書に貼る収入印紙や消印の実務が不要になる場面があります。
ただし、電子契約の導入にあたっては、契約の成立方法、電子署名、社内承認フロー、
電子帳簿保存法上の保存方法など、別途確認すべき点もあります。
また、不要な収入印紙を貼ってしまった場合や、印紙税額を誤って多く納付してしまった場合には、
税務署で還付手続が可能なケースがあります。
具体的な印紙税額、還付の可否、電子契約の税務上の取扱いについては、
必要に応じて国税庁の情報や税務署に確認してください。
7.まとめ:印紙は「誰かが正しく消していればよい」
契約書に貼った収入印紙の消印については、難しく考えすぎる必要はありません。
ポイントは、次の3つです。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 誰が消すか | 甲乙どちらか一人でよい |
| どう消すか | 印章または署名で消す |
| 何のためか | 印紙の再使用を防ぐため |
相手方が適切に消印しているのであれば、自社が追加で消印しなくても問題ありません。
印紙の消印のような細かな実務も、一つずつ整理しておくことで、契約書を扱う不安は小さくなります。

【音声解説】
本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)
🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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