ビジネス法務

【実務ノート】「原則」と「例外」で、仕事の解像度を上げる

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次


1.法律は、丸暗記すれば使えるようになるのか?

法律を学ぶとき、どうしても条文や判例、細かい知識を覚えようとします。
もちろん、それは大事です。
法律を扱う仕事をする以上、知識が不要ということはありません。

ただ、実務で長く法律や契約書に向き合っていると、
単に知識をたくさん持っているだけでは足りないと感じます。

大事なのは、その知識をどう整理して、どう使うかです。
特に重要なのが、

  • 何が原則なのか
  • 何が例外なのか
  • その例外は、どのような場面でだけ使われるのか
  • 原則の背景には、どのような考え方があるのか

という切り分けです。
これができると、法律はかなり使いやすくなります。
逆に、原則と例外がごちゃごちゃになると、知識は増えているのに、現場で判断できなくなります。

これは、契約書だけの話ではありません。

  • 普通のデスクワーク
  • 行政書士試験の勉強
  • 許認可業務
  • 社内ルールの運用
  • お客様への説明

原則と例外で考える力は、かなり汎用性の高い仕事の基礎力であるように思います。
いわば、これも一つのポータブルスキルではないか。
今回は、そんな視点で整理してみます。


2.「原則」と「例外」で考える力は、知識を現場で使える形にする力である

法律や契約書を学ぶときは、丸暗記よりも「原則」と「例外」で整理することが大切です。
なぜなら、実務で出てくる問題の多くは、例外中の例外ではなく、
原則論とその応用で考える場面が多いからです。

もちろん、例外を知らなくてよいという話ではありません。
例外は大事です。
ただし、例外は、原則を理解しているからこそ意味があります。
原則を知らないまま例外だけを覚えると、知識がバラバラになります。
試験問題では答えられても、現場で使えない。
こういうことが起こります。

これは法律系資格試験でありがちです。
試験では、原則そのものよりも、例外や例外のさらに細かい部分が問われることがあります。

行政書士試験でも、原則をそのまま聞くより、

  • この場合はどうなるか
  • この例外は認められるか
  • この判例の場面ではどう判断されるか

という形で問われることが多いと思います。
そのため、勉強している側も、だんだん例外ばかり覚えようとします。

ただ、実務に入ると、実は原則論がものすごく大事です。

  • 相談を受けたとき
  • 契約書を作るとき
  • 許認可の要件を確認するとき
  • 役所に相談するとき
  • お客様に説明するとき

こういう場面で必要なのは、まず原則です。

  • この制度は、そもそも何を守ろうとしているのか
  • このルールは、何を通常の形として予定しているのか
  • どこまでが通常処理で、どこからが例外処理なのか

ここを押さえておくと、判断の軸がぶれにくくなります。
法律知識は、倉庫に積んでおくだけでは意味がありません。
必要な場面で取り出して、目の前の事例に合わせて使う必要があります。

そのときに役立つのが、原則と例外で整理する思考法です。
知識を仕事で使える形に編集する力とも言い換えられるように思います。


3.例外ばかり覚えて、原則を見失ってしまう

法律の勉強をしていると、例外に目が向きやすくなります。
例外の方が、試験によく出るからです。
普通のことより、少しひねったこと。
原則どおりではなく、特別に認められる場面。
通常とは違う扱いになる場合。
こういうところは、試験問題になりやすいのです。

そして、勉強している側も、

  • ここは引っかけだ
  • この例外は覚えないといけない
  • この判例は特殊だから押さえておこう

と考えます。
もちろん、資格試験の勉強としては大切です。

ただ、ここに落とし穴があります。
例外ばかり覚えていると、原則が弱くなります。
原則が弱くなると、目の前の相談が来たときに、まずどこから考えればよいか分からなくなります。

たとえば、行政書士試験の勉強で、行政手続法や民法、会社法などを学ぶとします。

細かい条文知識や例外規定を覚えることは必要です。
しかし、実務でお客様から相談を受けたときに、

  • これは行政手続法のどの考え方に関係するのか
  • これは民法上、どの契約類型に近いのか
  • この相談は、許認可の原則要件から見てどこが問題なのか

という大きな整理ができないと、知識が使えません。
知識はあるのに、判断の入口に立てない。
これが本当に危ないです。

契約書でも同じです。
例外的な条項や特殊な事例ばかり覚えていると、基本的な契約類型の理解が弱くなります。

  • 売買なのか
  • 請負なのか
  • 準委任なのか
  • 賃貸借なのか

この原則的な整理を飛ばしてしまうと、契約書全体の設計を間違えます。
条文単位ではそれらしいことを書いているのに、契約全体としては実態と合っていない。
こういうことが起こります。

普通のデスクワークでも同じです。
会社の業務には、たいてい「原則ルール」があります。

  • 請求書は月末締め翌月払い
  • 稟議は一定金額以上で必要
  • 契約書は発注前に確認する
  • 経費精算は領収書が必要
  • 社外に出す資料は上長確認を取る

こうした原則があります。

一方で、例外もあります。

  • 緊急案件だから先に進める
  • 少額だから簡易処理にする
  • 取引先との関係で特別対応する
  • 過去の経緯から通常とは違う扱いにする

このときに、原則と例外を区別せずに運用すると、社内ルールは崩れます。

「あのときはよかったのに、なぜ今回はダメなのか」
「誰が例外を認めたのか」
「例外がいつの間にか通常運用になっていないか」

こういう混乱が起こります。
原則と例外を分けて考えることは、法律の勉強だけでなく、仕事の秩序を守るためにも重要です。


4.原則は「判断の軸」、例外は「限定された調整」である

原則と例外を考えるうえで大事なのは、原則を単なる通常ルールとして見ないことです。
原則とは、判断の軸です。

  • なぜ、そのルールが原則になっているのか
  • 何を守るための原則なのか
  • どのような場面を通常の形として想定しているのか

ここまで考えると、原則はかなり使いやすくなります。

一方で、例外は、原則を壊すためにあるわけではありません。
例外は、限定された調整です。

  • 原則どおりにすると、かえって不合理になる
  • 原則どおりにすると、現場で危険が生じる
  • 原則どおりにすると、制度の目的から外れてしまう

こういう場面で、例外が出てきます。
つまり、例外は原則の否定ではありません。
原則を前提にしたうえで、特別な場面だけに認められる調整です。
ここを間違えると、例外が独り歩きします。

「こういう例外があるらしい」
「前に例外処理をしてもらった」
「別の人は認められた」
「だから今回も大丈夫だろう」

例外は、使える場面が限られています。
その場面に当てはまるかどうかを見極めるためにも、原則の理解が必要です。

とあるラジオ番組のリスナー投稿で、

「法律は丸暗記するのではなく、原則論と例外を区分けしてメリハリをつけて覚えると、忘れにくいし現場でも使いやすい」

という趣旨の話が紹介されていました。

その例として挙げられていたのが、黄色信号です。

黄色信号というと、感覚的には「注意して進め」と覚えている方もいるかもしれません。
しかし、道路交通法令上の黄色の灯火は、車両等について、原則として停止位置を越えて進行してはならないものとされています。
例外として、黄色の灯火が表示された時点で停止位置に近接しており、安全に停止できない場合は除かれます。

つまり、原則は「止まれ」です。
ただし、停止位置に近すぎて、安全に停止できない場合は、例外的に進行できる。

こう整理すると、覚えやすくなります。
「黄色は注意して進め」ではありません。
「黄色は原則止まれ。ただし、安全に停止できないほど近接している場合は例外」

このように原則と例外で切り分けると、実際の場面で判断しやすくなります。
これは法律の覚え方だけでなく、実務での判断にもそのまま使えます。


5.契約書・行政書士試験・許認可業務でどう使うか

では、この「原則と例外で考える力」は、実際の仕事でどのように使えるのでしょうか。
ここでは、契約書、行政書士試験、許認可業務、普通のデスクワークに分けて考えてみます。

▼契約書では、まず原則の契約類型を見る

契約書を読むとき、いきなり細かい条文に入ると迷子になります。
最初に見るべきは、原則的な契約の型です。

この契約は、何の契約なのか。

  • 売買なのか
  • 請負なのか
  • 準委任なのか
  • 賃貸借なのか
  • 秘密保持契約なのか
  • 業務提携契約なのか
  • 共同開発契約なのか

ここを押さえることが大切です。
なぜなら、契約類型によって、見るべきポイントが変わるからです。

  • 売買契約であれば、目的物、引渡し、代金、契約不適合責任などが重要になります
  • 請負契約であれば、仕事の完成、成果物、検収、報酬支払、修補や損害賠償が問題になりやすいです
  • 準委任契約であれば、業務遂行、善管注意義務、報告義務、稼働時間、成果保証をしない設計などが重要になります
  • 秘密保持契約であれば、秘密情報の定義、利用目的、開示範囲、返還・廃棄、存続期間がポイントになります

まず原則の型を見る。
そのうえで、例外的な事情を見る。

たとえば、Web制作契約であれば、単純な請負に見えることがあります。
しかし実際には、制作後の保守、更新、運用、サーバー管理、アクセス解析、改善提案まで
含まれていることがあります。

この場合、単純な請負契約のひな形だけでは対応しきれません。

原則は制作業務。
ただし、例外的・追加的に保守運用が含まれる。
さらに、月額契約として継続的な対応がある。
こう整理していく必要があります。

契約書は、例外の積み重ねでできている部分があります。
ただし、例外を積み重ねる前に、まず原則の型を確認する。
これが契約書の読み方・作り方の基本です。

▼行政書士試験では、例外問題から原則を逆算する

行政書士試験の勉強でも、原則と例外の切り分けは非常に重要です。
試験では、例外が問われることがあります。
しかし、それは単に例外を覚えているかだけを聞いているとは限りません。

  • なぜその例外があるのか
  • 原則は何か
  • その例外は、原則のどこを修正しているのか

ここを理解しているかを問われている場合があります。

たとえば、行政法でも民法でも、原則と例外の関係はよく出てきます。

  • 取消しと無効
  • 原則自由だが制限される場合
  • 原則として書面不要だが、一定の場合には書面が必要になる場面
  • 原則として許可が必要だが、軽微なものは除外される場面
  • 原則として届出で足りるが、一定の場合には許可や認可が必要になる場面

こうした問題を、例外の暗記だけで処理しようとすると苦しくなります。

むしろ、

  • 原則は何か
  • 例外はなぜ認められているのか
  • その例外は、どの要件を満たしたときだけ使えるのか

という形で整理した方が、記憶にも残りやすいです。

▼許認可業務では、原則要件を外すと危ない

行政書士の許認可業務でも、原則と例外の切り分けは重要です。
許認可は、基本的に要件の仕事です。

  • 誰が申請できるのか
  • どのような場所でできるのか
  • どのような人員体制が必要なのか
  • どのような財産的基礎が必要なのか
  • 欠格事由に該当しないか
  • 添付書類は何が必要か

まず原則要件を確認します。
ここを外すと、申請全体が危うくなります。
一方で、許認可業務には、例外的な取扱いが出てくることもあります。

  • 過去の経緯
  • 地域ごとの運用
  • 経過措置
  • 既存事業者への特例
  • 添付書類の代替書類
  • 個別事情に応じた補足説明

こうしたものです。
ただし、許認可における例外は、かなり慎重に扱う必要があります。
役所のライセンスに関する手続では、例外的な取扱いは限定的です。

「前に聞いたことがある」
「誰かがこう言っていた」
「別の自治体では通ったらしい」

この程度で例外処理に期待すると危ないです。
まず原則要件を満たしているか。
そのうえで、どうしても原則どおりにいかない部分について、例外的取扱いがあり得るのかを確認する。
この順番です。
例外探しから入ると、かえって時間がかかります。

▼普通のデスクワークでも、原則と例外は使える

この思考法は、法律や許認可に限りません。
普通のデスクワークにも使えます。

たとえば、社内の請求処理です。
原則として、請求書は月末締めで処理する。
例外として、取引先都合や緊急支払がある場合には、個別に対応する。

このとき、原則と例外を分けておかないと、処理が属人化します。

  • あの取引先は特別
  • あの担当者に言えば通る
  • 前もやってもらったから今回も

こうなると、経理や管理部門が疲弊します。

また、契約書の確認フローでも同じです。

  • 原則として、契約締結前に確認する
  • 例外として、緊急の場合には事後確認を認める場合がある
  • ただし、その場合でも、誰の承認が必要か、どこまでを例外とするかを決めておく

ここを曖昧にすると、例外が常態化します。
例外が常態化すると、ルールはルールでなくなります。
これは会社運営ではよくある話です。
「今回だけ」が積み重なって、いつの間にか通常運用になる。

そして、問題が起きたときに、

「なぜこんな運用になっていたのか」

と振り返ることになります。
原則と例外で考える力は、仕事の整理力です。
誰が見ても分かるように、通常ルールと特別対応を分ける。
これだけで、仕事の混乱はかなり減ります。


6.対応策・読み方・作り方|原則と例外で考えるための実務メモ

では、日々の仕事で「原則と例外」を使うには、どうすればよいのでしょうか。
ここでは、実務で使いやすい形に落としてみます。

▼まず「原則は何か」と言葉にする

最初にやるべきことは、原則を言葉にすることです。

  • 通常はどうするのか
  • 本来のルールは何か
  • 制度が予定している基本形は何か

これを一文で書き出します。

たとえば、

  • 黄色信号は、原則として停止位置を越えて進行してはならない
  • 契約書は、原則として締結前に内容を確認する
  • 許認可申請は、原則として法令上の要件を満たさなければならない
  • 請求書は、原則として所定の締日に基づいて処理する

このように書きます。
原則を言葉にできない場合、実は理解が曖昧です。
ここで一度止まることが大事です。

▼次に「例外は何か」を限定する

次に、例外を確認します。
ただし、例外は広げすぎてはいけません。

  • 場合によっては例外あり
  • 必要に応じて柔軟に対応
  • 個別事情を考慮する

これだけでは危ないです。

どのような場合に例外なのか。
誰が判断するのか。
どの範囲まで認めるのか。
証拠や記録は必要なのか。
一度認めた例外は、次回以降も使えるのか。

ここまで考える必要があります。

例外は、便利です。
しかし、便利だからこそ危ないのです。
例外を認めるなら、例外の条件もセットで考える。
これが大切です。

▼「原則に戻る」癖をつける

仕事で迷ったときは、原則に戻る癖をつけるとよいです。
細かい情報が増えるほど、人は迷います。

  • お客様の事情
  • 過去の経緯
  • 社内政治
  • 取引先との関係
  • 担当者の感情
  • 納期
  • 売上
  • 緊急性

いろいろな情報が入ってくると、何を優先すべきか分からなくなります。
そのときに、「そもそも原則は何だったか」と戻る。
これだけで、判断がかなり整理されます。

もちろん、原則どおりに処理できない場面もあります。
しかし、その場合でも、

  • 今回は原則から外れる処理である
  • なぜ外れるのか
  • 誰が承認したのか
  • 次回以降も同じ扱いにするのか

を明確にしておけば、混乱は減ります。

▼例外を説明するときは、原則から話す

お客様や社内に説明するときも、いきなり例外から話さない方がよいことが多いです。

  • まず原則を話す
  • 次に、今回の事情を話す
  • 最後に、例外的にどう扱うのかを話す

この順番が分かりやすいです。

たとえば、許認可業務であれば、

「原則としては、この書類が必要です」
「ただし、今回のケースではこの書類が取得できない事情があります」
「そのため、代替資料としてこの資料を提出できるか、事前に確認します」

という説明になります。

契約書でも同じです。

「原則として、契約締結後の追加作業は別途見積りにします」
「ただし、軽微な修正については一定回数まで基本料金に含めます」
「そのため、軽微な修正の範囲を契約書に書いておきます」

こう説明すると、相手も理解しやすくなります。
原則から話すと、説明に筋が通ります。


7.まとめ|「原則と例外」で考える力は、仕事の判断軸をつくる

今回のポイントを整理します。

  • 法律は、丸暗記だけでは現場で使いにくい
  • 実務では、「原則」と「例外」を切り分けて考えることが大切
  • 原則は判断の軸であり、例外は限定された調整である
  • 黄色信号の例でも、「原則止まれ、例外的に安全に停止できない場合は進行可」と整理すると理解しやすい
  • 法律系試験では例外が問われやすいが、実務では原則論とその応用が重要になる
  • 契約書作成、行政書士試験、許認可業務、普通のデスクワークにも、この思考法は応用できる
  • 例外を扱うときほど、原則に戻ることが大切

そして何より大事なのは、「原則と例外」で考える力は、単なる法律の覚え方ではないということです。
これは、仕事の判断軸をつくる力です。

仕事では、毎日のように例外が出てきます。

  • 急ぎの案件
  • 特別な取引先
  • 過去の経緯
  • 社内事情
  • お客様の要望
  • 現場の都合

そのたびに、なんとなく対応していると、ルールは崩れていきます。
しかし、原則が分かっていれば、迷ったときに戻る場所があります。

  • 本来はどうするのか
  • 今回はなぜ違う扱いをするのか
  • その例外は、次回以降も認めるのか
  • 誰が判断するのか

こう考えられるようになります。

契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
そして、「原則と例外」で考える力は、ルールや仕事の解像度を上げるための思考法です。

この順番を持っているだけで、仕事の判断はかなり安定します。
その意味で、「原則と例外」で考える力は、これからの仕事において使える
ポータブルスキルともいえるのではないでしょうか。


【音声解説】

本記事の内容は、
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▽ 音声はこちら(stand.fm)


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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