ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.話し合いのテーブルに着いてもらえれば、安心ですか?
契約書に、
「物価や為替相場が変動した場合には、代金の変更を協議できる」
と書いてある。これなら、仕入価格が上がっても安心でしょうか。
見積金額を出すときは、その時点での物価や為替相場を基準に計算しています。
しかし、その後に状況が変わり、「儲からなくなってしまった」どころか、「大赤字になってしまう」ということもあり得ます。
そこで、あらかじめ価格変更の協議について決めておくことには意味があります。
ただし、「協議できる」ことと、「価格が変更される」ことは別です。
相手に話し合いのテーブルに着いてもらった後、いくらに変更し、いつから適用するのか。
そこまで決まらなければ、実際の取引には反映できません。
今回は、価格変更の協議を申し入れた、その先を考えてみたいと思います。
2.「検討します」の間にも、納品日はやってくる
例えば、仕入価格の上昇を受けて、取引先に代金の変更を申し入れたとします。
相手からの返事は、「事情は分かりました。社内で検討します」。
ひとまず話を聞いてもらえたので、少し安心するかもしれません。
しかし、そのまま回答がないうちに、次の発注が入り、材料を仕入れる時期になり、納品日が近づいてきたらどうでしょうか。
こちらとしては、価格を変えてもらえる前提で話を進めていた。相手としては、まだ何も決めていない。
このような認識の違いが生じることも考えられます。
原則として、契約で決めたことは、契約どおりに実行しなければなりません。
物価が上がったという理由だけで、当然に代金を変更できるわけではありません。
当事者同士が合意をすれば変更は可能ですが、協議している間にも仕入れや納品は進みます。
「検討中」の時間にも費用が発生するところが、現場では切実な問題なのです。
3.「協議する」と「価格が変わる」は別の話
契約書に価格変更の協議について書いておくのは、状況が変わったときに、当初の条件を見直すためです。
しかし、「代金の変更を求めることができる」という条項と、「申し入れがあれば、その金額に変更される」という条項では、意味が違います。
協議によって価格を変更するのであれば、少なくとも次の三つを分けて考える必要があります。
| 段階 | 確認・決定すること |
|---|---|
| 協議を始める | どのような変化があれば、見直しを申し入れるか |
| 変更内容を決める | 代金をいくらにするか |
| 変更を適用する | いつから、どの発注分に適用するか |
「物価・賃金等の変動により、代金が適当でなくなったときは協議できる」という一文は、話し合いのきっかけになります。
ただ、それだけで変更後の条件まで決まっているわけではありません。
なお、契約書に協議条項がなければ、相手が協議を拒んでも問題ないということではありません。
中小受託取引適正化法(取適法;旧下請法)の対象取引では、価格協議の求めに応じないなどして、一方的に代金を決める行為は禁止されています。
そのうえで、自社の契約では、申し入れから条件の決定までをどう進めるか。
ここを具体的にしておきたいのです。
4.「いくら上げるか」と同じくらい、「いつから」が大事
例えば、話し合いの結果、「来月から単価を変更しましょう」と合意できたとします。
これで一安心、と思うかもしれません。「来月から」というのは、何を基準にしているのでしょうか。
来月の発注分からなのか。それとも、来月の納品分からなのか。
今月受注して来月納品する商品であれば、どちらを基準にするかによって、適用する単価が変わります。
こちらは新しい単価で請求したのに、相手から「それは今月発注した分ですから、旧単価ですよね」と言われるかもしれません。
すでに受注した分をどうするのか。これから受注する分だけを変更するのか。案件ごとに合意する必要があるのか。
金額について折り合いが付いても、この部分が曖昧だと、請求の段階でまた話し合わなければなりません。
当事者同士で合意して契約をアップデートするのであれば、「いくらにするか」と「どの取引から変えるか」をセットで決めることが必要です。
5.話し合いの進め方も、あらかじめ決めておく
では、価格変更の協議を進めるために、何を用意しておけばよいのでしょうか。
まずは、変更を求める理由です。
「物価が上がって大変です」だけでなく、当初の見積りから何が変わり、代金にどのような影響が出ているのかを説明できるようにします。
相手が判断するためにも、理由を具体的に伝えることは大切です。
そのうえで、話し合いの進め方を確認します。
- 申し入れを受けたら、いつまでに一次回答をするか。
- いつ協議し、価格変更の可否や条件を検討するか。
- 合意した金額と適用時期を、どの書面や記録に残すか。
一次回答の期限は、まず担当者を決める、協議の日程を示すなど、話が止まったままにならないための区切りです。
毎月発注する取引と、半年後に納品する案件とでは、必要なタイミングも違います。
自社の仕入れや受注の流れに合わせて、無理なく使える手順にしておきたいところです。
6.合意できなかった場合も、考えておく
もちろん、話し合えば必ず希望どおりの金額になるわけではありません。
相手にも事情がありますから、折り合わないこともあります。
その場合、もう一度協議するのか。双方の合意で仕様や数量、納期を調整する余地はないか。継続取引であれば、次回の更新や新しい受注をどうするか。
ここで分けて考えたいのが、「すでに引き受けた仕事」と「これから引き受ける仕事」です。
価格変更の協議がまとまらないからといって、すでに約束した納品を自由に止められるわけではありません。
一方、今後の受注については、基本契約などの定めも確認しながら、どの条件で引き受けるかを検討する必要があります。
返事を待つ間に、従来の価格で次々と約束を重ねてしまっては、問題が大きくなることもあります。
契約書に協議条項を入れるときには、合意できない場合の再協議や更新時の扱いなども、併せて考えておくことをおすすめします。
7.まとめ|価格協議は、金額と適用時期が決まるところまで考える
物価や為替相場の変動に備え、価格変更を協議する根拠を契約書に設けておく。
そのうえで、次の三つも確認してみてください。
- 協議できることと、希望する価格に変更されることは別
- 変更額だけでなく、いつから、どの取引に適用するかを決める
- 回答の期限や、合意できなかった場合の対応も考えておく
話し合いのテーブルに着いてもらうことは、最初の一歩です。
その後、条件を決め、実際の発注や請求に反映するところまで進める必要があります。
自社の価格協議条項には、申し入れた後の手順まで書かれているでしょうか。
契約書を確認される際には、ぜひその先まで読んでみていただければと思います。

【音声解説】
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🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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