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【契約書のトリセツ】契約書は口ほどにものを言う|自社から契約書を出すときの注意点

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.契約書は、ただの取引書類でしょうか

自社から契約書を出すとき、つい考えてしまうことがあります。

  • できるだけ自社に有利にしたい
  • 責任はなるべく負いたくない
  • 損害賠償は限定したい
  • 契約不適合責任もできれば軽くしたい
  • 違約金は払いたくない

これは、ある意味で自然な発想です。

経営層であれば、会社のお金を守りたい。
フリーランスであれば、自分の仕事と生活を守りたい。
どちらも当然です。

ただし、自社から契約書を出すときには、ひとつ大事な視点があります。

それは、

契約書は口ほどにものを言う

ということです。

  • 商談では丁寧に話していた
  • 相手に寄り添う姿勢を見せていた
  • 「長く良い関係を作りたいですね」と言っていた

それなのに、あとから出した契約書には、

「当社は一切責任を負いません」
「損害賠償は一切しません」
「契約不適合責任は負いません」
「違約金は支払いません」

と書いてあったら、相手はどう感じるでしょうか。

おそらく、こう思います。

「あれ、さっきの商談と話が違うぞ」
「結局、自分たちだけ守りたいのかな」
「何かあっても対応してくれない会社なのかな」

契約書は、思っている以上に相手にメッセージを伝えます。

特にコロナ禍以降、契約書は「読まれる時代」になりました。
以前であれば、契約書を細かく読まないまま進む取引も少なくありませんでした。
しかし、経営環境が厳しくなり、取引先もリスクに敏感になっています。

  • 支払条件
  • 納期
  • キャンセル
  • 損害賠償
  • アフター対応
  • 責任範囲

こうした条項を、以前よりもきちんと確認する会社や担当者が増えています。
つまり、契約書は「読まれる時代」になったのです。
だからこそ、自社から契約書を出すときには、「こちらに有利か」だけではなく、
「相手からどう見えるか」まで考える必要があります。


2.契約書は、現実の取引を映す“裏側の文書”である

契約書は、現実の取引の裏側にある文書です。
表側には、実際のビジネスがあります。

  • 商品を販売する
  • サービスを提供する
  • 成果物を納品する
  • 検収を受ける
  • 請求書を発行する
  • 代金を支払ってもらう

この現実の取引を、言葉にして整理したものが契約書です。

表側にあるもの裏側で言語化するもの
商談での説明契約目的・業務内容
商品・サービスの内容仕様・成果物・提供範囲
サポートの約束保証・契約不適合責任
代金のやり取り支払条件・請求方法
トラブル時の対応損害賠償・免責・解除
顧客への安心感分かりやすい条項・説明資料

つまり、契約書は「現実の取引を支える裏側の設計図」です。
ここで注意したいのは、契約書だけを現実以上に“盛って”しまうことです。

  • 実際の商談では、相手に寄り添う姿勢を見せている
  • 実際の商品説明では、丁寧なサポートを約束している
  • 実際の営業現場では、「困ったら相談してください」と伝えている
  • それなのに、契約書だけが極端に自社有利になっている。

このズレが、相手に警戒感を与えます。

表側の取引で良いことをしているなら、その良いことを契約書にも書けばよいのです。

  • 商談で約束していること
  • 現場で実際に提供していること
  • お客様に安心してもらうために続けている対応

それを契約書に正直に落とし込む。それが、信頼を生む契約書の作り方です。


3.自社ひな形を作ると、つい“脚色”したくなる

自社ひな形を作るとき、よくあるのが「自社に有利な脚色」です。
取引条件を標準化し、営業や経理、現場が迷わないようにするためには、とても大切です。
問題は、現実の取引や相手の期待を超えて、契約書だけを強くしすぎることです。

特に注意したいのは、次のような条項です。

条項自社側が考えがちなこと相手が受け取る印象
損害賠償できるだけ責任を負いたくない何かあっても補償しないのか
違約金払うリスクをなくしたい約束を破っても責任を取らないのか
契約不適合責任無償対応を減らしたい不具合があっても直してくれないのか
解除自社だけ柔軟に終了したい相手だけ不利ではないか
免責トラブル時の負担を減らしたい一方的に逃げる契約ではないか

ここで押さえておきたいのは、売主側と買主側では、そもそも利害が一致しにくいということです。

  • 売主側、つまりお金をもらう側は、責任を限定したい
  • 買主側、つまりお金を支払う側は、きちんと補償してほしい

このズレが出やすいのが、損害賠償、違約金、契約不適合責任です。

たとえば、売主側やサービス提供側としては、損害賠償責任をなるべく限定したいと考えることがあります。
ただし、何の説明もなく、

当社は一切責任を負いません。

と書いてしまうと、相手からはかなり強いメッセージとして受け取られます。

「え、何かあっても一切対応しないのですか?」

そう思われても仕方ありません。
契約書は、口ほどにものを言います。場合によっては、口以上にものを言います。


4.法律的に正しいことが、ビジネス上も正しいとは限らない

  • 法律的な防衛だけを考えれば、自社の責任はできるだけ限定した方がよい
  • 損害賠償の範囲も狭くした方がよい
  • 契約不適合責任も短く、軽くした方がよい

これは、法律的には一つの考え方です。
しかし、ビジネス上、それが常に正解とは限りません。

たとえば、顧客が一定の品質やアフターサポートを期待している商品・サービスであるにもかかわらず、
契約書に「当社は契約不適合責任を一切負いません」と書いてあったらどうでしょうか。

その瞬間に、顧客は不安になります。

「この会社、大丈夫かな」
「売った後は知らないということかな」
「トラブルになったら揉めそうだな」

その結果、商談が止まることがあります。
契約書で自社を守ろうとした結果、相手の信頼を失い、取引が成立しなくなる。
これでは本末転倒です。

契約書は、自社を守るためだけの文書ではありません。
取引を安全に前へ進めるための文書です。
大事なのは、法律的な防衛と、ビジネス上の納得感のバランスです。

私が契約書作成のサポートをするとき、いつも意識していることがあります。
それは、

契約書は「自社を守るための文書」であると同時に、「自社を儲けさせるための文書」でもある

ということです。

法律的に正しい契約書を作っても、商談が止まれば売上は立ちません。
責任を完璧に限定した契約書を作っても、信頼を失えば次の取引はありません。

  • 会社が安全運転できる
  • そして、その先に利益が残る
  • 従業員に還元できる
  • 研究開発に投資できる
  • 社会に貢献できる

そこまで考えて初めて、契約書は本当の意味で機能します。
法律的な正しさを完遂することと、会社にお金を残すことは、必ずしも一致しません。
ここが、契約書の難しいところであり、深いところです。

契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
そして、経営や事業の視点で見れば、利益を守り、ビジネスを前に進めるための設計図でもあります。


5.責任を限定するなら、理由が必要になる

もちろん、損害賠償や契約不適合責任を限定してはいけない、という話ではありません。
むしろ、事業内容によっては、きちんと限定しておくべき場合もあります。

たとえば、低価格でサービスを提供している場合です。

  • 市場価格よりかなり安い料金で提供している
  • その代わり、サポート範囲を限定している
  • 個別対応や無償修正は含まない
  • 損害賠償も、受領済みの報酬額を上限にする

このような設計には、合理性があります。
なぜなら、価格と責任範囲が連動しているからです。

契約条件相手に伝えるべき理由
損害賠償の上限を設ける報酬額とのバランスを取るため
無償対応期間を短くする低価格・短納期のサービス設計であるため
修正回数を限定する作業範囲と価格を明確にするため
免責事項を設ける自社で管理できないリスクを除外するため
契約不適合責任を限定する成果物やサービスの性質に合わせるため

ここで大切なのは、相手が納得できる理由があるかどうかです。
ただ自社に有利にしたいから限定する。
それでは、相手に不信感を与えます。

一方で、価格、サービス内容、リスクの性質、提供体制から見て合理的な理由がある。
その場合は、契約書に書く意味があります。

つまり、責任を限定すること自体が悪いのではありません。
理由なく、自社にだけ都合よく脚色することが危ないのです。


6.契約書を出す前に「相手からどう見えるか」を確認する

自社から契約書を出すときは、条文の正しさだけでなく、相手からどう見えるかを確認することが大切です。

私が契約書作成のご依頼を受けるとき、必ず確認することがあります。

「何のために、この契約書を作りたいのですか」
「お客様の客層は、どのような方が多いですか」

この2つです。

同じ契約書でも、相手が大企業なのか、中小企業なのか、個人のお客様なのか、
フリーランスなのかで、受け止め方は変わります。

契約書を読み慣れている相手もいれば、ほとんど読まない相手もいます。
かなり細かく確認する相手もいれば、あとから「聞いていない」と言いやすい相手もいます。

だからこそ、客層に合わせた出し方が必要です。

客層・相手の特徴契約書で工夫したいこと
契約書を読み慣れている相手条項の理由とバランスを整える
契約書をあまり読まない相手重要事項を別紙で説明する
クレーム化しやすい相手口頭説明と記録を残す
長期取引を重視する相手一方的な条項を避け、協議条項を整える
低価格サービスの顧客価格と責任範囲の関係を明確にする

特に、契約書だけで伝えきれない場合は、別紙や説明資料を使う方法もあります。

たとえば、契約書とは別に、

  • この契約のポイント
  • ご確認いただきたい主な条件
  • 責任範囲とサポート範囲の説明

のような一枚資料を用意する。

契約書の条文は、どうしても硬く見えます。
言葉尻も厳しくなりがちです。
そのため、相手によっては、契約書だけを見て警戒してしまうことがあります。
平易な言葉で補足する資料があると、相手も理解しやすくなります。

特に、読み慣れていない相手、契約書を細かく読まない相手、
あとから「聞いていない」と言いやすい相手には、こうした説明の工夫が有効です。

契約書は、出し方まで含めて設計する。
これが、自社から契約書を出すときの大事な視点です。


7.まとめ:契約書は、自社の姿勢まで伝えてしまう

契約書は、ただの書類ではありません。
自社の取引姿勢を伝える文書です。

  • どこまで責任を持つのか
  • どこから先は対応できないのか
  • 相手に何を求めるのか
  • 自社は何を約束するのか
  • トラブルが起きたとき、どう向き合うのか

契約書を脚色するのではなく、現実の取引の良さを契約書に正直に映す。
そのほうが、結果的に商談も進み、長く続く取引につながります。

自社から契約書を出す場面では、契約書は相手に対するメッセージにもなります。

「この会社は、こういう姿勢で取引をするのだな」

そう受け取られるのです。

契約書は口ほどにものを言う

契約書で守るべきものは、リスクだけではありません。
信頼も、商談も、将来の取引関係も守る必要があります。
そして、結果的にそれが、会社や個人事業の利益を守ることにもつながります。

契約書は、会社や事業者の本音が出る文書です。

だからこそ、自社から契約書を出すときは、条文の強さだけでなく、
相手に伝わるメッセージまで設計しておきたいところです。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


🔎 参考記事

ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


【ご質問受付中】

「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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