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【契約書のトリセツ】商談で提供した情報を守るには?|NDAを結ぶ前に考えるべき情報開示の実務感覚

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.商談で出した情報は、どうやって守ればよいのか?

ビジネスの商談では、どうしても情報を出さなければならない場面があります。

最初の表敬訪問や簡単な顔合わせの段階であれば、自社の重要な情報まで出すことは少ないと思います。
しかし、ある程度本格的にビジネスの話が進んでくると、状況は変わります。

買主側、つまりお金を払う側としては、

「この会社から本当に買ってよいのか」
「この会社に任せて大丈夫なのか」
「この人は本当に信頼できるのか」
「きちんとした商品やサービスを提供できるのか」

を確認したくなります。これは自然なことです。

一方で、売主側、つまりお金をいただく側、サービスを提供する側からすると、
商談段階でどこまで情報を出すかはかなり悩ましい問題です。

情報を売るコンサルティングサービスであれば、ノウハウの一部を見せなければ、相手は価値を判断できません。

物を売る商売でも、カスタマイズ製品、機械設備、設計が必要な商品、システム開発、建築、
Web制作、デザイン制作などでは、契約前の提案段階でかなり具体的な情報を出さなければならないことがあります。
しかし、出しすぎると危ない。

  • 提案書を渡したら、その内容だけ持っていかれる
  • 設計図や仕様案を見せたら、別の業者に流用される
  • コンサルティングの入口でノウハウを話しすぎて、契約前に相手が満足してしまう
  • 技術情報を開示したら、別ルートで商品化される

こういうリスクがあります。

では、商談で提供した情報を守るにはどうすればよいのでしょうか。
今回の記事では、秘密保持契約の使い方について整理します。


2.NDAは大事。ただし、NDAだけでは情報は守れない

結論から言うと、商談で重要な情報を出す前には、NDAを取り交わすことが基本です。
NDAとは、Non-Disclosure Agreementの略で、日本語では秘密保持契約(機密保持契約)といいます。

商談や業務提携の検討、共同開発の打診、M&Aの検討、外注先候補との打ち合わせなどで、
秘密情報を開示する前に結ぶ契約です。

以前は、NDAという言葉は法務や知財の関係者が使う専門用語に近いものでした。
しかし、最近では一般のビジネスパーソンの間でも、かなり普通に使われるようになりました。

大手企業との取引であれば、商談が少し進んだ段階で、

「まずNDAを締結しましょう」
「秘密保持契約を結んでから詳細資料を共有してください」
「NDA締結後に技術資料を開示します」

という流れになることも珍しくありません。
これは、情報の価値が高まっているからです。

個人情報、技術情報、営業ノウハウ、顧客情報、設計データ、価格情報、事業計画、提案内容。
こうした情報は、会社にとって大事な資産です。
したがって、商談開始前にNDAを結ぶこと自体は、今ではビジネスマナーに近づいていると感じます。

ただし、ここで大事な注意点があります。

NDAを結んだからといって、情報が完全に守られるわけではありません。

NDAはお守りではありません。
NDAを結んだとしても、相手が情報を漏らすことはあり得ないことではありません。

  • 提案書をコピーすることもできます
  • 資料データを社内外に転送することもできます
  • 打ち合わせで聞いたアイデアを、別の相手に話すこともできます
  • こちらの設計やノウハウを参考にして、別業者に発注することもあり得ます

もちろん、それがNDA違反になる可能性はあります。
しかし、後から違反を証明し、損害を回復するのは簡単ではありません。

だからこそ、NDAは大事ですが、NDAだけに頼ってはいけません。

契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
NDAも同じです。どの情報を、どの目的で、どこまで開示するのか。
これを整理するための入口設計として、NDAを使う必要があります。


3.NDAだから油断して、将来の飯の種を失う

NDAで怖いのは、目先のお金の話が出てこないことです。
売買契約書や業務委託契約書であれば、代金、納期、支払条件、成果物、責任範囲などが出てきます。

具体的な取引金額が書かれているので、

「この条件で本当に利益が残るのか」
「この支払サイトで資金繰りは大丈夫か」
「この納期で現場は回るのか」

と考えやすいです。

一方で、NDAには、具体的な取引金額が書かれていないことが多いです。

  • お互いの秘密情報を第三者に漏らさない
  • 目的外に使わない
  • 開示された資料を管理する
  • 必要がなくなったら返却・廃棄する

一見すると、そこまで危険には見えません。

そのため、

「とりあえずNDAだから押しておこう」
「これを結ばないと商談が進まないから仕方ない」
「お金の話ではないから、そこまで深く見なくてもいいだろう」

となってしまいがちです。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。
NDAの中に、将来の事業展開を縛る条項が入っていることがあります。

たとえば、

「本件取引に関連して生じた知的財産権は、すべて相手方に帰属する」

というような条項です。

NDAは本来、秘密情報の取扱いを定める契約です。
それなのに、知的財産権の帰属、成果物の権利、将来の開発成果、類似事業の制限などが入っていることがあります。

これをよく読まずに受け入れてしまうと、後で大変です。

  • 自社が以前から持っていたノウハウまで、相手方のもののように扱われる
  • 商談の中で出したアイデアを、相手に持っていかれる
  • 将来の事業展開に制限がかかる
  • 他社との取引や提案がしにくくなる

こうしたことが起きる可能性があります。
いわば、「お前のものは俺のもの」というジャイアン型のNDAです。

特に中小ベンチャー企業やクリエイター、コンサルタント、技術系企業にとっては危険です。
なぜなら、自社の価値そのものが、ノウハウやアイデア、技術、設計思想、提案力にあるからです。

そこを不用意に持っていかれると、将来の飯の種を失うことになります。
NDAは、目先のお金が書いていないから安全なのではありません。
むしろ、お金には換算しにくい大事な情報を扱うからこそ、慎重に読む必要があります。


4.NDAは「商談の入口設計」である

NDAの本質は、商談の入口設計です。
商談では、情報をまったく出さなければ、相手は判断できません。
一方で、情報を出しすぎると、自社の重要な資産が流出するリスクがあります。

つまり、商談段階では、

「相手に判断してもらうために必要な情報を出す」
「でも、自社のコアとなる情報は守る」

というせめぎ合いが起きます。ここを整理するのがNDAです。

ただし、NDAはただ結べばよいわけではありません。
特に見たいのは、次の3つです。

確認ポイント見るべき内容注意点
目的・守備範囲どの商談・どの検討のために情報を使うのか「一切の取引」など広すぎる目的になっていないか
権利関係知的財産権やノウハウの帰属がどう書かれているか自社の既存ノウハウまで相手に帰属するように読めないか
契約期間・存続期間秘密保持義務がいつまで続くのか自動更新や永久的義務になっていないか

まず、目的と守備範囲です。
NDAでは、情報を使ってよい目的をできるだけ絞ることが大切です。

たとえば、

「甲乙間の一切の取引に関する検討」

のように広く書かれている場合、どこまでが対象なのか分かりにくくなります。

できれば、

「〇〇工作機械の製作委託に関する検討」
「〇〇システム開発に関する事前検討」
「〇〇コンサルティングサービスの導入可否の検討」

というように、対象を具体化した方が安全です。

次に、権利関係です。
NDAの中に、知的財産権の帰属や成果物の扱いが入っている場合は注意が必要です。
秘密保持契約というタイトルであっても、契約書の中身はタイトルだけでは判断できません。
実際に書かれている内容が重要です。

そして、契約期間・存続期間です。
秘密保持義務は、一定期間残ることが多いです。
ただし、何でもかんでも永久に秘密にするのが適切とは限りません。
情報の価値は、時間の経過とともに薄れていくことがあります。
自動更新によって、いつまでもNDAが続いてしまう設計になっていないかも確認が必要です。

NDAは、商談の入口でありながら、将来の事業展開に影響する契約です。
軽く見てはいけません。


5.情報の出し方を工夫する

NDAを結んだとしても、情報の出し方には工夫が必要です。
一番分かりやすいのは、資料をデータで渡しすぎないことです。

  • 提案書のPowerPointデータ
  • 設計図のCADデータ
  • 詳細な原価計算表
  • 顧客リスト
  • 業務マニュアル
  • 技術仕様書

こうしたものを、商談初期にそのまま渡してしまうのは危険です。
データはコピーしやすいです。
転送もしやすいです。加工もしやすいです。
別の会社に渡すことも、技術的には簡単です。
そのため、商談段階では、紙で持参し、その場で説明し、その場で回収するという方法もあります。
かなり地味ですが、実務上は有効です。

また、資料には次のような表示を入れておくことも考えられます。

「極秘」
「取扱注意」
「無断転載・転用禁止」
「本資料の著作権は当社に帰属します」
「本資料は〇〇の検討目的に限り使用できます」

こうした記載だけで完全に守れるわけではありません。ただ、心理的な抑止効果はあります。
少なくとも、相手に対して、

「この情報は自由に使ってよいものではない」

というメッセージを明確にできます。

大事なのは、NDAと資料管理をセットで考えることです。
契約書だけで情報を守るのではなく、情報の渡し方、資料の形式、表示、回収方法まで含めて設計する。
これが、商談段階での情報防衛です。


6.対応策|出す情報を絞る

もう一つ大事なのは、そもそも出す情報を絞ることです。
NDAを結んだからといって、何でも出してよいわけではありません。
商談段階では、相手が本当に信用できる会社かどうか、まだ分かりません。

  • お金を払ってくれるのか
  • 契約を守ってくれるのか
  • 情報管理がしっかりしているのか
  • こちらのノウハウを尊重してくれるのか
  • 別の取引先に情報を流さないのか

まだ確信は持てないはずです。
その段階で、自社の秘密情報を丸裸にして出すのは危険です。

だからこそ、

「この情報は、今出す必要があるのか」
「ここまで出さないと、相手は判断できないのか」
「一部を伏せても説明できないか」
「サンプルや概要版で足りないか」
「詳細情報は契約締結後に出す形にできないか」

を考える必要があります。

私は、商談段階ではある程度、性悪説で考えた方がよいと思っています。
相手が悪用する可能性をゼロとは考えない、ということです。
世の中には、情報を引き出して別のところで使ってしまう人も一定数います。
だからこそ、最悪漏れても致命傷にならない範囲で情報を出す。
この感覚が大切です。

情報開示は、段階的に行うべきです。

  • 最初は概要
  • 次に限定的な詳細
  • NDA締結後に追加情報
  • 正式契約後に本格的な資料開示
  • 必要に応じて現地確認や限定開示

このように、商談の進行に合わせて情報を出す。一気にすべて出さない。
これが実務上の安全策です。


7.まとめ|NDAはお守りではない。情報を守る設計が必要

今回のポイントを整理します。

  • 商談段階では、相手に判断してもらうために一定の情報開示が必要になる
  • ただし、出しすぎるとノウハウや技術情報を持っていかれるリスクがある
  • 商談で重要な情報を出す前には、NDAを取り交わすことが基本になる
  • NDAでは、目的・守備範囲、権利関係、契約期間・存続期間を確認する
  • NDAの中に知的財産権や将来の事業展開を縛る条項が入っていないか注意する
  • NDAを結んだからといって、情報が完全に守られるわけではない
  • 資料をデータで渡しすぎず、紙で見せて回収するなど、情報の出し方を工夫する
  • そもそも商談段階で出す情報は絞る
  • 最悪漏れても致命傷にならない範囲で、段階的に情報開示する

NDAを結んだから安心して何でも開示してよい、というものではありません。
大事なのは、NDAを入口にして、

  • どの情報を出すのか
  • どの目的で使わせるのか
  • どこまで開示するのか
  • どの形式で渡すのか
  • いつ回収するのか
  • どの情報は最後まで出さないのか

ここを設計することです。

契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
NDAも同じです。
商談の中で何を守り、何を見せ、どこから先は正式契約後にするのか。
その境界線を引くための契約書がNDAです。

商談で情報を出すこと自体は、ビジネスに必要です。
ただし、情報は一度外に出ると、完全に戻すことはできません。
だからこそ、NDAを結ぶ。しかし、NDAだけに頼らない。

  • 出す情報を絞る
  • 出し方を工夫する
  • 資料に表示を入れる
  • データではなく紙で見せる
  • 段階的に開示する

このような現実的な防衛策を組み合わせることで、商談を前に進めながら、自社の大事な情報を守ることができます。
商談で提供した情報を守るには、契約書と運用の両方が必要です。
NDAは、そのための出発点であって、ゴールではありません。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


🔎 参考記事

ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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