ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.契約書に「3か月前予告」とあれば、本当に終了できるのか
10年、20年と取引を続けてきた会社との契約を終了させたい。
取引基本契約書を確認すると、
「期間満了の3か月前までに書面で申し出れば更新しない」
と書いてある。
それなら、3か月前に解約通知書を送れば、それで取引を終わらせられるのでしょうか。
結論から申し上げると、必ずしもそうとは限りません。
契約書に定められた手続を守ることは大前提です。
しかし、長年続いた取引では、契約書に書かれた通知期間だけでなく、これまで積み重ねてきた取引関係や、相手が抱いていた期待まで問題になることがあります。
2.取引終了は「通知」ではなく一つのプロジェクトである
長年続いた取引を終わらせる場合、解約通知書を送ることだけを考えてはいけません。
確認すべきなのは、
- 相手が自社との取引にどの程度依存しているか
- 自社のために設備や人員を用意しているか
- 未処理の注文や在庫が残っていないか
- 終了後も修理や部品供給が必要になるか
といった取引全体です。
つまり、契約終了は一通の通知書で完了する事務手続ではありません。
取引への影響を調べ、相手へ説明し、移行期間を設け、残った仕事やお金を精算する。
一つの「終了プロジェクト」として設計する必要があります。
3.社内で決まった「取引先の整理」を、そのまま外へ出してしまう
経営会議で、次のような方針が決まることがあります。
「取引先を整理しよう」
「取引金額が一定額に満たない会社とは契約を終了しよう」
「今後は別の業者へ発注を集約しよう」
経営判断として、取引先を見直すこと自体は珍しくありません。
問題は、社内で決まった方針を、担当者がそのまま相手へ伝えてしまうことです。
担当者が突然訪問し、解約通知書を1枚渡して、
「契約書に3か月前と書いてありますので、よろしくお願いします」
とだけ伝える。
こちらとしては契約書どおりに進めたつもりでも、相手には「長年付き合ってきたのに、紙切れ1枚で切られてしまった」と受け止められてしまう可能性があります。
社内で取引終了を決めることと、その判断を社外で実行することは別の問題です。
特に、相手に契約違反などの落ち度がない場合には、伝え方を誤るだけでトラブルの火種にもなり得ます。
4.契約書の文言と、積み重なった取引関係の両方を見る
民法第1条第2項は、権利の行使や義務の履行を信義に従って誠実に行うことを求めています。
いわゆる「信義誠実の原則」です。
民法第一条(基本原則)
私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
この考え方との関係で、継続的な取引を終了させる際には、
- 契約期間
- 当事者間の依存関係
- 相手の投資
- 終了理由
- 予告期間
などが問題になることがあります。
【参考】
参考:大阪地裁平成29年7月20日判決・裁判所ウェブサイト
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-87199.pdf
実際に、約40年間続いた商品供給契約について、裁判所は、契約上の3か月前予告という形式を満たしただけで当然に終了できるわけではないとしつつ、相手方の行為によって関係維持が困難になっていた事情を踏まえ、3か月経過後の終了を認めています。
ここから分かるのは、契約書の条文だけで機械的に決まるわけでも、長年の期待だけで永遠に取引を続けなければならないわけでもありません。終了に至った事情や方法が、個別に見られることがあります。
5.相手が自社専用の設備を導入していたら
例えば、取引先A社が、自社から継続的に発注される「部材α」を製造するため、数千万円の専用設備を導入していたとします。
しかも、自社がその導入を要請したり、設備投資の計画を承認したりしていたとしたらどうでしょうか。
A社からすれば、「これからも注文が続く」と考えるのは無理のないことです。
その直後に、契約書の通知期間だけを根拠として取引を終了すれば、設備投資を回収できなくなる可能性があります。
取引終了を検討するときは、次のような事情を確認します。
- 取引が10年、20年と長期間続いているか
- 相手の売上のうち、自社との取引が大きな割合を占めているか
- 自社専用の設備や人員を用意させているか
- 相手に落ち度がなく、自社の都合で終了するのか
- 契約上の最低期間だけで突然終了しようとしていないか
- 在庫、修理、保証、部品供給などの対応が残っていないか
ただし、相手が設備投資をしていれば、必ず取引を続けなければならないわけではありません。
誰の判断で投資したのか、自社が取引の継続を約束・示唆したのか、投資回収の期間をどのように想定していたのかなどによっても結論は変わります。
6.根回し、移行期間、終了契約書の3段階で進める
まず行うべきことは、取引関係の棚卸しです。
契約書だけでなく、過去の発注量、相手の設備投資、専用在庫、金型や支給品、未処理の注文、修理・保証の状況まで確認します。
重要な取引であれば、契約上の通知期限を迎える前に、弁護士へ法的な見通しを確認しておく方が安全です。
次に、早めの打診を行います。
相手への依存度や影響が大きい場合には、契約書に「3か月前」と書いてあっても、半年から1年程度の準備期間を検討することがあります。
担当者任せにせず、部長、取締役、場合によっては社長が相手へ出向き、長年の取引への感謝と終了の事情を丁寧に説明します。
必要であれば、発注量を段階的に減らす、一定期間は最低発注量を保証する、別の取引先を紹介するなど、着地点を話し合います。
最後に、合意した終了条件を終了契約書(覚書)にします。
終了日、最終発注、在庫や仕掛品の処理、金型や支給品の返還、未払金の精算、修理・保証、部品供給の期間、秘密情報や知的財産権の取扱いなどを整理します。
せっかく丁寧に話し合っても、書面に残さなければ、後から「言った・言わない」のトラブルに発展する可能性もあります。
取引の始まりを契約書にするのと同じように、取引の終わりも書面で凍結保存しておくことが大切です。
7.まとめ|契約を終わらせるとは、関係を丁寧に着地させることである
長年の取引は、解約通知書1枚では終わらないこともあります。
契約書に定められた通知期間を守ることは必要ですが、それだけであらゆるリスクがなくなるわけではありません。
取引期間、依存関係、設備投資、終了理由、移行期間などを含め、取引全体を確認する必要があります。
契約書は、取引を始めるためだけの文書ではありません。
長年続いた関係を揉めずに着地させ、次の事業へ進むための道具でもあるのです。
※継続的契約の終了に関する判断は、契約内容や取引経緯によって異なるため、重要な案件では弁護士の先生へご相談するなど、慎重な対応が必要です。

【音声解説】
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🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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