ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
1.立派な社内規程を作ったのに、なぜ運用されないのか
せっかく社内規程を作ったのに、社員から申請書や届出書が上がってこない。
その原因は、社員の意識ではなく、申請書の作り方にあるのかもしれません。
例えば、旅費規程を作る場合には、経費精算書、出張申請書、出張届などの書式も必要になります。
規程の中に出張の手続きや旅費の計算方法を書いても、社員が実際に使う申請書がなければ運用できません。
申請書があったとしても、何を書けばよいのか分からない、記入欄が多すぎる、承認を受ける順番が分からないという状態では、なかなか提出してもらえません。
私は、お客様の会社独自の契約書や社内規程を作成する仕事をしています。
その中で日頃から感じていることがあります。
それは、「何々届」や「何々申請書」といったオリジナル書式を作ることは、社内規程や契約書本体を作ること以上に難しいのではないか、ということです。
2.社内規程は、申請書まで作って完成する
社内規程は、社内の事業、制度、イベント、業務システムなどを動かすために定めるものです。
しかし、どれだけ立派な社内規程を作っても、社員から申請書や届出書が提出されなければ、制度は動き出しません。
社内規程を作るときには、その規程に基づいて、
- 誰が申請するのか
- 何を記入するのか
- どの資料を添付するのか
- 誰が確認するのか
- 誰が承認するのか
- 申請後の書類をどこに保存するのか
といった運用まで考える必要があります。
そして、その運用を形にしたものが申請書や届出書です。
言い換えれば、社内規程はルールやシステムの設計図であり、申請書はそのシステムを実際に動かすための道具です。
社内規程を生かすも殺すも、すべては申請書次第です。
規程本体を作っただけでは、まだ仕事の半分しか終わっていないともいえます。
3.役所の申請書を真似してしまう
オリジナルの申請書を作る際にありがちなのが、役所の申請書を参考にすることです。
建設業許可申請書や、身近なところでは住民票や戸籍の取得申請書などを思い浮かべてください。
たくさんの記入欄があり、注意事項が小さな文字で書かれています。
どこに何を書けばよいのか分からず、窓口で説明を受けなければ完成させられない書式もあります。
もちろん、役所の書式は、法令に定められた要件を満たし、多種多様な申請に対応するために作られています。
役所の書式自体が悪いという話ではありません。
ただし、会社独自の申請書を作る際に、そのまま真似することはおすすめできません。
現代の人々は、ネット上の分かりやすい申請フォームに慣れています。
質問に対してYes/Noを選び、画面の案内に従って次へ進めば申請が完了する。
そのようなインターフェースが当たり前になっています。
その状態で、昔ながらの堅苦しいフォーマットや、空欄だらけの申請書を渡しても、なかなか申請は上がってきません。
白紙の空欄を埋めるというのは、想像以上に難しい作業です。
「何を書けばよいのだろう」
「どこまで詳しく書けばよいのだろう」
「間違えたら怒られるのではないか」
こうした小さな心理的負担が積み重なり、申請が後回しになります。
その結果、せっかく作った規程が形骸化してしまいます。
4.申請書は、社内制度のユーザーインターフェースである
社内規程が制度を動かすためのシステムだとすれば、申請書や届出書は、そのシステムのユーザーインターフェースです。
社員が日常的に触れるのは、規程の条文ではありません。
出張するときには出張申請書を使い、経費を精算するときには経費精算書を使います。
備品を購入するときには購入申請書を提出し、副業を始めるときには副業届を提出します。
つまり、社員にとっては、申請書の使いやすさが、そのまま制度の使いやすさになります。
分かりにくい申請書を作れば、「この会社の手続きは面倒くさい」と思われます。
反対に、何をどこに書けばよいのかがパッと分かる書式であれば、社員は無理なく申請できます。
そのため、申請書は記入する人だけでなく、受け取って審査する人にも優しいものでなければなりません。
必要な情報があちこちに散らばっていると、審査する人は規程や添付書類と何度も見比べることになります。
確認に時間がかかり、差し戻しも増えます。
申請書は、記入、確認、承認、保存という一連の業務をつなぐものです。
単なる「紙」ではなく、社内の業務フローそのものなのです。
5.旅費規程より、経費精算書を作る方が難しい
例えば、1か月間に利用した公共交通機関の旅費を精算する書式を作るとします。
旅費規程では、利用日、利用した交通機関、乗車区間、金額、出張の目的、領収書の要否などを定めます。
これらの項目が申請書に反映されていなければ、会社は旅費規程に沿っているかを確認できません。
だからといって、規程に書かれている内容をすべて申請書へ移せばよいわけでもありません。
項目を増やしすぎれば、社員が記入するのを面倒に感じます。
審査する側も、必要な情報を見つけにくくなります。
ここにオリジナル書式作成の難しさがあります。
法令や社内規程で求められている事項を網羅することと、記入者・審査者の負担を減らすことは、一見すると二律背反です。
足し算をして、記入項目や注意書きを追加していくことは簡単です。
しかし、必要な情報は漏らさず、必要のない入力はさせない。
文字や記入欄を極限まで減らし、A4用紙1枚にまとめる。
この「引き算」の作業こそが、一番難しく、一番クリエイティブなのです。
法的なドキュメントは、分量が多いほど作るのが大変だと思われがちです。
ところが実際には、すべてのリスクや必要事項を押さえながら、短く分かりやすくまとめる方が圧倒的に難しいのです。
6.オリジナル書式を作る4つのポイント
オリジナルの申請書や届出書を作る際は、次の4つの視点から確認します。
| 視点 | 確認すること |
|---|---|
| 法令・規程 | 必要な情報が漏れなく含まれているか |
| 記入者 | 短時間で迷わず記入できるか |
| 審査者 | 判断に必要な情報を見つけやすいか |
| 運用 | 承認、処理、保存までつながっているか |
まず、法令や社内規程で求められている事項を網羅します。
申請後の審査や記録に必要な項目が抜けていては、書式としての役割を果たせません。
次に、記入する人と審査する人の負担をできるだけ減らします。
記入欄を減らすだけでなく、選択式にする、記入例を入れる、不要な場合は書かなくてよい欄を明示するといった工夫も考えられます。
3つ目は、誰が見てもパッと分かるデザインにすることです。
どこから書き始め、どこに提出し、誰の承認を受けるのかが、一目で分かるようにします。
4つ目は、なるべく申請する人が何も考えなくても書けるようにすることです。
もちろん、社員に必要な判断までさせないという意味ではありません。
「何をどこに書けばよいのか」で迷わせず、本来必要な判断に集中してもらうという意味です。
ネット申請のYes/No分岐のように、質問に答えていけば自然に必要事項がそろう形が理想です。
7.まとめ|申請書は、規程と現場をつなぐ最後の1メートル
社内規程を作ることは、社内制度を設計することです。
しかし、社員が申請書を提出し、担当者が確認し、責任者が承認し、その後の処理や保存まで行われなければ、制度が動いているとはいえません。
申請書や届出書は、規程と現場をつなぐ「最後の1メートル」です。
オリジナル書式を作る際には、法令や規程の要件を網羅したうえで、記入者と審査者の負担を減らし、誰が見てもパッと分かる形に整える必要があります。
書く内容を増やすのではなく、本当に必要な内容だけを残す。
なるべく申請する人が考えなくても、スムーズに記入できるようにする。
この「引き算」の設計が、社内規程を形骸化させず、実際の業務で機能させるポイントです。
社内規程は、規程本文だけで完成するものではありません。
社員が無理なく使える申請書や届出書まで作って、初めて完成します。

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🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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