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【契約書のトリセツ】支払われない・値切られるを防ぐために|フリーランスが発注書に残すべきこと(フリーランス保護法対応)

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.口約束だけで仕事を受けても大丈夫でしょうか

フリーランスの方からのご相談を受けていると、
技術やセンスだけでは解決できない悩みにぶつかることが多いように思います。

その一つが、お金の問題です。

  • 約束した日に支払われない
  • 請求した金額から勝手に差し引かれる
  • 納品後になって「もう少し安くなりませんか」と言われる
  • 振込手数料を引かれて入金される
  • そもそも発注内容が曖昧で、「これは依頼内容と違う」と言われる

こうした場面は、決して珍しくありません。
フリーランスの皆さんにとって、お金の問題は単なる金額の話ではありません。
生活、信用、次の仕事、仕事へのモチベーションに直結します。

特に、自分が責任を持って納品した成果物について、あとから値切られるのはつらいものです。
金銭的な損失だけでなく、自分の仕事の価値まで軽く扱われたように感じてしまうからです。

では、どうすればよいのでしょうか。
ポイントは、仕事を始める前に「約束を形に残しておく」ことです。

口約束は、忘れられます。
特に、お金をもらう側はよく覚えていますが、お金を支払う側は忘れてしまうことがあります。
だからこそ、記憶ではなく、記録で確認できる状態にしておく必要があります。


2.契約書が難しければ、まず発注書でもよい

理想をいえば、業務委託契約書をきちんと取り交わすのが一番です。
ただ、フリーランスの仕事では、毎回しっかりした契約書を作るのが難しい場面もあります。

  • 小さな案件
  • 単発の仕事
  • スピード感が求められる依頼
  • 相手が契約書に慣れていない場合

こうした場面で、「契約書がないなら受けられません」と毎回言うのは、
現実的ではないかもしれません。

その場合は、発注書、注文書、見積書への承諾、メールでの発注確認などでもよいので、
最低限の条件を形に残すことが大切です。

特に残しておきたいのは、次の5つです。

項目確認すること
発注内容何を作るのか、何をするのか
納期いつまでに納品するのか
対価いくら支払われるのか
支払方法どの方法で支払われるのか
支払日いつ支払われるのか

この5つが残っているだけでも、あとから説明しやすくなります。
逆に、ここが曖昧なままだと、「言った」「言わない」になりやすくなります。

なお、フリーランス保護法では、発注事業者側に、書面または電磁的方法で取引条件を明示する義務があります。
つまり、「発注書をください」「条件をメールで残してください」と求めることは、わがままではありません。
自分の仕事を守るための、ごく自然な確認です。


3.支払われない・遅れる・値切られる

フリーランスの金銭トラブルは、大きく分けると次の3つです。

トラブル具体例予防のポイント
支払われない納品後に連絡が取れない発注者情報・支払条件を確認する
支払いが遅れる月末払いのはずが翌々月になる支払日を明記する
値切られる納品後に減額を求められる対価と成果物を明確にする

特に悩ましいのは、納品後の値切りです。

「思っていたものと違う」
「予算が厳しい」
「この内容なら少し安くしてほしい」

こう言われると、立場上、強く言いにくいことがあります。
もちろん、成果物に明らかな問題がある場合は、修正対応が必要なこともあります。
ただ、発注内容が曖昧なままだと、発注者の主観で「期待と違う」と言われやすくなります。

また、フリーランス側に責任がないのに、発注時に決めた報酬を後から減らすことは、
フリーランス保護法上も問題になり得ます。

その意味でも、「何を、いくらで、いつまでに行うのか」を最初に残しておくことは、とても重要です。

イラスト、デザイン、ライティング、動画編集、Web制作などは、成果物の良し悪しに主観が入りやすい仕事です。
だからこそ、「何を作るのか」「どこまで対応するのか」「どの段階で確認するのか」
を事前に決めておく必要があります。
契約書や発注書は、自分の仕事を、あとから不当に軽く扱われないためのものです。


4.フリーランスも「事業者」として取引している

フリーランスは、当然ながら会社員ではありません。
取引の場面では、基本的に「事業者」として見られます。
つまり、「個人だから何となく守ってもらえる」というより、
事業として仕事を受けている人として扱われる場面が多いのです。

もちろん、現在はフリーランス保護法により、
発注者側に取引条件の明示や報酬支払いに関するルールも整備されています。

これは、とても大事な流れです。
実際、発注事業者側には、書面または電磁的方法で取引条件を明示する義務があります。
そのため、「発注書をください」「条件をメールで残してください」
と求めることは、わがままではありません。自分の仕事を守るための、ごく自然な確認です。

ただ、「法律があるから、何もしなくても守ってもらえる」というわけではありません。
仕事として受ける以上、自分の取引条件は自分でも確認しておく必要があります。
約束を記録に残していなければ、あとから「そういう約束でした」と説明することが難しくなるからです。

契約書や発注書は、トラブルになった後だけに使うものではありません。
トラブルにならないように、仕事の条件を最初に整えるためのものです。


5.発注書に最低限入れておきたい項目

契約書を毎回作るのが難しい場合でも、発注書や発注確認メールに最低限入れておきたい項目があります。

まずは、先ほどの5つです。

基本項目書いておきたい内容
発注内容制作物・作業内容・数量・仕様・修正回数など
納期初稿提出日、最終納品日、発注者確認期限など
対価金額、税込・税別、追加作業の扱いなど
支払方法銀行振込、振込手数料の負担など
支払日請求書受領後○日以内、納品月翌月末日など

さらに、フリーランス保護法の取引条件明示の考え方も踏まえると、次の項目もあわせて確認しておくと安心です。

追加で確認したい項目確認すること
発注者・受注者の名称誰から誰への発注なのか
発注日いつ業務委託をしたのか
納品・作業場所どこに納品するのか、どこで作業するのか
検査完了日検収・確認がある場合、いつ完了するのか

すべてを、かしこまった契約書の形にする必要はありません。
フリーランス保護法でも、取引条件の明示は、書面だけでなく、
メールやチャットなどの電磁的方法でも行うことができるとされています。

大事なのは、形式よりも中身です。
契約書、発注書、注文書、メール、チャット。
形式はいろいろありますが、仕事とお金の約束を“見える形”にしておくことが、フリーランスにとって大切な防衛線になります。


6.5つの項目の具体的な書き方

①発注内容

まず大事なのは、発注内容です。

  • 何を制作するのか
  • 何を納品するのか
  • どこまでが今回の仕事に含まれるのか

ここをできるだけ具体的にします。

たとえば、「バナー制作」だけでは曖昧です。
サイズ、点数、用途、納品形式、修正回数などまで書けると安心です。
必要に応じて、仕様書、ラフ案、絵コンテ、参考画像、構成案などを添付しておくとよいでしょう。

クリエイティブ系の仕事は、「イメージと違う」と言われやすい仕事です。
だからこそ、最初にゴールをできるだけ共有しておくことが大切です。

②納期

次に、納期です。

  • いつまでに納品するのか
  • 初稿の提出日なのか、最終納品日なのか
  • 発注者の確認期間はどうするのか

ここも明確にしておきたいところです。
また、発注者側の追加指示や素材提供の遅れがある場合には、納期が延びることがある、
という考え方も入れておくと実務上安心です。
たとえば、原稿や写真の提供が遅れたのに、当初の納期だけ守れと言われると、
受注者側に過度な負担がかかります。

納期は、受注者だけの責任で決まるものではありません。
発注者側の確認や素材提供も含めて、現実的に設計する必要があります。

③対価

対価は、金額だけでなく、税込か税別かも明記します。
「10万円」とだけ書いてあると、あとから税込なのか税別なのかでズレることがあります。

  • 税込110,000円なのか
  • 税別100,000円なのか

この違いは、実際の入金額に影響します。
また、追加作業が発生した場合の費用も、可能であれば書いておくとよいです。

  • 修正3回目以降は別途見積り
  • 仕様変更がある場合は追加費用
  • 当初合意した範囲外の作業は別途協議

こうした一文があるだけでも、あとから説明しやすくなります。

④支払方法

支払方法では、銀行振込なのか、別の方法なのかを明確にします。
銀行振込の場合は、振込先口座だけでなく、振込手数料をどちらが負担するのかも書いておきたいところです。
たとえば、次のような一文です。

報酬は、乙指定の銀行口座に振り込む方法により支払うものとし、振込手数料は甲の負担とします。

少額案件の場合、振込手数料が差し引かれるだけでも負担感があります。
「数百円くらいなら、わざわざ言いにくい」と感じるかもしれません。

しかし、フリーランス保護法の観点からも、
発注時に定めた報酬額から振込手数料を差し引いて支払うことは、報酬の減額として問題になり得ます。
その意味でも、「振込手数料は発注者の負担」と明記しておくことには意味があります。

これは、単に手数料の負担を決めるだけではありません。
「発注時に決めた報酬額を、あとから勝手に減らさないでください」という牽制にもなります。

お金の流れは、最初に決めておく。
これも、フリーランスが自分の仕事を守るための大切な実務です。

⑤支払日

最後に、支払日です。
「納品後に支払う」だけでは曖昧です。

  • 納品月の翌月末日まで
  • 請求書受領後14日以内
  • 納品後3営業日以内
  • 着手前50%、納品後50%

このように、具体的に決めます。
なお、フリーランス保護法では、報酬の支払期日は、
原則として給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で定める必要があります。

支払日は、できるだけ早い方が安心です。
法律上も、支払いを先延ばしにしない方向でルールが整えられています。

特に、値引きを求められた場合には、支払条件で交渉することも考えられます。

「金額を調整する代わりに、前金でお願いします」
「この金額で対応する場合は、納品後3営業日以内のお支払いでお願いします」

相手に譲るなら、こちらも条件を出す。
これはわがままではありません。事業者同士の条件調整です。


7.対応策:発注確認メールの形にしておく

発注書を作るのが難しい場合は、メールやチャットで発注確認を残すだけでも違います。

たとえば、次のような形です。

以下の内容でご発注いただく認識でよろしいでしょうか。

・発注者:株式会社○○
・受注者:○○
・発注日:2026年○月○日
・発注内容:○○用バナー画像3点の制作
・納期:2026年○月○日
・納品方法:指定メールアドレスへのデータ納品
・対価:金○○円(税込)
・支払方法:乙指定口座への銀行振込。振込手数料は甲の負担
・支払日:納品月の翌月末日まで

上記内容に問題がなければ、本メールへのご返信をもって正式発注として進行いたします。

このように書いて、相手から返信をもらっておきます。
できれば、「承知しました」「その内容でお願いします」だけでなく、内容が分かる形で返信が残るとより安心です。

発注書、注文書、契約書があるに越したことはありません。
ただ、まずは記録を残すことです。

  • 約束を記憶に任せない
  • 条件を見える形にする

ここから始めるだけでも、泣き寝入りのリスクはかなり下げられます。


8.まとめ:お金の話をしやすくするために、契約書がある

フリーランスにとって、お金の話はしにくいものです。

  • 支払ってください
  • 値引きは難しいです
  • その作業は追加費用です
  • 振込手数料はご負担ください
  • 前金でお願いします

こうしたことを毎回感情で伝えるのは大変です。

だからこそ、契約書や発注書に書いておくのです。

  • 書いてあれば、言いやすくなります
  • 書いてあれば、確認しやすくなります
  • 書いてあれば、相手も社内で説明しやすくなります

契約書は、相手と戦うためだけのものではありません。
お金の話をスマートにするための共通言語です。

フリーランスが安心して働くためには、技術やセンスだけでなく、条件を整える力も必要です。

  • 発注内容
  • 納期
  • 対価
  • 支払方法
  • 支払日

まずは、この5つを残すことから始めてみてください。
そして、可能であれば、発注者・受注者の名称、発注日、納品場所、検査完了日なども確認しておく。
それだけで、仕事の不安はかなり減るかと思われます。

約束を記憶に任せない。
仕事とお金の流れを、見える形にしておく。
それが、フリーランスが泣き寝入りしないための契約書実務です。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


🔎 参考記事

ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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