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【契約書のトリセツ】フリーランスが納期トラブルを防ぐには|契約書・発注書・再委託・フリーランス保護法も解説

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.納期トラブルをどう防げばよいのか?

「あの時、もう少しだけ余裕を見ておけばよかった」
「素材がいつ来るかも決めずに、納期だけ約束してしまった」
「『大丈夫です』と言った数日後、徹夜が続いた」
「再委託したくても、契約書で禁止されていた」
「結局、納期は守った。でも、次の月に体調を崩した」

これらは、納期トラブルを経験したフリーランスの方々から実際にお聞きした言葉です。

フリーランスの方々にとって、納期は単なる目安ではありません。
仕事の信頼を支える約束であり、同時に、自分の生活と健康を守る境界線でもあります。
では、納期トラブルをどう防げばよいのでしょうか。


2.納期だけでなく、起算点・資料提供・再委託まで確認する

フリーランスが契約トラブルを防ぐには、納期そのものだけでなく、
納期の起算点、発注者側の資料提供、修正対応、再委託の可否までセットで確認する必要があります。

単に、

「納期は○月○日です」

とだけ決めていると、後で困ることがあります。

  • 発注者から素材が届かない
  • 仕様が固まらない
  • 確認の返事が来ない
  • 修正指示が増える
  • 外部協力者を使いたいのに、再委託が禁止されている

こうした事情があると、当初の納期どおりに進めることが難しくなります。

納期を守れなかった場合、すぐに損害賠償請求になるとは限りません。
実務上は、発注者と相談しながら調整されることも多いです。
ただし、納期遅れによって発注者側に損害が出た場合には、契約違反として責任を問われる可能性があります。

たとえば、

  • 公開予定日にWebサイトが間に合わなかった
  • 広告配信日にバナーが納品されなかった
  • イベント当日に使う資料が完成しなかった
  • クライアントの販売開始日に必要なLPが公開できなかった
  • 動画納品が遅れて、キャンペーン開始がずれた

こうした場合、単に「少し遅れました」では済まないことがあります。

だからこそ、納期には余裕を持たせる。
そして、何が揃った時点から納期を数えるのか、遅れそうな場合にどう協議するのかを、
契約書・発注書・メールの中で確認しておくことが大切です。

契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
納期も同じです。「いつまでに何を出すのか」だけでなく、
「何が揃ったら納期が走り出すのか」「遅れそうなときにどう協議するのか」まで決めておくことが、自らを守ります。


3.契約書なしでも、メールだけで契約は成立している

フリーランスの仕事では、必ずしも毎回きちんとした契約書を取り交わすとは限りません。

  • 注文書や発注書だけの場合もあります
  • 見積書に対してメールで「お願いします」と返ってくる場合もあります
  • チャットで「この内容でお願いします」「承知しました。進めます」というやり取りだけで仕事が始まることもあります

ここで注意したいのは、契約書がなくても契約は成立し得るということです。
契約は、基本的には、発注者が「この仕事をお願いします」と申し込み、
受注者が「お受けします」と承諾することで成立します。

【参考】民法第522条(契約の成立と方式)
1.契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2.契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

つまり、メールやチャットだけでも、仕事内容、報酬、納期などについて合意していれば、契約が成立している可能性があります。

そのため、上記のような合意があるのであれば、正式な契約書がないからといって、

「まだ正式な契約ではない」
「納期はなんとなくの目安だ」
「支払条件は後で決めればよい」

とは考えない方がよいです。

特に、メールやチャットに次のような内容が残っている場合は重要です。

確認項目メール・チャットで残したい内容
業務内容何を制作・納品するのか
報酬金額、税別・税込、支払方法
納期初稿、修正版、完成版の期限
素材提供発注者がいつまでに資料を出すのか
修正対応何回まで、どの範囲まで対応するのか
支払時期納品後、検収後、月末締め翌月末払いなど
再委託外部協力者を使えるか

契約書がない案件ほど、メールやチャットの記録が大切になります。
後で「言った、言わない」にならないように、条件は必ず文字で残しておきましょう。

現在は、フリーランス保護法の観点からも、取引条件を文字で明示することの重要性が高まっています。
フリーランス保護法では、発注事業者がフリーランスに業務委託をする場合、
業務内容、報酬額、支払期日、給付を受領する期日などの取引条件を、
書面またはメール等の電磁的方法で明示することが求められています。

法律上の義務が発注者側にあるとしても、フリーランス側も「発注書やメールに何が書かれているか」を確認する必要があります。
契約条件が曖昧なまま仕事を始めてしまうと、納期、検収、支払、追加対応の場面でトラブルになりやすいからです。


4.納期は「発注者側の協力」とセットで考える

納期というと、受注者だけが守るものだと思われがちです。
もちろん、納期を守る責任は受注者側にあります。
ただ、実務では、受注者だけではコントロールできないことも多くあります。

たとえば、

  • 発注者から素材が届かない
  • 写真やロゴデータが揃わない
  • 原稿の確認が遅い
  • 発注者側の社内確認に時間がかかる
  • 仕様が途中で変わる
  • 修正指示が抽象的で作業できない
  • 検収の返事が来ない

こうした場合、受注者だけが納期遅れの責任を負うのは不合理です。
だからこそ、契約書や発注条件では、納期を単なる日付として書くだけでは足りません。

大事なのは、納期の起算点です。

  • いつから納期が始まるのか
  • 発注者から必要な素材・情報がすべて提供された日なのか
  • 仕様が確定した日なのか
  • 着手金の入金日なのか
  • 正式発注日なのか

ここを決めておく必要があります。

たとえば、次のような考え方です。

納期は、発注者から制作に必要な資料、素材、情報がすべて提供され、かつ仕様が確定した日を起算日として定めるものとする。

このような設計にしておけば、発注者側の資料提供が遅れたにもかかわらず、
当初の納期だけを一方的に守れと言われるリスクを下げられます。

また、納期が不透明な案件では、協議条項を入れておくことも大切です。

本業務の性質、仕様変更、資料提供の遅延その他やむを得ない事情により当初納期での履行が困難となる場合、協議のうえ、新たな納期を定めるものとする。

こうした一文があるだけで、実務上の調整がしやすくなります。
もちろん、何でもかんでも納期を延ばせるわけではありません。
ただ、フリーランス側でコントロールできない事情がある場合に、話し合いの余地を残しておくことは大切です。


5.納期と再委託はセットで見る

フリーランスが納期に間に合わせようとするとき、外部の協力者に一部をお願いしたくなることがあります。

たとえば、

  • デザインの一部を別のデザイナーに頼む
  • コーディングだけ外注する
  • イラストの一部を協力者に依頼する
  • 動画編集の一部を別の編集者に任せる
  • ライティングの一部を外部ライターに頼む

このように、自分が受けた仕事の一部を第三者(別の人)に手伝ってもらうこと、契約実務では「再委託」といいます。

ここで注意が必要です。
契約書には、次のような条項が入っていることがあります。

受注者は、発注者の事前の書面による承諾なく、本件業務の全部又は一部を第三者に再委託してはならない。

この条項がある場合、納期に間に合わせるためであっても、勝手に外部協力者へ仕事を振ると契約違反になる可能性があります。では、なぜ発注者は再委託を制限するのでしょうか。

理由はいくつかあります。

発注者が気にすること理由
品質「あなた」に頼んだのに、別の人が作ると品質が変わる
情報管理素材、顧客情報、未公開情報が外部に出る
責任の所在トラブル時に誰が責任を負うのか分かりにくい
スキル外部協力者の能力を発注者が確認できない
ブランド・信用発注者の顧客や社内情報に関わる可能性がある

発注者側の不安も分かります。
一方で、フリーランス側からすると、すべて一人で抱えると納期に間に合わないことがあります。
だからこそ、再委託の可否は事前に確認しておくべきです。

たとえば、契約時に次のような形で調整できる場合があります。

条項の方向性文言例
原則禁止受託者は、発注者の事前承諾なく、本業務を第三者に再委託してはならない。
事前承諾制受託者は、発注者の事前承諾を得た場合、本業務の一部を第三者に再委託できる。
一部自由受託者は、自己の責任において、補助的業務を第三者に再委託できる。
協力者リスト制受託者は、あらかじめ発注者に提示した協力者に限り、本業務の一部を再委託できる。

納期に不安がある案件ほど、再委託の条項は確認しておくべきです。
「納期」と「再委託」は、セットで考える必要があります。


6.フリーランス保護法の視点も押さえる

2024年11月1日から、フリーランス保護法が施行されています。
この法律では、発注事業者に対して、取引条件の明示、報酬支払期日の設定、一定の場合の禁止行為などが求められます。

特に納期トラブルとの関係で重要なのは、取引条件の明示です。
明示すべき事項として、業務委託をした日、給付の内容、給付を受領または役務提供を受ける期日、
検査をする場合の検査完了日、報酬額、支払期日などが示されています。

つまり、現在の実務では、フリーランス側も次の点を意識する必要があります。

確認項目フリーランス側が見るべきポイント
取引条件の明示業務内容・報酬・支払期日・納期が書面やメールで明示されているか
納期「いつまでに何を納品するか」が明確か
検査・検収検査完了日や検収の方法が曖昧でないか
支払期日納品後・検収後、いつ支払われるか
変更対応仕様変更や追加作業が発生した場合の扱いがあるか
再委託外部協力者を使えるか、事前承諾が必要か

報酬については、発注事業者は、給付を受領した日(=納品日)から原則60日以内の
できる限り短い期間内で支払期日を定める必要がある
とされています。
 ここで重要なのは、起算点が「納品日」であって「検収完了日」ではないという点です。
 「検収が終わってから60日」と誤解されがちですが、法律上は納品ベースで数えます。

ここで大切なのは、フリーランス保護法ができたからといって、
フリーランス側が何も確認しなくてよいわけではないということです。
法律は、取引条件の明示や支払期日のルールを整える方向に進んでいます。

しかし、実際の案件で納期をどう置くか、素材提供が遅れたらどうするか、
修正回数をどうするか、再委託を認めるかどうかは、契約書や発注条件の中で具体化していく必要があります。
フリーランス保護法は、最低限の土台です。その上に、自分の働き方を守る契約条件を積み上げる。
この感覚が大切です。


7.まとめ|納期は、仕事の信頼と自分の身を守る境界線

今回のポイントを整理します。

  • 納期は単なる目安ではなく、契約上の約束である
  • 起算点と協議条項をセットで決めると、トラブルを防げる
  • 納期と再委託はセットで見る

これらを支える法律として、フリーランス保護法は最低限の土台になります。

契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。納期は、その中でも特に重要な項目です。

報酬額はよく見る。でも、納期はさらっと流してしまう。

これは危険です。納期は、仕事の信頼に直結します。
同時に、フリーランス自身の働き方や生活を守る境界線でもあります。

  • 無理な納期を受ければ、睡眠時間を削ることになります
  • 品質が落ちるかもしれません
  • 他の案件にも影響を及ぼすかもしれません
  • 体調を崩すかもしれません
  • そして、納期遅れが契約違反として問題になる可能性もあります。

だからこそ、納期は慎重に決める。

  • 必要な資料が揃ってから納期を起算する
  • 遅れそうな場合の協議ルールを置く
  • 再委託できるか確認する
  • 条件はメールや契約書で残す
  • フリーランス保護法の取引条件明示の考え方も活用する

これが、フリーランスが自分の仕事を守るための実務感覚です。
納期を守ることは大切です。その前に、守れる納期を設定すること。
ここから、フリーランスの契約実務は始まります。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


🔎 参考記事

ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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