ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. イベント実行委員会は、善意だけで運営できるのか
- 2. 実行委員会ほど、始める前にルールを決めておくべき
- 3. 「地域を盛り上げよう」で始まったのに、お金と役割で揉める
- 4. 任意団体でも、実質的には契約関係で動いている
- 5. 実例|目的・収益分配・加入退会の3つを条文化する
- 6. 実行委員会規約・協定書・入退会届を用意する
- 7. まとめ|イベントを長く続けるために、暗黙知を言語化する
- 🔎 参考記事
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. イベント実行委員会は、善意だけで運営できるのか
地域イベント、マルシェ、交流会、展示会、コラボ企画、業界団体の催し。
こうしたイベントは、最初はとても前向きな空気で始まります。
「地域を盛り上げたい」
「業界を盛り上げたい」
「みんなで面白いことをやりたい」
「それぞれの得意分野を持ち寄ってイベントを成功させたい」
このような善意や熱意は、イベントを立ち上げる大きな原動力になります。
ただし、善意だけでイベント実行委員会を運営しようとすると、後から揉めることがあります。
特に、複数の事業者、団体、個人が関わるイベントでは、最初にルールを決めておかないと、成功しても失敗してもトラブルになることがあります。
- イベントが盛り上がれば、収益や権利の分配で揉める
- イベントが赤字になれば、損失の負担で揉める
- 手伝ってくれた人が増えれば、誰が正式メンバーなのかで揉める
だからこそ、実行委員会には、契約実務的な考え方が必要になります。
2. 実行委員会ほど、始める前にルールを決めておくべき
結論から言えば、イベント実行委員会ほど、始める前にルールを決めておくべきです。
イベント実行委員会は、株式会社のような法人ではなく、任意団体として動くことが多いと思います。
だからこそ、次のようなことを最初に言語化しておく必要があります。
- 誰がメンバーなのか
- 何を目的に活動するのか
- 誰が意思決定するのか
- 収益が出たらどうするのか
- 赤字が出たら誰が負担するのか
- イベント名やロゴなどの権利は誰に帰属するのか
- 途中で抜ける人が出たらどう扱うのか
「話し合えば分かる」
「みんな良い人だから大丈夫」
「地域を盛り上げるためだから揉めないはず」
このような性善説だけに頼るのは危険です。
もちろん、コミュニケーションは大切です。
しかし、多様な価値観を持つ人たちが集まる以上、コミュニケーションだけでは解決できないことがあります。
だからこそ、最初にルールを決める。
これは、メンバーを縛るためではありません。
イベントを”平和に続けるため”です。
3. 「地域を盛り上げよう」で始まったのに、お金と役割で揉める
イベント実行委員会でよくあるのが、最初の目的がふんわりしているケースです。
「地域を盛り上げよう」
「人が集まるイベントにしよう」
「出展者にも来場者にも喜んでもらおう」
一見すると、何も問題がないように見えます。
しかし、「盛り上げる」という言葉の意味は、人によって違います。
ある人にとっては、来場者数が多いことが成功かもしれません。
別の人にとっては、出展者の売上が上がることが成功かもしれません。
また別の人にとっては、地域の認知度が上がること、出展者同士がつながること、次年度以降も継続できることが成功かもしれません。
| 「盛り上がった」の意味 | 見ているポイント |
|---|---|
| 来場者が多かった | 集客数・動員数 |
| 出展者が喜んだ | 出展者満足度 |
| 売上が上がった | 売上・協賛金・収益 |
| 地域に人が流れた | 回遊性・地域波及効果 |
| 次年度につながった | 継続性・運営体制 |
この認識がずれたまま走り出すと、イベント後に揉めます。
「こんなに人が来たから成功でしょう」
「いや、出展者の売上は低かった」
「広報効果はあったのだから十分だ」
「赤字なら成功とは言えない」
このように、同じイベントを見ていても、評価が分かれてしまうのです。
4. 任意団体でも、実質的には契約関係で動いている
イベント実行委員会は、任意団体であることが多いです。
しかし、任意団体だからといって、ルールが不要になるわけではありません。
むしろ、法人格がないからこそ、メンバー間のルールを明確にしておく必要があります。
実行委員会には、実質的に次のような契約関係(類似のものも含む)が含まれています。
| 関係 | 契約書的に見るポイント |
|---|---|
| 実行委員同士 | 役割分担、意思決定、損益分配 |
| 実行委員会と出展者 | 出展料、禁止事項、キャンセル条件 |
| 実行委員会と協賛企業 | 協賛金、広告掲載、ロゴ使用 |
| 実行委員会と会場 | 使用料、使用時間、原状回復 |
| 実行委員会とボランティア | 活動範囲、報酬の有無、事故時対応 |
人が集まり、お金が動き、役割が発生し、権利が生まれる以上、そこには契約実務的な考え方が必要になります。
特に重要なのは、次の3つです。
- 1つ目は、目的を明確にすること。
- 2つ目は、収益と損失の分配ルールを決めること。
- 3つ目は、加入・退会のルールを決めること。
この3つを決めておくだけでも、かなりのトラブルを予防できます。
5. 実例|目的・収益分配・加入退会の3つを条文化する
実行委員会規約や協定書では、最低限、目的・収益分配・加入退会の3つを条文化しておくとよいです。
まず、目的条項です。「地域を盛り上げる」という言葉だけでは曖昧です。
どの地域を、どのような方法で、どのような状態にすることを目指すのか。
ここをできるだけ言語化します。
第○条(目的)
本実行委員会は、○○地域における交流促進、地域事業者の認知向上および来場者に対する○○体験の提供を目的として、○○イベントを企画、準備および運営する。
次に、収益と損失の分配です。ここは、イベント実行委員会で最も揉めやすいところです。
- 儲かったときにどうするのか
- 赤字になったときに誰が負担するのか
これを決めずに走り出すと、成功しても失敗しても揉めます。
第○条(収益および費用負担)
本イベントにより収益または損失が生じた場合の取扱いは、実行委員会であらかじめ定めた分配方法または負担割合に従うものとする。
実務上は、協賛金の割合、出資額、役割分担、事前合意した負担割合などを基準にすることが考えられます。
大切なのは、「終わってから決める」のではなく、「始める前に決める」ことです。
最後に、加入と退会のルールです。
イベントを盛り上げようとして、いろいろな人に声をかけることがあります。
すると、正式な実行委員なのか、単なるボランティアなのか、協力者なのか、出展者なのかが曖昧になることがあります。
この線引きが曖昧だと、後からトラブルになります。
第○条(実行委員)
1.本実行委員会の実行委員は、本規約の内容を承諾のうえ、所定の入会申込書を提出し、実行委員会の承認を受けた者とする。
2.イベント当日の運営補助者、ボランティアその他一時的に協力する者は、実行委員会が別途承認しない限り、実行委員には含まれない。
このように、正式な実行委員になるには、入会申込書と承認が必要だと書いておく。
これだけでも、「手伝っていたから自分も実行委員だ」「利益を分けてほしい」「意思決定に参加させてほしい」といったトラブルを防ぎやすくなります。
6. 実行委員会規約・協定書・入退会届を用意する
イベント実行委員会を立ち上げるときは、最低限、次のような書類を用意しておくとよいです。
| 書類 | 役割 |
|---|---|
| 実行委員会規約 | 目的、意思決定、損益分配、権利帰属を定める |
| 協定書 | 主要メンバー間の責任分担や費用負担を定める |
| 入会申込書 | 正式メンバーになる手続きを明確にする |
| 退会届 | 途中離脱時の扱いを明確にする |
| ボランティア参加同意書 | 実行委員との違い、報酬の有無、活動範囲を明確にする |
| 出展規約 | 出展者の禁止事項、キャンセル、責任範囲を定める |
| 協賛申込書 | 協賛金、掲載内容、ロゴ使用条件を明確にする |
このように書くと、「そんなに固くしなくてもいいのではないか」と思われるかもしれません。
しかし、イベントは多くの人を巻き込むからこそ、ルールが必要です。
特に、正式メンバーとボランティアの違いは、必ず明確にしておくべきです。
正式メンバーは、意思決定に関わり、損益にも関わる人です。
ボランティアは、イベント当日や準備作業を手伝う人です。
この2つは、役割も責任も違います。
| 区分 | 役割 | 収益分配 | 損失負担 |
|---|---|---|---|
| 実行委員 | 企画・準備・意思決定・運営 | 規約に従う | 規約に従う |
| ボランティア | 一時的な運営補助 | 原則なし | 原則なし |
| 出展者 | ブース出展・販売・展示 | 自己の売上 | 出展規約に従う |
| 協賛者 | 協賛金・物品提供 | 原則なし | 原則なし |
この線引きをしておくことで、後からの認識違いを防ぎやすくなります。
また、イベント名、ロゴ、チラシデザイン、写真、動画、SNSアカウントなどの権利関係も重要です。
- 誰が作ったのか
- 誰が使えるのか
- 次年度以降も使えるのか
- 実行委員会を抜けた人が使えるのか
ここも、できれば規約や協定書で整理しておくべきです。
7. まとめ|イベントを長く続けるために、暗黙知を言語化する
イベント実行委員会は、純粋な想いで始まることが多いです。
だからこそ、ルールの話はしにくいかもしれません。
「最初からお金の話をするのは感じが悪い」
「赤字の話をすると盛り下がる」
「入退会届まで用意すると堅すぎる」
そう感じる方も一定数いらっしゃると思います。
しかし、ルールを決めることは、イベントの熱量を下げることではありません。
むしろ、イベントを長く続けるために必要な土台です。
伝統のあるお祭りや行事には、明文化されていなくても、暗黙のルールがあることが多いです。
- 誰が正式メンバーなのか
- 誰が意思決定するのか
- 誰が費用を負担するのか
- 新しく入る人はどう扱うのか
- 何年か手伝って、ようやく正式メンバーになるのか
こうした暗黙知によって、運営が回っていることがあります。
だからこそ、とりわけ新しいイベントをつくる際には、暗黙のルールを言語化することが重要です。
契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。イベント実行委員会においても、それは同じです。
- 目的を言語化する
- 収益と損失の分配を決める
- 加入と退会の条件を明確にする
- 正式メンバーとボランティアを分ける
- 権利の帰属を決める
こうしたルールを事前に整えておくことで、イベント後のトラブルを防ぎ、次年度以降も安心して続けられる体制を作ることができます。
「地域を盛り上げよう」が揉め事に変わる前に、実行委員会のルールを、最初にきちんと言語化しておくこと。
それが、イベントを成功させ、長く続けるための土台です。

【音声解説】
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🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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