ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.「覚書」と書いてあると、なぜ安心してしまうのか
先日、お客様からこんなことを聞かれました。
「契約書ではなく覚書というタイトルなら、法的な効力は少し弱くなるのでしょうか」
実務をしていると、これは本当によく受ける質問です。
「契約書」と書かれていると、皆さん身構えます。
きちんと読まなければならない、場合によっては専門家に見てもらおう、と考えます。
ところが、「覚書」「確認書」「協定書」「念書」などと書かれていると、なぜか少し警戒心が緩みます。
A4用紙1枚程度であれば、なおさらです。
相手から
「これは正式な契約書ではありません。ただの覚書ですから、とりあえずここにハンコを押しておいてください」
と言われ、そのまま押してしまう方もいます。
しかし、その判断はかなり危険です。
2.タイトルに法的な序列はない
結論から申し上げますと、「契約書の方が覚書より偉い」「念書だから契約書より効力が薄い」といった、タイトルによる法的な序列はありません。
契約というのは、原則として「申込み」と「承諾」というコミュニケーション、つまり当事者の意思表示が合致することで成立します。
その約束が書面に表されていれば、タイトルだけを理由に効力が強くなったり、弱くなったりするわけではありません。
大切なのは、表紙に何と書かれているかではなく、その中で誰が、誰に対して、何を約束しているかです。
タイトルはいわば、書面の「表札」にすぎません。
家の中に何があるのかは、扉を開けて本文を読まなければ分からないのです。
3.「ただの覚書ですから、とりあえずハンコを」
ここで絶対に注意していただきたいのが、次のような説明です。
「これはタイトルが覚書だから、契約書よりも効力が薄いんです。あくまで仮の約束ですので、とりあえずハンコを押してくれませんか」
はっきり申し上げて、これは非常に悪質な営業トークです。
その場では「仮の約束」と言っておきながら、後になって支払いを求める段階になれば、「覚書にサインしていますよね。ここに金額も書いてあります」と迫ってくるかもしれません。
タイトルが覚書であっても、本文に代金の支払い、損害賠償、自動更新、中途解約の制限などが書かれていれば、その内容に応じた権利や義務が生じます。
書面の名前を柔らかくすることで、相手の心理的なハードルを下げる。
こうしたやり方が現実にあり得ることは、ぜひ知っておいてください。
4.タイトルを隠して「動詞」を読む
私がおすすめしたいのは、契約書面を確認するとき、タイトルをいったん隠してみることです。
そして、本文に出てくる「動詞」に注目してください。
| 本文に出てくる言葉 | 確認したいこと |
|---|---|
| 支払う | いつ、誰が、いくら支払うのか |
| 賠償する | どのような場合に、いくらまで負担するのか |
| 保証する | 何を、いつまで保証するのか |
| 更新する | 自動更新なのか、止める期限はいつか |
| 解除できる | 誰が、どのような場合に打ち切れるのか |
| 禁止する | 何をすると違反になり、どんな結果が生じるのか |
例えば、タイトルが「業務提携に関する確認書」であっても、本文に「最低1年間は解約できない」「中途解約の場合には残額を一括して支払う」と書かれていれば、決して軽い書面ではありません。
反対に、「契約書」という立派なタイトルがついていても、単に合意の基本方針だけを確認する内容かもしれません。
タイトルを隠すと、その書面の本当の重さが見えてきます。
5.「契約書」「覚書」「協定書」は何が違うのか
もちろん、実務上の呼び分けはあります。
一般的には、取引条件の全体を定めるものを「契約書」、既存の契約に簡単な変更や追加をするものを「覚書」、一定のルールや協力関係を定めるものを「協定書」、一方が約束を差し入れるものを「念書」や「誓約書」と呼ぶことが多いでしょう。
しかし、これはあくまでも実務上の慣例です。
売買、請負、賃貸借、委任など、いろいろな要素がミックスされた契約だからといって、「売買・請負・賃貸借・委任契約書」などという長いタイトルをつける必要もありません。単に「契約書」としても問題はありません。
結局、重要なのは第1条、第2条…と続く中身なのです。
6.印紙税もタイトルではなく中身で決まる
もう一つ、世間に蔓延している都市伝説があります。
「契約書というタイトルだと印紙代がかかるから、覚書に変えておこう」
という考え方です。
国税庁も、課税文書に該当するかどうかは、書面の名称や呼び方ではなく、そこに記載された内容の実質的な意味を汲み取って判断すると説明しています。
したがって、タイトルを覚書に変えても、中身が請負契約や継続的取引の基本となる契約書などの課税文書に該当すれば、印紙税の対象になり得ます。
印紙を貼らないまま税務調査などで発覚すれば、原則として本来の印紙税額の3倍に相当する過怠税が徴収されます。200円ならまだしも、4,000円、1万円の印紙代が3倍となれば、高額になり得ます。
印紙代を適法に抑えたいのであれば、紙の課税文書を作成しない電子契約の利用など、正面から方法を検討すべきです。
原本を1部だけ作り、相手には単なるコピーを渡す方法もありますが、コピーにも双方の署名や押印があるなど、契約の成立を証明する目的で作られたものは課税対象になることがあります。
「写し」と書けば必ず大丈夫という話ではありませんので、この点も中身と作り方の確認が必要です。
7.まとめ|柔らかいタイトルほど慎重に読む
「契約書」「覚書」「協定書」「念書」。名前はいろいろありますが、タイトルだけを見て書面の効力や重さを判断することはできません。
「ただの覚書ですから」と言われたときほど、いったん立ち止まってください。
- 自分は何をしなければならないのか
- いつ、いくら支払うのか
- 約束はいつまで続くのか
- 途中でやめられるのか
- 違反した場合、何を負担するのか
タイトルを隠し、本文の動詞を一つずつ拾っていくと、その書面によって自分が負う本当の責任が見えてきます。
書面のタイトルは、内容を整理するための便利な目印ではあります。
しかし、皆さんの権利や義務を決めるのは、その目印ではありません。
「覚書だから大丈夫」と安心するのではなく、「中に何が書かれているか」を確かめる。
これが、自分と会社を守る契約書の読み方なのです。

【音声解説】
本記事の内容は、
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🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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