ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.自社が無事なら、約束どおり納品できますか?
地震や水害が起きても、自社の建物や設備、社員に被害がなければ、いつもどおり仕事を続けられるでしょうか。
例えば、工場は動かせるけれど、仕入先が被災して部品が届かない。
商品は完成しているけれど、道路が寸断されて届けられない。
自社は無事でも、約束した納期に間に合わなくなることはあります。
そこで確認していただきたいのが、契約書の「不可抗力」というタイトルの条項です。
自社の仕事が止まってしまったときの責任や対応がどう決まっているか。そこまで読んでおくことが、有事への備えになります。
2.「どうしようもない」が、相手に伝わらない
災害の影響を受けている側からすれば、「この状況では納品できません」というのは、説明するまでもない話かもしれません。
しかし、離れた地域にいる取引先には、その状況が見えていないこともあります。
例えば、「御社の工場には被害がないのに、なぜ出荷できないのですか」と聞かれるかもしれません。
部品が届かなければ製造できないという事情も、説明しなければ分からないわけです。
自分ではどうしようもないのに、相手にそれが伝わらない。これは、契約を考えるうえで見落とせないところです。
私が「有事において不可抗力の条項は大事だな」と痛感したのは、まさにコロナ禍でした。
感染症そのものの影響に加えて、営業や移動の制限など、普段の取引では想定していなかった事情が重なりました。
そのときになって、「この契約では、こういう場合はどうなるのだろう」と確認することになるのです。
もちろん、事情を伝えれば、それだけで責任が免除されるわけではありません。
相手にも納品を待つ事情があります。
だからこそ、何が起きたらどう扱うのかを、平時のうちに整理しておきたいのです。
3.普段は見えない「取引の前提」がある
普段、取引先と確認するのは、商品やサービスの内容、価格、納期などでしょう。
その裏側で、どこから部品を仕入れ、どの配送ルートを使い、どのシステムに頼っているかまでは、話していないことが多いと思います。
ところが、有事には、その普段は見えていない前提が崩れます。
こちらは「部品が届かない以上、どうしようもない」と考える。
一方、相手は「部品の調達も含めて、納期を約束したのではないですか」と考える。
この認識の違いが、問題になるわけです。
民法では、契約上の義務を果たせず相手に損害を与えた場合でも、契約の内容や取引上の社会通念に照らして、責めに帰することのできない事情によるときは、損害賠償責任を負わないとされています。
「社会通念と言われても、具体的に何のことかよくわからない」と思われるかもしれません。実は、その感覚も大事なのです。
抽象的な言葉だけでは、当事者の理解が一致するとは限りません。
だからこそ、契約書では、どのような事情を想定し、その影響をどう扱うかを具体的にしておくのです。
4.災害の名前と、自社の仕事を結び付ける
不可抗力条項には、「地震、津波、台風、洪水その他の天変地異」などと書かれています。
ここで、災害の名前を確認して終わらせず、自社の仕事に引き寄せて考えてみてください。
例えば、次のようなつながりがあります。
| 止まるところ | 自社の仕事への影響 |
|---|---|
| 部品や原材料の仕入れ | 自社工場は動いていても製造できない |
| 道路や配送網 | 商品は完成していても届けられない |
| 通信回線や外部システム | データの受渡しやサービス提供ができない |
地震だけを思い浮かべていると、大雨による浸水や通行止めで仕事が止まる場面を見落とすかもしれません。
重大な感染症の流行や、それに伴う行政の措置なども、事業によっては影響を受けます。
ただし、仕入先が納期に遅れた、通信が止まったというだけで、必ず不可抗力になるわけではありません。原因や回避できた可能性、契約の定めなどによって判断は変わります。
「取引先の債務不履行」と広く書けば、通常の調達上のトラブルまで含むのかという問題も出てきます。
免責される項目をやみくもに増やすのではなく、自社では対応しきれないのは具体的にどのような事態かを考えることが必要です。
5.「責任を負わない」の先まで確認する
不可抗力条項に「損害賠償責任を負わない」と書かれていれば、それで安心でしょうか。
これは、実はとても難しいのです。
損害賠償の問題が整理できても、納期をいつまで延ばすのか、発注した側はいつまで待つのか、すでに受け取った代金をどうするのかという問題は残ります。
例えば、納品できる見通しが立たなければ、相手は別の調達先を探す必要があるかもしれません。連絡がなければ、その判断もできません。
そこで、不可抗力条項や関連する条項を読むときには、次の点も確認してください。
- 影響が分かったとき、いつ、どのように相手へ知らせるのか。
- 納期の変更や代替手段について、どう協議するのか。
- 履行できない状態が長引いたら、契約の終了や精算をどう扱うのか。
災害時は、まず人の安全を確保することが先です。
そのうえで、連絡できる状況になったとき、何を伝え、何を相談するかが決まっていれば、双方が動きやすくなります。
まずは主要な契約書を一通開き、「自社は無事でも、この仕事が止まる原因」を三つほど挙げてみてください。
契約書の担当者だけで分からなければ、仕入れや製造、配送などの現場担当者にも聞いてみる。その事情や、その後の対応が契約書から読み取れるかを確認し、不明な点は更新や新しい取引の機会に見直していくとよいと思います。
6.自社だけでは守れない約束もある
自分が責任を負える範疇であれば、負うべきです。
一方、自分ではどうしようもない事態についてまで、何の整理もなく引き受けてしまってよいのか。そこは分けて考えておきたいところです。
契約書というのは、トラブルが起きたときだけのものではありません。
有事に、何が起きたら仕事が止まり、相手と何を相談する必要があるかを、前もって考えるためにも使えます。
自社が無事でも、約束を果たせなくなることはあります。
だからこそ、「不可抗力」の文字を見つけたら、その先まで読んでみてください。
自社の仕事に当てはめて考えることが、いざというときに機能する「使える契約書」につながります。
7.まとめ|自社の仕事が止まる事情と、その後の対応を確認する
自社が無事でも、仕入先の被災や配送網の寸断によって、納品できなくなることがあります。
そのときの責任は、原因や契約の定めなどによって変わります。
不可抗力条項を確認するときは、次の三つを押さえておきたいところです。
- 自社の仕事が止まる原因として、どのような事情が想定されているか。
- その事情によって納品できない場合、責任をどう扱うか。
- 相手への連絡、納期の変更、長期化した場合の対応が決まっているか。
自分ではどうしようもない事情も、相手に伝わっているとは限りません。
いざというときに慌てないために、まずは主要な契約書を一通、開いてみていただければと思います。

【音声解説】
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🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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