ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. 遅延損害金は何%にするのが正解か
- 2. 遅延損害金は、数字ではなく立場で考える
- 3. 雛形の数字をそのまま使ってしまう
- 4. 遅延損害金は、支払期日を守ってもらうための設計である
- 5. 3%・5%・6%・10%・14.6%の意味を知る
- 6. 対応策|自社の立場から遅延損害金を確認する
- 7. まとめ|遅延損害金は、数字ではなく立場で考える
- 🔎 参考記事
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. 遅延損害金は何%にするのが正解か
契約書を見ていると、次のような条項を見かけることがあります。
「支払期日までに代金を支払わない場合、年3%の割合による遅延損害金を支払う」
「年14.6%の割合による遅延損害金を支払う」
ここでよく出てくる疑問が、
「結局、遅延損害金は何%にすればよいのか」
というものです。
- 3%でよいのか
- 5%や6%でもよいのか
- 14.6%にした方がよいのか
数字だけを見ると、雛形に書いてある数字をそのまま使いたくなります。
しかし、遅延損害金の割合は、自社の立場や取引先との関係によって考え方が変わります。
2. 遅延損害金は、数字ではなく立場で考える
結論から言えば、一般的な事業者間取引では、
遅延損害金はおおむね3%から14.6%の範囲で検討されることが多いです。
ただし、どの数字が常に正解というわけではありません。
- 自社がお金をもらう側なのか
- お金を払う側なのか
- 相手の支払能力に不安があるのか
- 相手との力関係はどうか
- 高い利率を入れることで、相手の心証を悪くしないか
こうした事情によって、適切な数字は変わります。
遅延損害金は、単なる罰金ではありません。
支払期日を守ってもらうための抑止力であり、支払遅延によって生じる損害を一定程度カバーするための契約条件です。
契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
遅延損害金も、「何%が一般的か」ではなく、「自社の立場と取引リスクに合っているか」で考える必要があります。
3. 雛形の数字をそのまま使ってしまう
遅延損害金の条項では、次のようなことがよくあります。
| よくある状態 | 起こりやすい問題 |
|---|---|
| 雛形にある3%をそのまま使う | 支払遅延への抑止力が弱い場合がある |
| 雛形にある14.6%をそのまま使う | 相手によっては強すぎる印象を与える |
| 5%や6%の意味を知らずに使う | 旧民法・旧商法の名残。相手から意味を問われた場合に備えて答えられるようにしておく |
| 遅延損害金条項を入れていない | 法定利率で処理されるが、契約上の意思表示が弱くなる |
| 売主・買主の立場を確認していない | 自社に不利な数字を受け入れてしまう |
特に多いのは、「前の契約書がそうなっていたから」という理由で、数字だけを流用してしまうケースです。
しかし、遅延損害金は、取引のお金の流れに直結する条項です。
自社がお金をもらう側であれば、支払遅延を防ぐための条件になります。
一方、自社がお金を払う側であれば、万が一支払いが遅れたときに負担が重くなる条件になります。
同じ条項でも、立場によって意味が変わるのです。
4. 遅延損害金は、支払期日を守ってもらうための設計である
遅延損害金の本質は、「支払期日を守ってもらうための設計」です。
契約書で支払期日を決めても、実際には支払いが遅れることがあります。
そのとき、遅延損害金の条項があると、支払う側にとっては「遅れると余計な負担が増える」という心理的な抑止力になります。
お金をもらう側にとっては、支払いが遅れた場合の損害を一定程度カバーする意味があります。
ここで押さえておきたいのが、法定利率と約定利率の違いです。
| 用語 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 法定利率 | 契約書に特別な定めがない場合に使われる法律上の利率。現在は年3%だが、3年ごとに見直される変動制 |
| 約定利率 | 契約書で当事者が決めた利率 |
| 遅延損害金 | 支払期日を過ぎた場合に発生する損害金 |
契約書に何も書かなければ、原則として法定利率が問題になります。
一方、契約書で遅延損害金の割合を決めておけば、その合意内容が重要になります。
つまり、遅延損害金の条項は、「支払いが遅れたときのルールを先に決めておく」ためのものです。
ルールは作った側が強い。
だからこそ、自社の立場に合わせて、数字の意味を理解したうえで設定する必要があります。
5. 3%・5%・6%・10%・14.6%の意味を知る
遅延損害金でよく見る数字には、それぞれ背景があります。
| 利率 | 実務上の見方 |
|---|---|
| 3% | 現在の法定利率を意識した数字。ただし、法定利率は3年ごとに見直される変動制 |
| 5% | 旧民法の法定利率の名残。現在も約定利率として定めること自体は可能 |
| 6% | 旧商法の商事法定利率の名残。現在も約定利率として定めること自体は可能 |
| 10% | 法令由来ではなく、3%より強め、14.6%より穏当な中間的設定 |
| 14.6% | 消費者契約では遅延損害金の上限として機能する数字。これを超える部分は無効となる |
お金をもらう側、つまり売主側・受託者側であれば、支払遅延を避けたいので、遅延損害金を高めに設定したくなります。
特に、初めて取引する相手や、支払いに不安がある相手であれば、10%や14.6%を検討することもあります。
一方、お金を払う側、つまり買主側・委託者側であれば、遅延損害金は低い方が望ましいです。
資金繰りの都合で支払いが遅れたとき、高い遅延損害金が積み上がると、自社の負担が重くなるからです。
また、相手が大企業や長年の取引先である場合、いきなり14.6%を提示すると、「当社が払わないと思っているのか」と受け止められる可能性もあります。
契約書は、取引を安定して進めるためのルールです。
そのため、利率は高ければよいというものではなく、取引の実態と相手との関係を見て決める必要があります。
6. 対応策|自社の立場から遅延損害金を確認する
遅延損害金の条項を見るときは、まず自社の立場を確認してください。
- 自社はお金をもらう側なのか
- それとも、お金を払う側なのか
この確認だけで、見え方が大きく変わります。
| 自社の立場 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| お金をもらう側 | 支払遅延を防ぐため、一定の抑止力を持たせる |
| お金を払う側 | 遅れた場合の負担が重くなりすぎないよう確認する |
| 相手の信用に不安がある | 高めの利率を検討する |
| 相手との関係を重視する | 強すぎる数字が交渉に与える影響も考える |
| 消費者契約・貸金など特殊な取引 | 別の法規制がないか確認する |
実務上は、3%、5%、6%、10%、14.6%といった数字の中から、自社の立場と取引リスクに応じて検討することが多いです。
ただし、あまりに高すぎる利率は、無効とされるリスクがあります。
特に、消費者契約や貸金取引などでは別の規制が問題になります。
たとえば、消費者契約では遅延損害金について年14.6%を超える部分が無効となります。
また、貸金取引では利息制限法など、別の規制も問題になります。
そのため、「高ければ高いほどよい」と考えるのではなく、現実的に説明できる数字かどうかを意識することが大切です。
7. まとめ|遅延損害金は、数字ではなく立場で考える
遅延損害金は、契約書の中では短い条項です。しかし、その意味は決して小さくありません。
- 支払期日を守ってもらえるか
- 支払いが遅れたときに、どの程度の負担が発生するか
- 相手にどの程度の抑止力を与えるか
- 自社の資金繰りにどのような影響があるか
これらに関わる重要な契約条件です。
遅延損害金は、3%が常に正解というわけでも、14.6%が常に正解というわけでもありません。
大切なのは、自社の立場と取引リスクに合っているかです。
契約書チェックの第一歩は、条文ではなく立場確認です。
自社がお金をもらう側なのか、払う側なのか。
この視点を持つと、遅延損害金条項の見え方が変わります。

【音声解説】
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🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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