ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.契約書の内容は、変えてはいけないものなのか?
- 2.契約書は、変えてよい。むしろ、約束できないことは変えるべき
- 3.契約書を「押印するための書類」だと思ってしまう
- 4.契約書は「約束できること」だけを書くもの
- 5.「変えてください」と言えるためには最低限の契約知識が必要
- 6.契約書を受け取ったときの確認ポイント
- 7.まとめ|契約書を変えることは、取引を誠実にすること
- 🔎 参考記事
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.契約書の内容は、変えてはいけないものなのか?
契約書について、セミナーや研修でお話ししていると、よく感じることがあります。
それは、契約書を
「相手から出されたら、そのまま受け入れるもの」
だと思っている方が意外と多いということです。
私はありがたいことに、企業研修や公的機関・団体等でのセミナーなど、
年間30回ほど登壇の機会をいただいています。
その中で、受講者の方から次のような感想をいただくことがあります。
「契約書の内容は変えてはいけないものだと思っていました」
「相手から出された契約書に、こちらから修正をお願いしてよいとは思いませんでした」
「契約書は押印するための書類だと思っていましたが、考え方が変わりました」
契約実務の現場では、とても自然な感覚だと思います。
契約書というと、どうしても堅い書類に見えます。
- 相手から出された契約書
- 会社のひな形
- 取引先の指定書式
- 基本契約書
- 覚書
- 注文書
こうしたものを見たときに、
「これはもう決まった書類なのだろう」
「こちらから修正をお願いしてはいけないのではないか」
「変えてくださいと言うと、相手に失礼なのではないか」
「契約書に手を入れるなんて、自分の立場ではできないのではないか」
そう感じてしまう方がいます。
特に、営業や現場担当の方は、相手との関係性もありますから、なおさらです。
でも、本当にそうでしょうか。
契約書の内容は、変えてはいけないものなのでしょうか。
今回の記事では、この素朴ですが非常に重要な問いについて整理します。
2.契約書は、変えてよい。むしろ、約束できないことは変えるべき
結論から言います。
契約書の内容は、変えてよいです。
むしろ、約束できないことが書かれているなら、変えるべきです。
ここを誤解してはいけません。
契約書は、単なる手続書類ではありません。
契約書は、当事者同士の約束を言語化したものです。
一度契約を結べば、原則として、その内容を守る必要があります。
- 納期を守る
- 支払期日を守る
- 仕様どおりに納品する
- 秘密情報を守る
- 検収手続を守る
- 損害賠償のルールを守る
契約書に書かれた内容は、実際の取引を動かします。
だからこそ、約束できないことをそのまま契約書に残してはいけません。
たとえば、
「この納期ではどう考えても間に合わない」
「この支払条件では資金繰りが厳しい」
「この損害賠償の範囲は広すぎる」
「この検収条件では、いつ請求できるのか分からない」
「この秘密保持義務は、自社の業務体制では管理しきれない」
こうした場合は、きちんと修正を申し出る必要があります。
契約書を変えることは、相手に反抗することではありません。
無理な約束をしないための確認です。
ここが本当に大事です。
契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
- その取引で、何を約束できるのか
- どこまでは対応できるのか
- どこからは難しいのか
- どの条件なら、安心して取引できるのか
これを明らかにするために、契約書を読み、必要に応じて修正するのです。
3.契約書を「押印するための書類」だと思ってしまう
実務でよくあるのが、契約書を「押印するための書類」として扱ってしまうことです。
相手から契約書が送られてくる。
社内で回覧する。
「問題なさそうです」
「いつもの契約書です」
「相手のひな形なので仕方ないです」
「急いでいるので、とりあえず進めましょう」
そうして、そのまま押印する。
こういう流れは、かなり多いです。
もちろん、毎回すべての条項をゼロから交渉する必要はありません。
- 取引金額が小さい場合
- リスクが低い場合
- 相手との関係性が安定している場合
- 過去に同じ条件で問題なく取引している場合
そういうケースでは、実務上、一定のスピード感も必要です。
ただし、契約書を「押印するための書類」とだけ考えるのは危険です。
契約書は、押印した瞬間に終わる書類ではありません。
むしろ、押印した後に効いてくる書類です。
- 不具合品を納入した場合
- 納期に間に合わなかった場合
- 支払が遅れた場合
- 仕様変更が発生した場合
- 成果物に問題があった場合
- 取引を終了したい場合
こうした場面で、契約書が出てきます。
「契約書にこう書いてありますよね」
と言われるわけです。
そのときになって、
「そこまで約束したつもりはありませんでした」
「この条項の意味を理解していませんでした」
「相手のひな形だったので、そのまま押してしまいました」
と言っても、簡単には済みません。
契約書は、手続書類ではなく、約束の文書です。
だからこそ、内容を確認し、必要であれば修正を申し出る必要があります。
4.契約書は「約束できること」だけを書くもの
契約書の本質は、約束の言語化です。
裏を返せば、約束できないことは書いてはいけない、ということです。
この視点があるだけで、契約書の見え方はかなり変わります。
契約書を読むときに、難しい法律用語ばかりを追いかける必要はありません。
まず見るべきなのは、
「これは自社が守れる内容か」
「これは相手に守ってもらう必要がある内容か」
「この条件で取引して、現場は回るのか」
「この約束を破った場合、どのような責任が生じるのか」
という点です。
契約は、結んだら守るものです。
もちろん、実務上は、事情が変わることもあります。
- 納期が変わる
- 仕様が変わる
- 担当者が変わる
- 価格が変わる
- 外部環境が変わる
ただ、そのときにどう協議するのか。
どのように変更するのか。
追加費用をどうするのか。
責任をどう分担するのか。
そこも含めて、契約書で設計しておくのが大切です。
- 不利な内容
- 不合理な内容
- 理不尽な内容
- 自社では到底守れない内容
そういう契約書であれば、無理に結ばないという選択肢もあります。
場合によっては、契約書を結ばず、法律の原則に従う方がまだよいこともあります。
または、問題が起きたときに協議して決める余地を残した方がよいこともあります。
もちろん、これはケースによります。
ただ、「契約書がある方が常に安全」とは限りません。
守れない契約書は、むしろ危険です。
契約書は、立派に見えるかどうかではありません。
その内容を本当に守れるか。
ここを見る必要があります。
5.「変えてください」と言えるためには最低限の契約知識が必要
契約書は変えてよい。
そう聞くと、少し安心する方もいると思います。
ただし、実際に変えるためには、最低限の契約知識が必要です。
どこを変えるべきなのか。
なぜその条項が危ないのか。
どのように修正すればよいのか。
相手にどう説明すればよいのか。
ここが分からなければ、修正を申し出ることはできません。
契約書には、独特の言葉遣いがあります。
- 直ちに/速やかに/遅滞なく
- ただし
- 前項にかかわらず
- 前条/本条/前項/前各項
- 契約不適合/損害/賠償
こうした言葉は、日常会話とは少し違う意味や重みを持つことがあります。
また、契約書には独特の構造があります。
- 本文と別紙がある
- 基本契約と個別契約がある
- 注文書や見積書が関係する
- 条項同士がつながっている
- 前の条文で定義された言葉が、後の条文で使われている
この読み方を知らないと、契約書のどこにリスクがあるのか見えにくくなります。
だからこそ、契約知識の基礎を学ぶことが重要です。
これは、明日からの実務で、自分の会社を守るための知識です。
私が研修やセミナーでお話しするときも、法律の細かい知識を覚えていただくこと自体を
目的とはしていません。
むしろ、目指しているのは、
「この条項は少し危ないかもしれない」
「ここは社内で確認した方がよさそうだ」
「このまま押印してよいか、一度立ち止まった方がよい」
と気づけるようになることです。
契約書の内容は変えてよい。ただし、やみくもに変えるのではありません。
- 自社が守れない内容を、守れる内容にする
- 曖昧な条件を、実務で動く条件にする
- 過度な責任を、現実的な責任範囲にする
- 相手との認識のズレを、事前に言語化する
このために、契約書を修正するのです。
6.契約書を受け取ったときの確認ポイント
では、相手から契約書を受け取ったとき、何を確認すればよいのでしょうか。
まず大事なのは、繰り返しになりますが、次の視点です。
この契約書に書かれていることを、自社は本当に守れるか。
ここから始めてください。
たとえば、納期です。
- 契約書や別紙に書かれた納期は、現場のスケジュールと合っていますか
- 相手から必要な資料や素材が遅れた場合、納期を変更できる設計になっていますか
次に、支払条件です。
- いつ請求できるのか
- 検収後何日以内に支払われるのか
- 支払サイトが長すぎないか
- 前金や中間金が必要な案件ではないか
次に、検収です。
- 検収期間は明確か
- 相手がいつまでも確認しない場合に、検収完了とみなす条項はあるか
- 不合格の場合、どのように通知されるのか
次に、責任範囲です。
- 損害賠償の範囲は広すぎないか
- 契約金額を超える責任を負う内容になっていないか
- 自社で管理できない第三者の問題まで責任を負わされていないか
次に、追加作業です。
- 当初の業務範囲を超えた作業が発生した場合、追加費用を請求できるか
- 仕様変更が起きた場合、納期や費用を協議できるか
これらを確認して、
「これは守れない」
「このままだと現場が回らない」
「この条件では利益が残らない」
「この条項はリスクが大きすぎる」
と感じた場合は、修正を検討します。
修正を申し出るときは、単に「これは困ります」と言うだけでは不十分です。
可能な限り、
「当社の実務上、この期間での対応は難しいため、〇営業日に変更をお願いします」
「この責任範囲では価格とのバランスが取れないため、損害賠償の上限を契約金額までとする修正をご提案します」
「発注者側の資料提供が遅れた場合には、納期を協議により変更できる内容にしたいです」
というように、理由と修正案をセットで伝えるとよいです。
7.まとめ|契約書を変えることは、取引を誠実にすること
今回のポイントを整理します。
- 契約書の内容は、変えてよい
- 相手から出された契約書を、そのまま受け入れる必要はない
- 契約書は、押印するための手続書類ではなく、守るべき約束を言語化した文書である
- 約束できないことを約束してはいけない
- 不利、不合理、理不尽な内容であれば、修正を申し出るべきである
- ただし、修正するためには最低限の契約知識が必要である
- 修正を申し出るときは、理由と代替案をセットで伝えるとよい
- 契約書の修正は、相手への反抗ではなく、お互いに守れる約束に整える作業である
契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
- その契約で何を約束するのか
- どこまで責任を負うのか
- いつ支払うのか
- いつ納品するのか
- 何が起きたら協議するのか
- どこからが追加費用なのか
これを言語化するのが契約書です。
だからこそ、契約書の内容は、ただ受け入れるものではありません。
- 自社が守れる内容か
- 相手にも守ってもらえる内容か
- 現場で動く内容か
- 取引として続けられる内容か
ここを確認し、必要があれば修正する。
約束できないことは約束しない。
これは取引を誠実に進めるために必要なことです。
シンプルですが、契約実務では本当に大事な感覚です。
契約書を受け取ったときは、ぜひ一度立ち止まってみてください。
「これは本当に守れる約束なのか」
そこから確認するだけで、契約書の見え方は大きく変わります。

【音声解説】
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▽ 音声はこちら(stand.fm)
🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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