ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに
起業したばかりの頃は、取引先との関係もまだ浅く、仕事を増やしたい気持ちから「細かい契約まではいいか」と思ってしまうこともあります。
しかし、ビジネスの現場では「知り合い同士だからこそ起きるトラブル」も少なくありません。
- 納期が守られない
- 請求書を出したのに入金がない
- 成果物の質が約束と違う
こうした「契約違反」に遭遇したとき、どう動けばいいのでしょうか。
そして、そもそもそうならないために何をしておけばいいのでしょうか。
目次
- 契約違反は“誰にでも”起こる
- 違反が起きたときの基本ステップ
- 契約書にルールを入れておく重要性
- 実際に使える条文例
- まとめ:契約は信頼を守るための仕組み
1. 契約違反は“誰にでも”起こる
起業初期の方ほど、「契約書を作るなんて大げさ」「相手を信用していないと思われそう」と感じがちです。
ですが、トラブルの多くは「人を疑わなかったから」ではなく、「ルールを決めていなかったから」起きます。
特に起業1年目では、次のようなケースが典型です。
- 知人経由で受けた仕事で契約書を交わさなかった
- 口約束のまま納期や支払い条件があいまい
- 成果物の仕様を「なんとなく」で進めた
これらはすべて、“契約書がなかった”または“内容が曖昧だった”ことに起因します。
契約トラブルは「悪意」ではなく「確認不足」で起きることが圧倒的に多いのです。
2. 違反が起きたときの基本ステップ
では、実際に契約が守られなかったとき、どう動けばよいのでしょうか。
感情的になる前に、次の3ステップで対応します。
Step1:契約書と証拠を確認する
- 契約書に「支払期日」「納期」「成果物の条件」がどう書かれているかを確認
- メール、請求書、納品物、チャットなど、やり取りの記録を整理
例:
「契約第5条に『検収日から30日以内に支払う』とあるのに、すでに40日経過している」
→ これは明確な支払遅延。
「納品期日を過ぎても成果物が届いていない」
→ 契約違反が客観的に確認できる。
Step2:相手に通知・説明を求める
まずは冷静に事実を伝えましょう。感情ではなく、契約を根拠に淡々と。
通知文の例:
「契約第5条に基づき、検収日から30日以内のお支払いをお願いしておりますが、○月○日時点で未入金です。至急ご確認をお願いいたします。」
「契約第3条に基づき、○月○日納品の予定ですが、現時点で完了しておりません。ご対応状況をご教示ください。」
この“通知”自体が、後の証拠としても大切です。
Step3:応じなければ次の手へ
通知しても改善が見られない場合は、次の段階へ。
- 履行の催告:「一定期間内に履行せよ」と正式に求める
- 契約解除:催告しても履行されない場合、契約を終了させる
- 損害賠償請求:遅延や不履行によって発生した損害を請求
- 弁護士相談・調停・訴訟:最終的な法的手段
★ただし、「軽微な遅延」などの場合は直ちに解除できないこともあります。
解除には「契約目的を達成できない程度に重大な債務不履行」が必要とされます(民法541条)。
また、契約書に別段の定めがある場合は、その規定が優先されます。
さらに、催告を行う際は「相当な期間(目安として7〜14日程度)」を設けることが望ましいです。
3. 契約書にルールを入れておく重要性
トラブルに強い会社は、例外なく「契約書でルールを明確にしている」会社です。
例えば、次のような条項を入れておくと、いざという時に冷静に動けます。
- 支払いが遅れた場合はどうするか
- 納期が遅れた場合の解除や違約金のルール
- 成果物の品質不良にどう対応するか
あらかじめ合意しておくことで、トラブル時に「どうするか」を都度話し合わずに済みます。
これは、起業初期の信頼構築にも大きな効果を発揮します。
4. 実際に使える条文例
以下は、起業1年目でも取り入れやすい基本条文例です。
(支払遅延)
甲は、乙が支払期日までに本契約に基づく代金の支払いを行わなかった場合、乙に対し、支払期日の翌日から支払済みに至るまで、年○%の割合による遅延損害金を請求できるものとする。
★補足:民法の法定利率は現在年3%ですが、合意によりこれを超える利率も設定できます。ただし、過大な設定は公序良俗に反するおそれがあります。
(納期遅延と契約解除)
乙が正当な理由なく納期までに成果物を納入しない場合、甲は相当期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がなされないときは、本契約を解除することができる。
★補足:催告期間は7〜14日程度を目安とし、契約書に別段の定めがある場合はその規定が優先します。
(成果物の品質)
乙は、納入した成果物が仕様書に適合しない場合、無償で修正を行うものとする。
重大な不適合がある場合には、甲は契約を解除することができる。
5. まとめ:契約は信頼を守るための仕組み
契約違反が起きたとき、まずは慌てずに
- 契約書と証拠を確認
- 契約を根拠に通知
- 応じなければ解除・請求へ
そして何より重要なのは、最初から契約書にルールを入れておくこと。
契約書は「相手を疑うためのもの」ではなく、
お互いの信頼を“守る”ための仕組みです。
起業1年目だからこそ、ルールを整えた契約書があなたのビジネスを支えます。
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